アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
july.12.2016 マスターとキイちゃん 2
-
「どうしたの、珍しい。」
マスターはびっくりした顔をして僕を迎えてくれた。自分の前に座りなさいという意味でカウンターをコンコンと叩く。
言われるまま、僕はマスターの前の席についた。
何人か知っている顔があったけれど、声をかけなかった。今日の僕はあまり余裕がない。
仕事が終わってから来たから、日付が変わる前の一番賑やかな時間にぶつかってしまった。休みの日の早い時間にくればいいのかもしれない。でも僕のお休みの日はすることが決まっていて、あの時間を失うのは嫌だ。今みたいな気分の時は特にそう思う。
「キイちゃん、これでも読んでおきなよ。落ち着くまで少し時間がかかりそうだから。」
カウンターの上に置かれたのはスペンサーシリーズの1冊。強いスペンサーの姿に触れれば元気になれるかもしれない。
「雑音があっても読めるでしょ、こういうタイプなら。」
「ですね。」
「ビールでいい?」
「はい、お願いします。」
何人かの人達が横にきたけれど、近づくなオーラを出して本を読んでいる僕に呆れ顔で居なくなる。マスターが「このこは駄目、俺の。」という牽制がかえって悪目立ちしたけれど、概ね問題もなく時間が過ぎて行った。マスターがテーブル席にドリンクを運ぶためにカウンターを出た時、一人の男が寄ってきた。
「こんな所で本なんか広げてさ、かまってちゃんのサイン?」
どこにそんなサインがあるんだ。
無視してページを繰る。
「そんなに面白いの?何読んでんの?教えてよ。」
うるさい。
「教えてって言ってんだけど。聞こえてる?」
うるさい!
「見ればわかりませんか?『本』です。」
「はぁぁぁ?」
「桐生君、悪いんだけどね。このこは俺のなの、変なちょっかいかけないでくれないか。」
何時もにもまして静かなマスターの声は店内中に響き渡ったような効果があった。一瞬時間が止まったような雰囲気。
シーンとなったそのすぐあとに、BGMの音が戻ってくるような瞬間。
そこから外野は静かになった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
272 / 474