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june.20.2016 ニブチン×ニブチン=ニブチンの二乗・・・ゴール遠し
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「何食べるかね~今日は。」
正直メニューもそうだけど作るより考えるほうが面倒だし、時間もかかる。「これが食べたい!」と言ってもらったほうがずっと楽チン。世の奥様達が「何食べたい?」と旦那に聞いて「なんでもいいよ、不味くなければ。」なんて言われて怒りまくるアレ、よくわかるわけ。主婦の味方だね、俺ってば。
ハルはマグカップをふーふーしながら何やら考え中だ。俺の独り言みたいな問いかけに対して思案していると思いたい。
昨日帰ってから見たニュースでは35℃を超えたと各地の映像がでていた。絶対無理だ~と叫んだ俺にハルは「低体温の人と同じじゃないですか?それってどういう感じなんでしょうね。」と冷静に返されてしばし二人で想像して意見を交換した。
で?結局のところ、未体験なことは想像しても意味はないという結論に落ち着いた。ついでにこれは体験したくないねと合意。北国の人間なら全員そう言うと思う。
余談ついでに更なる余談。南国の人に言われたことがある。
「冷凍庫と同じ温度の中を歩いて何故凍らないのですか?」
いや・・・これに関しては意外すぎる質問で答えられなかった。どうして?でもそこで生きているし凍りはしない、そのメカニズムは俺にもわからないしね。そんなこと言ったらサウナって90度とかあるじゃない。なんで血液が沸騰して死なないの?と一緒よね。
・・・まあ、それは医学に詳しい人にそのうち説明してもらおう。
「ミネさん!ミネさんってば、聞いてます?」
「んあ?」
ゴメンよハル。聞こえてなかった・・・くだらないこと考えちゃって。
「何を考えてたんですか?まだスイーツ解決してないとか?」
うむ、解決はしていない。でも優先順位としては今日食べるものが先なのであ~る。
「解決に向かって日々動いている模様。ジェラード入れることにしたからさ。カロリーはアイスクリームの半分!これ女子にはキャッチーじゃない?「じゃあ、2つ食べちゃってもいいかな?」っていう論法に全員がなってほしい。」
「それならフレーバーの種類がなくちゃいけませんね。「カロリー半分?じゃあアイス食べたつもりで二つ食べちゃおうかな。ええとどれにしようかな。」っていうお膳立てが必要だと思います。」
「なるほど・・・。」
「もう、ミネさん。飯塚さんもですけど!不得意分野だとやる気が感じられませんよ。女子ならベリー系は外せません。あとヘルシー志向にアピールするのにアサイーとか。いっそのことアサイーとココナッツを合わせちゃうとか。あとは・・・」
「まてまてまて!メモる。」
昨日帰ってきてテーブルの横においたままだったトートの中からミネ帳を取り出しスタンバイOK。
「はいどうぞ!」
「もう・・・ミネさん、真面目なんだかよくわかりません。」
ハルはあきれ顔をしつつも、結局俺につきあって色々なアイディアをだしてくれた。スマホで検索したり、スイーツレシピ本をひっぱりだしたり、なんだかんだで1時間と少しジェラードにかかりきり。
でもおかげで方向性も見えた。ジェラードとかアイスクリームって凍らせるから腐らない=ロスがない。おまけに北海道民はアイス好きだ。特に冬場にアイスを一番食べる特殊民族。通年でだせるのもポイントが高い。
「あ、そうだ、ミネさん。」
「ん?なに?」
「僕中華が食べたいです!」
ようやく俺の問いかけに答えがもらえた。
◇◆
「中華は初めてだな。」
「ですね、ミネさん中華もいけるのですね。」
「はい、いけるのです。」
「本日の中華メニューは「油淋鶏」「乾焼蝦仁」「炒飯」にいたします。」
「ゆーりんちい?がんそーしゃれん?チャーハンだけわかりました。」
「ガンソーは少ない汁ってことでシャーレンはエビ。これでわかるだろ?」
「もしや・・・エビチリですか?」
「正解!」
「まずその鶏ムネ肉。厚みを均一に開いて。サクサクさせたいから薄めにしよう。そして片栗粉つけて揚げる。」
「はい。」
最近こういう短い指示だけでハルは動けるようになった。
「タレは水と醤油、酢、砂糖、ネギたぷり、しょうがとにんにく、ごま油。和食と中華って結構砂糖使う。歳をとったら気を付けなくちゃいかんね。」
タレを合わせてレタスやキュウリを刻む。野菜たっぷりでサクサクのトリにこのタレをかけると、いくらでも食べられるぜ!ついでにビールもうまいぜ!になる。
さてエビにとりかかりますか。
まずは殻をむいて背開き、背ワタをきれいにとる。皆さんここでエビの作業終っていませんか?まだまだ下処理は続きます。
「ハル。エビって結構汚れているからまず洗う。結構な塩でもんで~~次に片栗をいれて混ぜる。これで汚れは片栗君が吸着してくれるんだ。それから水で洗う、このときボウルの水ごとザルにザバーしたらダメ。せっかく落とした汚れがまた戻るからね。ボウルからエビだけすくってザルにうつす。ほら水が黒いだろ。」
「ですね~。」
「何度か水をかえると濁らなくなる。そしてエビの様子が変わる。」
「ですね、なんかフワフワしてます。」
