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july.7.2016 ポカポカ
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お疲れぎみの時は寝入るまで時間がかかる。おまけにそういう時って色々考える羽目になり、余計に眠れなくなったりする。
名将だった原元巨人監督のお父さんが言っていたそうだ。
「布団に入って考え事をしてはいけない」
俺もそれに賛成する。激しく共感!!寝入りっぱなの考えってロクなことしか思いつかないし、解決には程遠い答えしかでてこない。
ベッドの脇の床に転がっているスマホに手を伸ばす。充電しているからコードがつながっていて見心地がよろしくないが、暇つぶしにはなるだろう。
あれ?誰だっけ、飯塚だったか。
「パソコンやスマホのブルーライトは睡眠の質を低下させる」
長く寝たらいいという問題ではなく、眠りは質が大事らしい。激しく賛同したいところだが、質って言われてもね~自分ではわかんないよね。
それを言ったら寝る前に飯塚だってパソコンやスマホをいじっているじゃないか。あの奴隷ちゃん度診断だって、バカップルからのお節介だったわけだし。
どうせさ~二人でくっついて寝てるんだろうな。ぴたっとさ。勝手にしてくれ!
そういや俺、ずっと一人で寝てるな。最後に誰かと寝たのっていつだったか?去年の10月?それよりも前だった気がする。12月が近づいて来ると憂鬱度が増すからアグレッシブになりにくい……いやどうだったかな。もし10月前だとしたら、今もう7月だろ?うわ~1年になろうとしているわけね。俺ぜんぜんしてないってことじゃないか。20代の男がこれでいいのか?
イイワケない!断じてない!
えっ?あれ?
ポヤンと浮かんできたのは朝っぱらのボケボケなハルの顔。
ええっと……今ね、エッチ履歴を呼び出していたわけで、そこにハルは関係ないでしょ。
そうだよね、そうですよね。
最近、元カノの人たちが顔を見せない。忙しいし、それどころじゃないっていうのもあるけど、誰も来てないね。
ハルが引っ越してきてからすっかりご無沙汰。いや、だからハルは必要じゃないの、今はね。えっ……じゃあ今以外は必要ってこと?
仕方がない、しばし考えてみよう。
ハルはかわいいのであ~~る。うん、これは間違いない。そしていいこでもある。これも間違いない。
一生懸命だ。そして仕事を頑張っているし、俺の指導にもちゃんとついてきて勉強熱心だ。
俺の仕事のことを理解してくれて、ちゃんと話に付き合ってくれる。自分なりの考えやアイディアだって言ってくれる。
毎朝コーヒーを渡してくれる。朝ごはんだって上手に作れるようになった。
たまにハッパをかけてくれるし、月曜日はパンツ履き替えろ~って俺の面倒をみてくれる。
まっすぐ……何事においても。
そして素敵な両親がいて、なかなかの弟君もいる。俺はハルの親に信用してもらってると思う。じゃないと店で働くことも同居もなかっただろうし。それにたまに店に来てくれるし。
……どうしましょう。これ良いことずくめじゃないですか?ですよね?
これでハルが女の子だったら猛攻かけてるよ、俺。そうなんだよ、そこがネックなわけだよ。俺たち男同士なわけだ。
こんなこと自分に起こるとか考えたこともなかったから正直困惑している。その困惑の正体は……わかってんだよね、ホントは。
男同士なんだからあり得ないでしょって……笑い飛ばせないんだわ、俺。
飯塚とサトルを毎日見ているからかもしれない。あの二人はお互いを思いやっているし、仲がいい。同じ目的、同じ職場、同じ家で時間を積み重ねている。とても幸せそうに。
二人に違和感を覚えたこともないし、羨ましいとさえ思う。男同士なのにね。
女の人が相手なら簡単なことだ。でも男同士だから簡単じゃない。でも今まで関わったどの女の人にもハルみたいな人はいなかった……俺を理解してくれる人はいなかった。
いっそのこと元カノの誰かと寝てみれば自分の気持ちがわかるかな?やっぱり俺は飛び越えられないよという答えがでるかもしれない。
もしくは……女だからいいってわけじゃないっていう答えがでる……かもしれない。
ハルと同性の二つを天秤にかけたら、どっちが重い?実巳……よく考えろ。
どっちが重いんだ?
