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may.29.2016 25年とこれからの時間 2
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並んで座った地下鉄の中でわたし達は揃って上を見ていた。イベントや雑誌、イメージ広告など色々な中吊りポスターの中でひときわシンプルな1枚。レンタe-zoのそれはいったい何人の人の目に留まるのだろう。
『色々なカタチ』たしかにそうねと思った。今日紹介されていた「海辺の家」にも普通の家族とは違うカタチがありそうだし、恋愛や冒険だって多種多様。このコピーと男性二人の後ろ姿を見て全部繋げて考える人って、どのくらい?
何の先入観もなしにこの広告を見て私は何を感じただろうか。
「何の選択肢もないと仮定します。女優さんの後ろ姿を見て、誰が誰だか当てられる自信ある?」
向かい側の車窓に映る主人は何かを考える時の表情に変わった。観察力は明らかに私よりある主人だったら可能だろうか。後姿だけで俳優を当てられる?私には無理だろう。最近は名前と顔の一致だって怪しいことが増えてきたのに。
「言われてみれば、そうだな。できないような気がする。」
「だから思うの。このポスターを見て正明だ、トアさんだって答えを出せる人って何人いるのかしら。」
「言われてみれば・・・そうだな。」
同じフレーズの繰り返しだけど口調の違いから主人の中にちゃんと私の言いたいことが伝わったのがわかる。
「私は広告に関してもビジネスも素人だわ。そして思ったんだけど言っていい?」
「どうぞ。」
「あのね、誰も上を見てないってことなの。わたし達ぐらいじゃない?さっきから上みているのは。あとはほとんどがスマホをいじっている。あとは寝ているか読書。視線を上に向けている人はいないわよね。スマホに向かって指を動かしている人ばっかり。」
主人はクスクス笑い出した。
「ああ、本当だな。誰も上なんか見ていない。」
「これ・・・お金払う意味あったのかしら、レンタさん。」
「どうだろうな、これは俺の仕込みじゃないし。」
「高村さんの?」
「いや、彼はGOサインをだしただけ。ダマテンだったからミネさんにエライ怒られたらしい。レンタ側がこういう広告を作りたいという希望だったようだな。レンタル業界のミニシアターだったか、企業コンセプトは。単館系はそういう意味では超大作より切り込んだ内容のものが多いからこそのデザインコンセプトだろうな。」
地下鉄を降りて初めてレンタe-zoに行ってみた。特別混んでいるわけではないけれど、それなりの人がいる。店の入り口から一番目に着く場所に50インチくらいのTVがあって、そこではトアさんの番組が流れていた。これは先月放映になった分・・・ということは3回の放映が順繰りに流れているってことね。番組内で紹介されたDVDはすべて貸出になっていて、なんとレンタルの予約を受け付けていた。
レンタル期間は3泊4日のみ。返却があれば店舗から連絡が入り借りられるというシステム。連絡があったその日のうちに借りにいかなければ自動的にキャンセルになって次の番号に権利がまわるという明確さだった。
「どれだけ順番待ちするのか知らんが、俺なら買うな。」
「海辺の家」は販売品がなかった。売り切れ・入荷待ち、そんなPOPもない。
私はスマホで検索をかけてみた。中古品・レンタル落ち、そんな商品ばかりがひっかかる。
「なんかこの映画、DVD廃盤なのかもしれない。中古品とかレンタル落ちばっかり。」
「へえ~そうなると中古を買うか、ここでレンタルするしかないってことだ。」
「トアさんはどうやって映画をセレクトしているのかしら。買えない事もないけど借りるより高いし、おまけに中古品しか入手できない。そんなデータを作っているのかな。」
「さあ・・・トアさんに聞いてみればいいじゃないか。」
「そうね、機会があれば聞いてみよう。」
主人は先月取り上げられていた映画のDVDを手に取った。レンタル枠はなくても買うことはできるというわけね、なかなか商売上手だこと。
「買ってみようか。」
「え?今までDVDなんか買った事なかったでしょう。」
「デートに買い物はつきものだ。」
またしても耳を赤くしながら会計に向かう後姿を見ながら、わたし達まだまだ捨てたもんじゃないわ、とくすぐったい気分で主人を待つことにする。
結婚前デートをするたびになにか一つ買ってくれる人だった。
ちゃんと変わらないでいてくれている。
それがとても嬉しかった。
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