「食感がずっとよくなる。そして更なる下処理をするよ。必ず余分な水分をとっておく。エビはほとんど冷凍だからどうしても水分が失われてしまっているので補給させる。酒に少量の砂糖を溶かしてそれにエビをいれて揉みこむ。」
「下味的な塩味は?」
「塩は脱水するから今はいれない。」
「なるほど。」
「いい感じに鶏が揚がったね。適当にカットして野菜の上に並べよう。俺はチャーハンつくるからハルはエビチリ担当。」
「はい。」
作り方わかりません。なんて言わないのがハル。俺の指示100%で作ることを覚えた。そして一回作れば忘れない。ハル帳だってちゃんとある。作業を思い出して、どうしてもわからないと俺に聞きに来る。素晴らしい!かわいいうえにデキルちゃんなのだ。
「まず玉ねぎみじん切り。んでニンニクと生姜と一緒に炒める。完全に火はとおさなくていいよ。そして豆板醤。ハルはピリ辛くらいだから・・・小さじ1ぐらいにしておこうか。炒めれば炒めるほど辛さが増すからね。でも炒めないと辛味だけじゃなく風味も出てこないからちゃんと炒めて。ピチピチ跳ねるくらいになったら中華スープ入れる~。①沸くまでの作業は卵黄と卵白にわける。②エビに醤油ちょい、ごま油少し、塩も少し、それいれて卵白と和える、片栗いれて混ぜたあと油で揚げる。」
中華はスピード勝負だからね。俺も中華鍋をコンロに置いて着火、さあ煙があがるまで熱してやるぜ!
「おっしゃ、スープにケチャップと砂糖と酒、塩で味をたてるよ。味見して~。」
ハルは味見したあと首をかしげて小皿を差し出す。
「お願いします。」
不味くはない、でも不十分。
「ハル、もうちょい砂糖。」
ハルは砂糖を加えて再度味見。
「あ、コクがでました。甘味っていうよりも。」
「んじゃ、それにもう少し塩いれてみ?」
パラパラパラパ・・・くらいの塩をハルは入れた。そして再度味見。
「あ!」
「キリっとなっただろ?」
「はい!まとまりました!」
「そ、それ和食だろうがなんだろうが大事なのよ。甘いしょっぱいじゃなく「味がたった。」っていう状態。シャキーンと立つような味付けを心がけるといい。」
「・・・味が立つ。」
「そ、これね説明しにくいのよ。ハルは気が付いたから立派な舌を持ってるってこと、よかったな。」
ハルの顔がボンと赤くなった。なんで?俺褒めたのに。
「ミ、ミネさん、エビ浮いてきました。」
「おう、固くなるから浮いたら引き上げてスープにいれる、どんどん入れる~。そして水溶き片栗粉でとろみ付け。」
「はい。」
んで俺はチャーハン。油は大さじ3、ハムのみじん切り、玉ねぎ、今日は冷凍のコーンをいれちゃおう。具はあるものでよし。2~3回あおったら卵を割り入れてオタマで軽く崩したらご飯を載せるように置く。んで即座にひっくり返す。んでおたまの背でご飯の塊をばらけさせる、あおる、ばらす、あおる、ばらす。これを繰り返したらパラパラがやってくる!そしたら塩コショウ。今日はシンプルに塩味、おかずがないときは醤油をいれたい。
「お、いいトロトロだ。ハル、そしたら残った卵黄を溶いて投入。中華で溶き卵するときはまず片栗でとろみをつけた後に卵、これ基本ね。火をとめてから香りづけのゴマ油。これにて終了。盛り付けよろしく。」
俺は仕上げにレタスを放り込んで3回あおってチャーハン完成。皿にもったらゴマをパラパラ。
さあ!食べるぜい。
「いっただきま~す。」
「いただきます。」
「鶏肉サクサクです!このタレおいしい!」
「茹で豚にも合うし万能なんだよ。蒸した魚でもイケる。」
「ですね。」
今日も充実、ビールが上手い!ハルは食べたかったタイミングで食べると美味しさ倍増ですねと言いながら満面の笑みで食事中だ。実に旨そうに食べるね、相変わらず。
「中華の店にも少し入らせてもらったんだ。」
「そうなんですか。」
「各料理ジャンルで色々だなって。「イチ」と「ニ」って忙しい時はもちろん聞き間違えしやすい。んで、その店は数字の2だけ「りゃん」なわけよ。「オーダー入ります!ガンソーシャーレン、リャン!」みたいにね。なんかそれ最初可笑しくてニヤケてしまって怒られた。」
「りゃん・・・それ中国語で2ってことなんですかね。」
「どうなんだろ?聞けばよかったな。フレンチもイタリアンも料理の仕方とか食材をその国の言葉で言うから最初わけわからんくて混乱した。『これクーリ。』って言われてわかる?裏ごしのことなんだけど。」
「わかりませんよ~。裏ごしだってわからない人いるんじゃないですか?」
「ええええ~~~。」
「だって僕SABUROに来るまで知りませんでしたよ。一人暮らし大学生が裏ごしすると思います?」
言われてみればそうかもしれない。小さい時から身近すぎる単語も一般的じゃないってことか。家庭の奥様はわかるだろうけど。
「水はさ~イタリアだと「アクア」でフランスは「オゥ」なわけよ。」
「水!水属性の防具や魔法はウォーターじゃなくてアクアが多いかも。オゥは覚えにくいですね。」
「そうか?オゥなトワレは?」
「オゥなトワレ?オゥ・・・トワレ。っ!!!オードトワレ!香水ですか。」
「せいか~い。もうこれでオゥは忘れないだろ?」
「ミネさんとのご飯は作っても食べても楽しいですね。」
「そお?」
「そうで~す。」
でもそのあと、少しだけハルの顔が曇った。なんで?どうして?
