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july.11.2016 ミネの朝帰り 午後
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しなくてはいけない決まり事、それは僕にとって救いだった。
シャワーを浴びて
朝ごはんを食べて
洗濯をベランダに干す
買い物にいって冷蔵庫や冷凍庫にしまう
鍋をいくつも使って常備菜を作る
いつもはここでDVD鑑賞に移るけれど、ミネさんはテレビをつけなかった。
ビールを差し出されて、受け取る。
ソファに座って隣をポンポンするから、素直に座った。
カシャン
ビールを合わせて「お疲れさん」「お疲れです」を交換。
「俺ってつまんない男なのかな。」
いきなりそんなことを言う。
「ミネさんがつまんない人間だとしたら、世の中の多くがタイクツ族になりますよ。」
クスっと笑うミネさん。「世の中のけっこうな数がキモイ族になる」そんなふうに僕に言ったことを思い出してくれただろうか。
「俺ね、いつも必ず振られるんだ。」
ゴクゴクと飲み干されるビール。
いいですよ、ミネさんの話しを聞きましょう。
一番聞きたいと思っているのが、僕なんですから。
「自分の所しか知らないとお前の為にならないってさ、高校時代親父のつてで色んな店で働かせてもらった。高校は卒業できればいいと思っていたから、勉強よりも将来の店を継ぐことを最優先にして生活していたわけ。
彼女との約束よりバイト、遊びにいくよりも店。そして気が付くと、相手から別れましょうと言われる。大事にしてくれない人とは一緒にいられないって。」
「でも高校生の恋愛ですよ?大事にしてくれないとか言われても困りませんか。」
「んんん~。俺の悪い所は困るよりも理解できなかったって事なんだろうな。そういう相手の気持ちを汲んでやることもわかってあげようとする気持ちもなかった。」
僕の高校時代の恋愛・・・好きだという気持ちを持ったこともある。そしてそれは散々な結果に終わり、僕は親元を離れなければならなくなった。そしてその後は清く正しい交際とは真逆だった。
好奇心に裏打ちされたSEXを目的にして、それなりの数の人と寝た。
悩みぬいた後の開き直りというか、自分以外にも同じ性癖の人間が存在していることの安心感。
僕だけじゃないと思える瞬間・・・それを人肌で確認するための「お付き合い」
ミネさんと違うのは、僕の場合付き合う二人の優先順位が一緒だったってことだ。
必要な相手、そしてSEX。それがすべてだった。
「昨日来た奈見は、高校を卒業する半年前くらいから付き合いだして、卒業して半年で別れたんだ。俺にしちゃあ長いほうだよ。約1年もったわけだし。」
僕は元カレとは別れたっきりだ、逢いたいと思ったことはない。
(向こうが勝手に会いにきたけれど。)
「奈見は男みたいにサバサバしてたし、俺のやりたいことをちゃんとわかってくれていた。
俺にとって彼女と一緒にいることと、店のことは別ものだ。比べてどっちが大事とか考えもしなかったし、いつでも会える奈見と、今しかないチャンスを比較したら、チャンスを選択する。俺にとっては明確で単純だったけど、それがだんだん二人のズレになった。」
空になった缶を潰してキッチンに向かう。途中振り向いてくれたから首を振った。
僕のビールはほとんど減っていない。
ふたつの缶をテーブルにのせてソファに座る。ミネさん、今日は沢山飲むつもりですか?
「奈見は短大の友達の付き合い方を自分のものと比べるようになった。時間があって大学生活を謳歌している人間と比較されてもな、って話なんだけどさ。
旅行に行った、あんなデートをしている。毎日のように泊まって一緒にいる。
俺にはそれと同じことをする時間はなかった。
そして言われたんだ、店と私とどっちが大事なのかってさ。
俺は答えられなかった。だってどっちも大事だし必要なものだから。
私を選ばないのなら、ここで別れるってね。」
「そうだったんですか・・・。」
「そうだよ。んで別れた。奈見だけじゃない、その後付き合う相手も皆そう言って離れて行った。
そのくせ嫌いで別れたわけじゃないからってさ、たまに逢いにくる。
お互いのタイミングがあえば寝ることもある。それでいいかと思っていたけど、違ったんだよな。」
他の人に自慢できるようなデートができれば、旅行や一緒にいる時間がつねにある、そういうミネさんなら好きですってこと?
