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june.27.2016 西山参上
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「何本か候補を教えてくれませんか?」
「どうしたものでしょう。色々考えすぎちゃって、なんだかな~という。」
いつになくトアさんの歯切れが悪い。
打ち合わせに選んだ時間が早すぎただろうか?朝のコーヒーを飲むにはちょうどいいと思ったんだけど。待ち合わせは朝の9時半。13:00のフライトだから早めの午前中の打ち合わせをお願いしたらトアさんは快諾してくれた。
得意の映画だというのに、考えすぎちゃってとは・・・なにを考えすぎているのだろう。
「僕の好きな映画が西山さんに迷惑をかけているような気がしたり。あといいストーリーになりそうな映画がいいのかな・・・なんて気をまわしちゃったりで。」
「そんなこと考えなくていいですよ。というかそれを考えるのは私の仕事ですから。」
「まあ、そうですね。」
んん・・・どうにも納得いかないというか、しっくりこない。こと映画になるとトアさんのレスポンスは早くておまけにキレキレだ。それがすっかり鈍ら(なまくら)になっている。
原因はなに?
「トアさん?」
「はい。」
「何か心配事ですか?それとも引っかかっていることがあるとか。私でよかったら聞きますよ?
SABUROは全員男性ですからね。女性の貴重な意見を聞くいいチャンスだと思いますけど。」
トアさんの表情がキョトンとしたものに変わった後ボンと赤くなる。まさしく「ビンゴ」・・・こんな言葉使うなんて私も歳とったわね。
「うわ~~なんでわかるんですか。」
「わかるというか、カマをかけてみました。」
今度は愕然とした表情。眼鏡の奥で瞳がユラユラしていて可愛い。
「・・・さすがです。」
褒められちゃった。そしてだんだん楽しくなってきた!
「SABUROのお客さんですか?」
「いえいえ、違います。バッタリ会った人です。会ったのは2回で、路上とラーメン屋さんですね。たぶんご近所さんだってハルさんは言うのですが、それも定かじゃなくて。おまけに名前しか知らないのです。あ、美容師さんだって言っていましたね。月曜日がお休みなんです。」
私は噴き出してしまった。「路上とラーメン屋」って!そんなの聞いたことがない。路上とラーメン屋・・・路上とソバ屋・・・路上と八百屋。そんな場所で偶然出会う男女が一組。
シチュエーション的にはありかもしれない。さっそく手帳にメモをした。
「うわ!西山さん。番組にしないでくださいよ!」
「大丈夫です、しません。でもアイディアとしてはいいかなって。知らない男女がトアさんのいう「路上」と「ラーメン」みたいな生活感のある場所で出会う。そこから運命が転がり出す。それとも回想シーンのほうがいいかもしれないですね。出会ったきっかけを二人で思い出す。
「どうしてあの道を歩いていたの?」
「それはね・・・。」
そこから更なる回想に展開して、二人の出会いが偶然のようであって実は違った・・・というエピソードを被せたら・・・これよくないですか?」
キーワードを手帳にどんどん書いているとトアさんの声。
「西山さん、仕事の打ち合わせをしましょう。」
はっ!つい夢中になってしまった。これだけメモすればあとで引っ張りだせる。ごめんなさいの意味をこめてボールペンのキャップをして手帳を閉じた。
「すいません、降りてきたのを逃したくなくて。」
「いえ、わかります。僕も夢中になるのは得意ですから。」
こんなに優しく笑える男の人って珍しいと思う。仕事柄ガツガツしていたり男がテンコモリっていうタイプが周りに多いせいか、トアさんの存在はとても新鮮だ。
柔らかくて透明でフワリとしている。そしてきっと暖かい。
「ラーメンを一緒に食べたということですか?」
「いいえ、食べたラーメン屋さんは同じですが一緒だったわけではないのです。食べ終わって外にでたら坂口さんが「会うの二回目ですね」って。あ、遭遇って言いましたっけ。僕は「未知との遭遇」を思い出しちゃったりして。」
悪いとは思ったけれど我慢できなくて、また噴き出してしまった。
だってトアさん映画の話以外でもリズムが一緒なんだもの。困ったように笑う顔もいい。私ならラーメン屋で速攻隣に座るのに!
