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june.16.2016 ハル、トアを焚き付ける
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「えええ~トアさん、それはダメですよ!」
思いのほか大きな声がでてしまいました。だってだって!そんな出会いがあったのに、トアさん何もリアクションしていないって、どういうことですか!!
「そのラーメン屋さん、トアさんの近所ですよね。というか村崎寮も近所、そうなると飯塚さんのところも近所ですよ?」
「いや・・・近所というか歩いて行けるって程度じゃないですか?でも自転車ほしいよねという微妙な位置関係です。電車が東と西ですし。」
「でも真ん中にラーメン屋がありますよ。リードなら「うん、同じテリトリーだね。犯人はこのエリアのどこかに住んでいる。」なんていいますよ?」
「ハルさん。リードさんって誰ですか?」
僕はすっかりミネさんに感化されて海外ドラマの虜になってしまいました。もうCSなしの生活はできません!ちなみにミネさんとこはスカパーじゃなくJ:COMですよ。(どうでもいい情報でした。)
「『クリミナル・マインド』っていうドラマにでてくるドクター、スペンサー・リード。ものすごくIQ高くてなんでも色々覚えていてすごいですよ。シーズンごとに髪型が違うのが面白いですね。でも意外なところでいうとホッチのもみあげのカットが微妙に変わっていたりするので、それを確かめるのが僕の楽しみになっていたりします!」
トアさんが「ぷっ」と吹き出した。
「何かおかしいこと言いました?」
「いえいえ、言っていません。なんだか僕みたいだなって。自分だけがわかっている事や好きなこと、こだわりなんかをブワ~~って話してしまう。相手の方はこういう気分だったんだ~ってようやく理解できました。
それとなんだか悔しいです。SABUROのエンタメ担当である僕がハルさんに先を越されている!それを言ったらミネさんにも越されている。
これはいけませんね・・・。「ブラックリスト」以外もマスターしなくてはなりません。」
うぐぐ、僕はトアさん化してしまっているということですか?それはまずいですよね。ブワ~~って話してキョトン顔されるのはシンドイですから、気をつけなくちゃです。
あ、そんなことはどうでもよくって!トアさんの出逢いでした、大事なのはソコです。
「エンタメ張り合いなんてしている場合じゃないですよ。トアさん、なんで連絡先とか聞かなかったんですかあ~。」
「そうなんです。ついでに言うとDVDの感想聞くのも忘れちゃって。」
え?それってトアさん舞い上がったってことかな。というか、エンタメ話を畳みかけなかったってこと?普通に会話が成立したっていうことになりませんか?
すごい・・・なかなか高スペックな女性っぽい。
「徒歩だったのですか?」
「たぶんそうでしょうね。前回逢ったときは同じスーパーでお買い物していましたから、徒歩で買い物ということは徒歩圏内にお住まいじゃないかと。」
えええ・・・。
「トアさん?「この辺りにお住まいですか?僕は15の10です。」なんていう会話はしていないと?」
「ええ、思い付きもしませんでした・・・。」
なんということでしょう!!
トアさんとの付き合いは去年の8月からですが、それから今日の今日まで女性のことが話題になったことはありませんでした。彼女がいませんね~結婚は無理そうですね~っていうのはしましたよ?
あと風俗の原稿書くためにスケスケフリフリの裸女子の写真をガン見していた事もありましたが、あれはトアさんにとって仕事だったし。
月1くらいのペースでいらっしゃる西山さんと打ち解けた感じはありますが、親しげとはまた違うのです。完全にお仕事仲間状態なので、ミネさんも「あれはナシだな。」と言っておりました。素敵な人なんですけどね、トアさんとはご縁がなかったようです。
「でも必ず1日に1回はその女性のことを僕に話している自覚あります?トアさん。」
トアさんは驚いた顔で僕の顔をまじまじと見ました。まるで僕が嘘を言ったみたいにね。
無自覚・・・かなりこれは深層心理に食い込んでいませんか?楽しくデートをする夢を見ちゃって、あれ?この人誰かな?恋人?え~でも自分には今そんな相手がいないのに・・・と思った瞬間に相手が振り向いてにっこり笑う。OO!君だったのか!(どこかで読んだかな?)というありがちな夢オチ。トアさん、もうすでにこんな夢みちゃっていたりして・・・。
「ですから、トアさん絶対気になっているんですよ。」
「・・・ですかね。」
「もう二度とあえなくてもいいのですか?お客さんとして来てくれるのをひたすら待つ?その間に彼氏さんできちゃうかもしれないですよ。」
「あ~でも、サラリーマンと時間も休日も合わないって言ってましたよ。」
楽観的すぎる、というか現実をもっと見ましょうよ、トアさん!
「200万人都市の札幌ですよ?月曜休みの男性何人いると思いますか?