SABUROを切り盛りするために沢山悩んだり、真剣にメニューに取り組んだりしている姿はいらないのですか?僕はそう言ってやりたくなった。
「違うって思ったのは飯塚とサトルだよ。あいつらは目的が同じだろう?店を繁盛させて楽しいことを沢山考えて、お客さんを喜ばせる。それが自分たちの待遇をあげることになる。
一緒にいる時間だとか、出掛けることとか、そういうことじゃない。
共に過ごし、同じ目的をもって前に進んでいる。
正直ね、俺羨ましくなっちゃってさ。
男同士だとか、どうでもいいって思う。対等なパートナーとして互いが存在している、あれはいい。」
「言っていること・・・よくわかります。最近思いますもん、僕振られて正解だったって。」
頭をポンポン。いいんですよ、もう今更な話ですから。
「そんなこと考えちゃったりしていたせいか、奈見と逢って気晴らしもいいかと思ったわけ。
今朝、歯磨きしてたらアイツが笑ったんだ。ほら、ハルが買ってくれる舌ブラシなかったから、ついついダメだとわかってて歯ブラシでやっちゃったのよ。
『まだそんな歯磨きしてたの?』
まだっていうかさ、俺一生これやるわけじゃん。なんだろ、ズレというかさ。
別れた女と意味のない時間を過ごしている自分の行動のバカさ加減にウンザリしたよ。
そしてさ、来春結婚することになったって。」
「はぁ?」
「ちょっとまてよと。結婚する相手に失礼だろうが、そういうことは最初に言えって怒っちゃたよ、俺。
俺がさっさと結婚して誰かと幸せになってくれないと困るらしい。大きなお世話だろ。」
単純な話じゃないですか。あの人まだミネさんが好きなんですよ、諦めきれないからいっそうのこと誰かのモノになってくれって意味ですよね。
どうしようもないから別の人と結婚して、未練を断ち切ることにした。
そしてミネさんを諦めるために、昨日一緒に過ごした・・・。
「相変わらず店のことが最優先で、おまけに従業員まで自分の家に住まわせて、実巳は店と結婚するわけ?そんなんじゃ一生相手みつからないわよ!って言うわけ。
幸せになりたくないのか、あの店に一生縛られつづける人生でいいのって。
変な歯磨きを続けていくつもりかって・・・。
俺が目指して頑張っていることって、つまんない事なのか?
なんだか哀しいよね、自分が否定されているようでさ。
だからそのまま帰ってきた、もう奈見とも他のヤツにも逢わないよ。それだけは思えた。
ハルがコーヒー淹れてくれて、母ちゃんみたいにハッパかけてくれてさ、俺チョッと嬉しかったよ。」
何もわかっていない!ミネさんや理さんや飯塚さんのこと、何もわかっていない!
「ふっ・・・ぐ。」
「ちょ!ハル。」
涙がでてきた、これは悔し涙だ。どんな権利があってそんな勝手な事をこの人に言うんだ!
「その人、な、なんにもわかってない!毎日朝いちばんから舌をクリアにして仕事に備えるの、それ変なことじゃない!歯磨きが変とか、わかってない!
お金を払ってくれる、でもお客さんは知らない他人です。見ず知らずの人の為に、色々考えて喜んでもらえるために一杯努力して・・・ますよ!ミネさんは。
つまんなくない、格好いいです!
飯塚さんだって理さんも、高村さんもトアさんも、おきゃくさんも、僕も!
皆知ってる・・・知ってます。
昔つきあっていたからって、自分がうまくいかなかったからって!だからって、そんなこと言っていいわけがない!
僕、くやし・・・。」
いよいよ本格的に溢れ出した涙は止めようがなかった。
「俺のために泣いてくれるんだ、なんか嬉しいな。
悔しいか・・そうだな。俺も悔しかったんだな・・・ありがとな、ハル。」
ミネさんがふわっと抱きしめてくれたから、涙はさらに止まらなくなった。
思った通りでした。
ミネさんの腕の中は温かいけれど、どこか悲しい、そんな場所。
絶対僕のものにはならない・・・そんな場所・・・。
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