「どうした?ハル。」
ちょっと寂しそうに笑うハルを見て、いつぞや経験した痛みがやってきた。胸がイタイイタイ。
「ん~。村崎寮を出ていくまでの間にどれだけ覚えられるかなって思ってしまいました。すいませんつまんないこと考えちゃって。」
「安心しなさい、そんな予定はしばらくない。」
「そんなのわからないじゃないですか。そうですよね~彼女さんとか結婚とかになったら、今度ミネさんはその人に料理を作るんですね。」
「は?作らんよ、俺。」
「は?」
お互いキョトンとしたまま見つめ合うことになった。
「朝から晩までいいだけ作って、それでまた俺が家に帰ってまで料理するの?」
「えええ~だって飯塚さん、そうじゃないですか!」
あ・・・そうだった。あの鉄仮面すげ~な。俺にはできない。
「うちはおやじが飯作るって月に1回くらいだったし。全部かあちゃんがしてた。それが当たり前だって思っちゃってるのかな、俺。なに?もしかして俺は作ってもらうことを期待されちゃうわけ?」
「そう思いますよ?だってタケさん、みんなの髪切ってるじゃないですか。「皆こなくていい!ほかの美容室行け!」っていうのと一緒かな。」
「うわ、まじで?でもなんか違う気がする。作ってもらって当たり前とか思われたら、そんな気持ちが見えたら俺は絶対作らないよ。なんか嫌だわ~それ。」
飯塚すげ~。なんでそんなことできるんだ?サトルに食わせるのはモハヤ趣味の域?それとも生きがい?だってサトルなんにもできないもんね。
やるしかないってこと?じゃあ俺は全然料理できない人と一緒になればいいのか?いやいやいや・・・それ論点が違ってるし。
「あはははは。ミネさん!おっかしい~~ですよ。」
ハルがいきなり笑いだした。え?俺なんか笑かすようなこと言ったかな。
「だってミネさん、僕にたくさん作ってくれるじゃないですか。朝から晩まで休みもずっと!やろうと思えばできるんですよ。僕みたいに「鍛えてやる!」っていう理由があればいいんですから。」
え?
は?
あ・・・ですね。
俺、ウキウキしながら作っていますね。「おいし!」って言ってもらって喜んでいま・・・すね。
「うわ~ミネさん変な顔してる!「あ“」みたいな顔してますよ。おっかしい~。」
いやだって、絶対嫌だって思ってたし。今まで付き合った相手に作ることはほとんどなかったし。店で食べさせたことはあるけど、そうなると客みたいなもんだし。
・・・どういうことだ。
・・・どうしてしまったんだ俺!
「ミネさん、明日から朝ごはん交代制にしましょう。僕もだし巻き結構うまく巻けるようになったし。場数が大事ってミネさんいつも言いますよね。おいしい出汁をひけるようになりたいので。じゃあ明日は僕が朝ごはん担当します。
あ、ビール持ってきますね。エビチリ温めなおそうかな。レンジしてきま~す。」
ハルは空き缶とエビチリの皿を持って台所に行った。
いやなんだろ・・・俺はとてつもない現実に気が付いてしまったのか?
俺は飯塚と同じことを?
うわ~~うわ~~なんだ。
こっぱずかしい!!
そうだ!ハルが言ったじゃないか「ハルの鍛錬」
そうだ、そうだ、それだ。
チャーハン食べるか。うん食べる。
ハル~はやくビールもってきて~~。
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