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july.10.2016 昔の女現る その2
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「明日休みだし飲みにいくか。」
疑問形ではない、半ば強制だぞという顔を向けると北川は力なく微笑んだ。
そんな顔するなって・・・。
村崎はその後掃除に参加したが、小川は店を出て行った。どこかで待たせているのか、帰ったのか。
「終わったら北川と軽く飲んで帰るけど、お前は?」
「ちょっとだけ奈見に付き合ってくる。」
やっぱりそうなるわけね。
理は少し早目にあがって高村さんと出て行った。番組の打ち合わせだか顔あわせだか、そっち系の業務らしい。
しおらしい姿は似合わないぞと言ってやりたいし、早いとこ店から出たいのでせっせと手を動かした。
◇◆◇
「お疲れ。」
おざなりに合わさったジョッキは控えめな音をカチンとさせた。
慰めるってのも違うし、元気ないぞは不味い気がする。どうしたものか。
「ミネさん、泊りでしょうかね?」
「えっ」
「なに驚いているんですか。だってあの人ホテル・・・。」
帰ってこないだろうな、今日は。
北川のしょんぼりは、どの段階なのだろうか。
理への想いを実感するまでの事を思いだす。
最初は彼女ができても長続きしないことを面白がっていた。
そのうち、また長続きしないさ、そうやって納得している自分に気が付いた。
次は、理の餌付けを完璧なものにして、女に負けてたまるかと闘争心を燃やした。
しょんぼりはしなかったな・・・。
「ミネさんの御飯っておいしいんです。それに身体にいい。」
北川は唐突にそう言った。
「毎朝美味しい朝ごはん。
時々さらっと大事なことを言ってくれるから、随分僕は人のことを考えることができるようになりました。
休みの日は洗濯と掃除をして1週間分の買い出しと常備菜を作ります。
晩御飯を一緒に食べて、トアさん推薦のDVDや海外ドラマを見る。」
コクリとビールを飲みこむが、さっきからほとんど中身が減っていない。
「すごく楽しいし一緒にいて安心します。でも時々切なくなったり寂しくなるのはどうしてかなって・・・。ずっとわからなかったけど、今日答えがでました。」
俺は何も言わなかった。黙って先を待つ。
「ずっとこんな生活が続けばいい、そう願ってしまうからです。でも本当はちゃんとわかっていました。そうはならないことを。
今日女の人が来たとき理解しました。ミネさんは僕と違って、ちゃんと結婚をしたり彼女ができたりするって事です。
ずっとなんてありえないんだなって思ったら、ちょっとションボリしちゃいました。
飯塚さんにも気を使わせちゃって、ごめんなさい。」
お前は心の底に存在しているもの、それを見ないふりをするということか?
そう決めたのか?
「僕もっと努力します。それでミネさんに甘えないでも生活できるように環境を整えて独り立ちしなくちゃです!もっと計画性をもって貯金しなくっちゃ。」
ぺちぺちと頬を叩いて「うしっ」と呟いたあと、ジョッキをもちあげてゴクゴクと飲み始めた。
俺のほうが切ないよ。
北川はそのあと、トア推薦のDVDの感想や友達とのとりとめない話を続けた。
適当に聞き返したり、相槌をうったりしながら笑顔でやりすごす。
「お疲れ様でした。」
そう言って帰っていく背中を見送る。
いじらしい位に強がりな北川を初めてかわいいと思った。
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