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july.10.2016 昔の女現る その1
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「こんばんは~。」
ラストオーダーが過ぎた店内。チェックをした客に呼ばれて挨拶をしていたら、女性が当たり前のように店に入ってきた。
・・・まだ切れてなかったのか、村崎。
北川が申し訳ありません100%顔をして近づいていく。
腕をひっぱってそれを止めると「えっ?」と疑問形を表情で伝えてきた。
「村崎を呼べばいい、あいつの客だから。」
ちょっとだけ首をかしげて厨房へ向かったのを確かめて、再度お客様に向き合い丁寧にお見送りをした。さてと・・・。
「飯塚、ひっさしぶりね。」
「だな、元気そうじゃないか。」
小川奈見、こいつとは高校生の時同じクラスだったことがある。明るくてサバサバした性格で男女ともに人気があった。表情豊か、物言いもなかなかヒネリが効いていたし、綺麗系の顔。
男子の視線を体中に纏いながら、そしらぬフリをできる女。
そして小川は村崎とつきあっていた。
たしか卒業して半年した頃に別れたと村崎が言っていたから確かだろう。
別れた女。
これもかよ・・・。
「奈見、どうしたのよ。」
「明日こっちで会議でね、午前中だから釧路からじゃさすがに前入り。」
「ゴクロウさんです。」
村崎はいつも女に振られる。
それは性格の問題じゃない、どちらかというと優先順位が最大の原因だ。
村崎にとって大事なことは「店」であり仕事だからだ。
連休のない仕事だから旅行にいくのはNG。
仕事のある日はサラリーマンよりも拘束時間が長い。普通に仕事を終えた人間が村崎のあがりを待つと5~6時間は待ちぼうけをくらうことになる。
それから二人でディナー?無理だ。
自由になる時間は休日前の夜から翌日の休みの日だけ。完全オフになることだって少ない。
おまけに月曜日は会社員にとっては働く日。休みすら合わない。
店に食べにいっても、それは気になる店であり料理になるから、真剣に食べる。
ニコニコと会話を楽しみながらという時間よりも、自分にまったく視線を合わせないで料理に取り組む男の姿を見ているほうが長くなる。
そして女が考え始める。この人と一緒にいるということは常に自分が2番目になるということだと。好きなことは間違いない、村崎を独占したいほど好きだからこそ離れることを選ぶ。
そして別れた女達は、嫌いになって別れたわけではないので、その後も完全に切れないのだ。
普通に逢ったりするし、タイミングがあれば寝ることもアリ。
よくわからない関係になった男女。俺が知っているだけでも4人はいる。
どうやら小川もその一人ということだろう。
「さっきこっちに着いたのよ。ホテル探す前に聞こうと思って。実巳の家に泊めてくれない?」
村崎の後ろで引き攣った顔の北川。
・・・同居人が女を連れ込むとなると、ややこしいな、確かに。
村崎は振り返って北川の顔を見て近づいた。
「ハル、なんて顔してんの。」
肩に腕を回して、そのまま頭をワシャワシャし始めた。
「奈見、俺いまコイツと同居中なんで、悪いけどホテルは別に探しなさい。」
「同居?」
「そ、かわいい従業員を安月給で使っているから寮のかわりにね。」
やんわり村崎から離れた北川は小さい声だったけれどちゃんと言った。
「あの、僕は友達のところでも何処でも行くので。気にしないでください。」
「ハル、その必要はないよ。奈見ホテル探しなさい。わかった?」
「わかりました~。」
小川はスマホを取り出し、ホテルを検索しはじめた。
なんだ、この居心地の悪さは・・・。小川も店に来る前に村崎に連絡してこいって。
そして俺は目の端で見てしまった。
北川がペチペチと自分のほほを叩いて「うしっ」と呟いた姿を。
「トアさ~ん。ホールの掃除お願いします。ミネさんの替りに厨房の掃除にはいりますので。
飯塚さん、後片付け始めてもいいですか?」
「ああ、さっさと終わらせようぜ。」
北川の背中を押しながら厨房に向かう。
その後ろで聞こえるのは笑みと誘いの混じる小声。
(ノボテルってプレミアムホテルに名前変わったのね安くとれちゃった。ちなみにダブルよ。)
(お前なぁ、俺の都合はいいのかよ)
ぴくっと北川の背中が震えたような気がしたけれど、俺は何も言えなかった。
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