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may.29.2016 25年とこれからの時間 1
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久しぶりに見る泣き顔。
CMに映る正明をぼんやり見ながらそんなことを考えた。あのこはいつだって自分を優先するよりも我慢を選ぶ。思春期になってそれは顕著になり、単純に「お兄ちゃんだから」では片付けられない何かがあった。触れるべきか触れないべきか・・・。それが表面化したのは突然で、その時も涙をみせることはなかった。きつい言葉を投げつけられている息子を守るどころか、唖然としていた自分を思い出すと腹立たしさと後悔が噴き出してくる。
家族と距離を置くその隙間に苛立ちや悲しさを覚えたけれど、今はもうそんな感情は沸いてこない。あの距離は自分を守る為ではなく、私達を守ろうとしたのだろうと気が付いたから。
正明はそういう子で、とても優しくて強い。
トアさんの前でポロっと涙をこぼす顔を見て私は安心していた。ちゃんと泣ける、それは心を許せる相手がいるということ。卒業のお祝いを皆でした時、正明の目には零れはしなかったが涙が浮かんでいた。堪えきれなくなって私は涙を流してしまったけれど。
正明はちゃんと居場所を見つけた、その嬉しさと安堵は当然主人も感じたことだろう。俊明を含め、私達の距離は「家族」として望ましいものに変わってきたと思う。
「どんな映画なのかしらね。ジョージって人も気になるわ。」
返事は返ってこない。ソファに座ったままテレビの画面に目を向けているものの、たぶん目は違う物を見ている。この人も私と同じように、仕草や表情で何を思い考えているのか解ってしまうのだろうか。
夫婦にとっては時にいい事であり、悪い事でもあるけれど・・・。
何日か前、主人は長々と電話で話をした。相手は正明で、今回の広告に関して話し合ったらしい。詳しいことは何も言ってくれなかったけれど、電話を切ったあとの表情はスッキリしたものに変わっていた。話し始めたときは心配だらけだったのに。
正明はそのあとメールをくれた。事の顛末と自分の意見、そしてそれを高村さんはじめ皆に伝えたこと。そして主人と久しぶりに長く話せてよかったと結んでいた。
私には報告だけなのねと少し残念だったけれど。
「広美。」
私は驚いてすぐに返事ができなかった。何年ぶりだろう、名前を呼ばれたのは。
よほどビックリした顔だったのか、主人が私を見て照れたような笑みを浮かべる。不本意ながら・・・まもなく結婚して25年になるというのに「可愛い」と思ってしまう自分が可愛い。
「あ、ごめんなさい。なに?」
「出かけないか?せっかくの日曜日だし。」
早口で言ったあとプイと顔の向きを変えてしまう。なんだかそれも可愛い。
「いいわね、でかけましょう。二人きりのデートは何年ぶりかしら?」
主人の耳が真っ赤になった。
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