ゴロゴロしてますよ、ゴロゴロ。」
「ゴロゴロ・・ですか。」
「現にこの店の中に、すでに5人います!」
「はっ!本当だ!」
僕はおかしくなって笑っちゃいました。ずいぶん年上さんなのに、かわいいからです。照れたギイさんもそうでしたが、自分より大人だって思える人達が照れたり焦ったりするのは可愛いですよね。自分より年下の子がが可愛いって思うのと全然違う。
「トアさん、もう来週の月曜日から毎週そのラーメン屋に通ったほうがいいですよ。」
「ええ~毎週ですか。」
僕は向かいに座っているトアさんの両拳をギュウギュウ握った。
「2週間限定上映、トアさんの大好きな監督さんのディレクターズカットが公開。2週間あれば行けるでしょう、ああ、行かなくちゃ!ああ!行けなかった!DVDではなく大画面で見たかったのに、これは一生の不覚です、後悔まみれです。この気持ちわかりますよね?」
「わかりすぎるほどに!過去に何度かDVDでしか見たことのなかった映画を映画館で見られるチャンスがあったのです。僕はそれを逃したことがありますから、悔しくて後悔する気持ちは理解できます!」
「もう一度逢わないと、それと同じに気持ちになると思います。」
「えっ・・・。」
「別に好きになれと言っているわけではないのです。同じお休みに一緒に食事をしたり映画をみたり、ラーメン食べる友達がいていいと思います。
掃除と洗濯、買い物いって家に戻る。アマゾンからの荷物を運んでくれる宅急便のお兄さんに「こんにちは、ご苦労様です。」って言うのが唯一の会話。そのあとギョニケチャとペンネをフォークでザクザク刺しながらDVDを見る。
この生活を変えるチャンスですよ。映画を一緒に見るの楽しいですよ、きっと。お互い感想言い合ったりできますし。「その監督さんでおすすめの作品があるので、今度はDVD持ってきますね。」って次の約束したり。
うわ~楽しそう。ね、トアさん。ラーメン屋さんに通うって約束してください!」
トアさんはしばし固まったあと、ポワンと窓の外を見た。徐々に口角が上がって笑顔になる。
やった!これはプラスのイメージが沸いているってことですね。
僕が握った拳がブンブン振られてトアさんは素敵な笑顔を僕にくれた。
「ハルさん!そうですね。僕はそうしたいって思ってます。思っているなら実行すべきですよね。映画の登場人物たちは皆そうやって自分の運命を切り開いています。
それに素敵な友達ができるのは悪くない・・・うん、悪くない。
ハルさん、お礼にスタバで甘いの買ってきます!」
勢いよく立ち上がってトアさんは店をでていった。今にもスキップしそうな勢いで。
ふふ、頑張ってね、トアさん。
「正明。」
理さんがさっきまでトアさんが座っていた椅子に腰掛けました。あれだけワイワイしていたから皆にきこえてしまいましたね、きっと。
「トアに春がくる?」
「どうでしょうか。まずはお友達からでしょうね。でもトアさんにとっていい人になるような予感がします。」
「だから焚き付けたのか。」
「んん~どうかな。それだけじゃないですね。」
理さんはマグのラテを一口のんで僕をじっと見る。続けなさいってことですね。
「応援しているスポーツ選手が勝ったり、知り合いにいいことがあったりすると、僕にもいいことが起こるかもしれないって根拠のない根拠が生まれたりします。だから僕・・・トアさんに良いことがあったら自分にもご褒美があるかなって、なんとなくそう思っちゃった。」
「わかるよ、誰しも皆持ち合わせている感情だよね。」
「ですね。」
「ミネは相変わらず?」
そんなの見ればわかるでしょう、理さん。でもそんなこと言っても仕方がないですから言葉にしませんでした。
「相変わらずですよ。なんだかバカみたいだなって思います。理さんやギイさんに簡単にバレたのに当の本人が気が付かないなんて相当ニブチンじゃないですか?」
「ん~ニブチンというか一杯一杯というか。」
「ウンウン唸っていますよ。月替わりのデザートのことですよね。もともとスイーツは得意じゃないみたいですし。飯塚さんも同様で毎日睨めっこ。パンナコッタの味を12種類作って1年乗り切るか~っていうノリでいいような気がします。パティシエじゃないんだし。」
理さんは呆れたように僕をみてため息をつきました。いや確かに、パンナコッタ12フレーバーは安易だったことは認めすが、そんな呆れ顔しなくたっていいのに~~。
「ニブチンばっかだな・・・ここの男どもは。」
ピシっ!
不意打ちのデコピンが僕のおでこにスマッシュヒット。
い・・・いたい。
イ・・・イタイ。
横暴だ・・・なぜに僕がデコピンをくらうのですか。
「トアがマキアートかフラペチーノ買ってくるだろうし。飲めば痛みは消えるさ。俺はあの雁首突きつけあって唸っている二人に「パンナコッタ12の味作戦」を伝授してくるよ。採用にはならないけど発想の転換にはなりそうだから。」
理さんは立ちあがってマグを掴んだ。
「確かにニブチンだな、大いに認める。」
いやだから・・・知っていますって。
「いいことあるといいな。」
理さんの優しい笑顔を見ながら思う。
うん、いいことあると・・・いいな。
なんで僕デコピンされたんですかね?
みなさん、わかります?
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