天秤をイメージしようと目をつぶったらペタペタという音と冷蔵庫を開ける音が聞こえてきた。
ハルか……なにしてんだ、こんな時間に。せっかく目をつぶったから、このまま睡眠に突入してしまおうか。
『こんな時間に何やってんだ?』
『あ、起こしちゃいました?ごめんさい。音たてないように気をつけたのに』
そんなやりとりとゴメンなさい顔のハルが思い浮かんだ。思い浮かんだら見たくなった。
薄い羽根布団を足でけり上げてむっくりベッドから起き上がる。どうせ眠れていないんだ。だったら眠ろうとしないで起きてやろうじゃないか!
部屋をで台所を目指すと、案の定電気の光が廊下に漏れていた。
「うぉ~い、ハル。こんな時間になにやってるんだ?」
「うわっ!あ~~ごめんなさい。起こしちゃいました?」
俺の妄想とセリフは違うがハルはちゃんとゴメンなさい顔をしていた。
「いや、なんか眠れなくてさ。そしたら音が聞こえてきた」
「僕も寝付けなくて。それでココアを飲んじゃおうかなって。甘くて温かいの飲んだら眠れるかもしれないなんて思いついたら飲みたくなってしまいました」
ホットココアか。普段なら魅力を感じないけど、今はとてもおいしそうに感じる。
「俺の分ある?」
「ミネさんも飲みますか?じゃあ二人分作ります」
「ありがとう、リビングにいるから」
電気をつけずに廊下を歩き、リビングのドアを開けた。
皆で行ったオーベルジュは本当に夜が暗かった。札幌は人工的な光が外に存在するし、車の音が途絶えることはない。少しだけ開いている窓から入ってくる空気がカーテンを揺らしていた。カーテンを開け、レースだけにすると部屋の中がまた少し明るくなる。
「ミネさん、真っ暗ですよ」
ハルがテーブルにマグを置き、電気のスイッチに向かおうとしたから手首を掴む。
「このままでいいよ。ぼんやり薄暗いほうがいい」
「そうですか」
ハルは俺の隣にポスンと座るとマグカップを渡してくれた。なんかこういうさり気ないのが、いいのよねってまた思ってしまう。
ココアは甘かった。そして温かくて優しかった。
ソファに背中を預けて手の平がジワリと熱くなる感覚を楽しむ。飲んだココアが体に染みて胃のあたりがポカポカする。んん……いいね、こういうの。中から温まる。
ココアをゆっくり飲みながら、暗い部屋にいると口数が減るんだななんて考えていた。
ココアはあと少しでなくなる。ポカポカしたから余計なことを考えずに寝られるような気がした。
カクン
横でハルの頭が下に落ちる。ココアによってハルは無事安眠を手に入れたようだ。こぼれる前に両手で持っていたマグカップをそっと取ってテーブルにのせた。ついでに俺のも。
「んんん……」
起きたのか?と横を見ればハルがポテンを俺のほうに倒れこんできた。あちゃ~寝ちゃったか。
風邪をひかせたくないから起こして部屋にいかせるべきなんだろうけど。ココアがポカポカさせたように、右側からハルの体温が伝わってくる。これがなくなるのは……嫌だ、そう思った。
ゆっくりソファの端に移動するとハルの身体がズルズルとソファの上に倒れていく。
俺は自分の部屋に戻り枕と上掛けを脇に抱えてまたリビングに戻った。テーブルを押しやって床に枕を置く。
「ハル…おいで」
横向きに寝ているハルの体の下に腕を入れると、薄く目があいた。
「はる…おいで」
「んんん」
うっすら開いていた目が閉じられたあと、俺のほうに腕が伸びてくる。ああ、こんなこと前にもあったな。俺の誕生日をしてくれた夜だったな。
ハルの体をしっかり抱いて床におろす。
明日身体が痛いかもしれない。ハルに「そういうときは起こしてくださいよ」と怒られるかもしれない。
でもいい。俺はハルと一緒にいたい。体の中と外でポカポカしたいんだよ。
ハルを抱き枕にするのは二度目だな。今日は考えるのをやめよう。
ポカポカして、いい夢を見よう。
そして目が覚めたら「おはよう。」をハルに言う。「おはよう」を交わして、ハルと新しい一日を始めよう。
「ハル、おやすみ」
俺は静かに目を閉じた。
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