「名前は知っている。」
「はい、コーヒーを飲もうと誘ってくれて。少しお話しをしました。」
「次の約束は?」
がっかり顔・・・あららら。肝心のところをトアさんったら。
「西山さんは親しくない男性に連絡先を聞かれたことありますか?」
「ありますよ?」
「嫌・・・でしたか?」
「それは人によります。」
「ああ・・・そうですよね。じゃあ、聞かれなくてガッカリしたことありますか?」
「ありますよ。これも人によりますね。ついでに言うと聞かれなかったら私から聞きます。」
「さすが西山さん!男前ですね。」
褒められたんだろうか・・・。
「同じお休みで近くに住んでいるのなら、また絶対会えますよ。そのときはトアさんから彼女を誘ってコーヒーを飲んだらいいと思います。「前回は坂口さんが誘ってくれたので今日は僕が誘います。」といえば絶対断られません。」
「そ・・・うですかね?」
「そうです、おあいこですよっていう戦法です。「私西山っていいます。お名前聞いてもいいですか?」って聞くと大抵教えてくれますよ。だって先に名乗られちゃってるし、その状況で「言いたくありません。」なんて言えないものですよ。あ、これなんにでも使えます。
「僕最近OOにはまってしまって。坂口さんはそういうものありますか?」とか「僕の得意料理はOOなんです。坂口さんはそういうレパートリーありますか?」みたいに最初に自分の情報を言ってしまうの。あまり重いものは雰囲気悪くなりますけど、そうじゃない日常的なことなら会話がスムーズに流れます。」
「うわ~~すごいですね!それなら僕にもできそうです。僕には翔っていう甥っ子がいるんです、かわいいですよ。坂口さんは甥っ子さんいます?みたいな感じですね!ですね!」
「そしてトアさんがほしい情報を潜り込ませればいいだけです。僕今彼女いなくて。坂口さんは?とか。あ~でもこれはちょっとダイレクトすぎるか。人によっては引いちゃうかもしれない。」
「大丈夫です。彼氏さんはいないって言っていました。サービス業なのでサラリーマンさんと時間が合わないらしいです。」
・・・なんだ、トアさん。さりげないアピールを受けているんじゃない。これは連絡先を聞かれなくてガッカリのほうでしょうね。間違いない。
私みたいに気になったら自分からアクションを起こすというタイプじゃなさそうだし、トアさんと合いそう。
ファンとしては少々残念だけど、トアさんに幸せがくるなら応援したい。
「今日はラーメン屋さんでランチですね。」
「いや・・・どうしたものかと。」
「トアさん、ここはもう動くしかありません。再び遭遇するために頑張らなくちゃ。」
「はあ・・・。」
「じゃあ最後に。トアさん、その坂口さんに見てほしいなっていう映画あります?」
「そうですね・・・。」
コーヒーを飲みながら色々な映画をひっぱりだしているみたいな顔。トアさんの頭の中にはいったい何本の映画の記憶が埋まっているのだろう。スマホで検索している姿を見たことがない。映画情報が詰まった頭脳か・・・覗いたら面白そう。
「あ!ありました「ビックフィッシュ」です。お花畑がきれいだし、父親のホラ話がいいのです。そしてラストシーンではぶわっと泣いてしまいます。T・バートンは「シザーハンズ」や「バットマン」のペンギンみたいに忌み嫌われる存在にスポットをあてていた感がありますが、この映画は愛にあふれています。まさかT・バートンの映画でハートウォーミングという言葉を使う羽目になるなんて!と、いい意味で裏切ってくれる素敵な映画です。」
「ほら、余計なことを考えなかったらキレキレですよ、トアさんは。」
「あ・・・。」
「じゃあ、次はそれに決定で。さっそく帰ってDVD見ることにします。私はそろそろ空港に向かいますので。」
「ああ、なんだか今日はすいません。肝心の打ち合わせがショボショボで。」
「そんなことありませんよ。素敵な映画を教えてくれたじゃないですか。どんな脚本になるか楽しみにしていてください。」
伝票を手に立ち上がる。またあの暑い東京に帰るのかと思うとウンザリするけど、トアさんから聞いた映画を冷房のきいた部屋で見ればウンザリなんて飛んでいくだろう。キンキンに冷えたスパークリングワインを飲むのもいい。空港でチーズを買えばうれしいテーブルになるだろう。
「トアさん、ラーメン屋さんに行ってくださいね。じゃあ、また次の機会に報告聞かせてください。」
進展しているといいな。
恋にまでいかなくても友達になって、メールのやりとりや月曜日に食事にいったりしたらいい。映画だって一緒にみたら楽しいだろう。
日常の変化でトアさんのエンタメ部門がさらに充実したら、またいいものが作れると思うし。
さっきの路上+日常のどこか。あれは形にできるかもしれない。
レンタe-zoのためじゃなくてもいいわけだし。
最近のCMをはじめとする広告は企業イメージと商品を重ねるのが流行だ。LEDの寿命と家族の時間の流れを表現したもの、子供と母親の弁当のやりとりで構成しているガス会社のCM。
売り込み先はたくさんある。
今まで培ってきたコネだってある。
高村さんに面倒なものを押し付けられたなんて考えていたけど、実はこれご褒美だったのかもしれないわね。
いいように乗せられている気もするけれど、それならそれでとことん乗っかってやる。
石田さんには申し訳ないけれど、まだしばらく札幌には帰ってこれないみたい。
なんでここに石田さん?って思いました?
ふふふ
内緒です。ご想像にお任せします。
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