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july.15.2016 あなたのお米は誰ですか?
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「ハルが一緒に帰ってくれない。」
ミネがジョッキを握りながらボソっと呟いた。
本日も無事クローズしたSABURO。トアと正明は仲良く帰っていった。急にジンギスカンモードになった二人が「だるま」を目指しキャッキャしながら店を後にしたのは少し前。
「ジンギスカンなら俺が連れて行ってやるのに。」
ミネ・・・辛気臭いって。
店をでていく二人の後ろ姿を見つめるミネにため息をついたのは衛。無言でビールを注ぐとミネに押し付けた。
「ちょっとこれ飲んでおけ。」
というわけで残った3人で盛り上がりに欠ける飲み会をしているところだ。
月曜日ミネが朝帰りしたことは衛から聞いた。ミネと正明は朝一緒に出勤してくるが帰るときは別々。これが火曜日から続いていて「お疲れさまです。」と言って正明はそそくさと一人帰っていく。(今日はトアと一緒)
ミネはずっと一人で帰宅する毎日を送っていた。
「朝帰りするからだよ。」
ミネは恨めしそうに俺を見た。
「確かにマズったけど、でもあれは俺に必要だったの。」
「必要な朝帰りって・・・なにそれ。」
ミネはジョッキの滴で濡れた手のひらをイスに掛けてあったエプロンで拭った。そして真剣な表情を俺に向ける。
「飯塚はサトルの米だとしよう。」
「米?なにそれ。」
「主食。ないと生きていかれません!という大事な主食。」
「・・・で?」
「でもさ、米以外にも主食になりうる物は沢山ある。パスタとかうどんに蕎麦、パンもある。数えたら沢山あるよね。」
「あるね。」
「あんまり褒められたこっちゃないけど、米以外を食べてみたいとサトル君は思いついてしまったわけよ。んで食べた。」
ミネの言わんとする方向性が見えてきた。
「そんでさ、色々食べてみたら、やっぱり俺は米が一番好きだなって気が付くの、わかる?」
「・・・わかる。」
【ガン!】
衛、怖いって!
鉄仮面無表情状態でジョッキをテーブルに打ち付け、俺をひたと見据える。あのね、これ物の例えでしょ。
「知ってるだろ?俺はもともと米派なんだし、お前が食べさせてくれる物しか口にしていないんだぞ。四六時中ずっと一緒にいるわけだし。いつ俺が朝帰り的な他主食に手をだせるんだよ。」
「出したいのか?」
「なにそれ。衛こそ出したいのか?」
「俺は理以外いらない。」
うきゃ!照れるぜ。
ミネが頭をガシガシとグシャグシャにしながら言った。
「も~~~。バカップルっぷりを俺に見せつけるって何?しかもこのタイミングで!」
「ミネが変な例えを持ち出すからじゃないか。」
「うううう・・・。」
「それじゃ話を戻すよ?朝帰りして自分にとっての「米」が何かって気が付いたって事でいい?」
「米というより未知のスーパーフード的なもんだけどな。」
「スーパーフード・・・未知のね。」
「そ、従来の米より栄養満点、しかも美味しそう。見た目も食欲をそそるスーパーフード。」
おいおい・・・。
「わっはっは!なんだか可笑しくなってきた。」
いきなりミネが笑い出した。俺と衛がキョトンとなるくらいの豪快な笑い。
しょんぼりしているより笑っているほうがずっといいけど。
「すっきりした!」
「アップダウンが激しすぎだよ、ミネ。」
「うん、言ってしまったら楽になった。」
「そっか・・・。それなら朝帰りは必要だったんだね。」
「あくまでも俺的にだけどね。」
ミネは寂しそうな笑みはふわりと浮かべた。
「ハルは俺から遠ざかろうとしている。」
「ミネから?正明が?」
「そ、俺から。」
「どうしてそう思うの?」
「ずっと行っていなかったのに店に飲みに行ってる、ここんとこ毎日。」
「BARか何か?」
「『仲間』が集う店だって。ゲイの人達が集まる店。ハルがギイさんって呼ぶ客いるだろ?あの人とたまに一緒にくる人がマスターなんだと。」
ああ、ギイさんね。二人のことは覚えている。衛が言うほど、ギイさんという男は胡散臭い感じではなかった。もう一人のマスターである男性は優しそうな雰囲気でナヨっとはしていない。芯がありそうだし、ちゃんとしている印象。俺が案内した席に座ったときフフンとでも言いそうな顔をした。あの人、自分の店を持っているのか。
「かつての自分のテリトリーというかさ、生存場所に戻ろうとしているんだなって。俺のところじゃない居場所を作るつもりなんだ、きっと。」
ミネは自嘲めいた笑みを浮かべた。
「すべて全部。オール後手後手。」
「確かにそうだな、村崎はぐるぐるしすぎだ。それで後手後手になった。」
俺は可笑しくなってクスリと笑ってしまう。
「衛がそれを言うか?バレンタインの日、帰ろうとしたくせに。いや本当に玄関から出たくせに。俺がカギ掛けていたら俺たちどうなってたんだろうな。」
「なっ!今それを持ち出すか!!」
「俺が言いたいのはね、人を好きになってそれを言葉にしましょうって勢い込んでも、やっぱり逃げ出したくなるってこと。次の機会でいいかって臆病になるんだ、常にね。」
「サトルでもそうなの?」
ミネに聞かれて思い出す。
「うん、衛を好きだって認識してから1年以上グズグズぐるぐるしてた。少しずつ選択と決心を重ねながらね。きっかけは衛がくれたから俺がなんとかしなくちゃねって。それで俺からキスした。」
「・・・。」
「どうしたの、ミネ。」
「・・・あのね、こういうのって聞いている方が恥ずかしいってか居たたまれないって知ってた?」
「あっはっは!知らな~~い。っふが!」
衛が口にグリッシーニを突っ込んできた。ツマミはありがたいけど、何か言ってから突っ込め。ミネにもグリッシーニを突き出す。ミネは素直にパクっと咥えた。
「村崎、北川は計画的に貯金して自立するってハッキリ言ったぞ、俺に。」
衛の言葉でミネの瞳がグルンと揺れた。
「お前の朝飯は美味くて体にいいんだと。大事なことを沢山言ってくれるから随分人のことを思いやれるようになったって。
でもこの生活はずっとは続かない。いつかミネさんは結婚する普通の男の人だって。
お前の言っていることは当たっているよ。北川は村崎から離れようとしている。」
「そ、そっか・・・当たっているか。」
これ以上ミネに何か言う必要はない。
「ミネ?」
「ん?」
「何がどうなったて、俺はミネが好きだから。それちゃんと覚えておいて。」
「サト・・・ル。」
「前にも言ったが俺はお前の味方だ。俺は村崎を勝手に親友だと思っているから。」
ミネの表情がくしゃりと崩れる。
「ト、トイレ行ってくる!ビールはトイレと友達だし。」
ミネはおどけてそんな事を言いながら席を立った。
【バタン】
トイレのドアが閉まる音がきこえてから衛に言う。
「ナイスアシスト。」
「理こそ。」
「ジョッキ洗って帰ろうか。」
「だな。」
ジョッキに手を伸ばした衛にどうしても言いたくなって言葉にする。
「衛・・・カギかけろって俺に言い続けてくれてありがとう。おかげで今がある。」
衛はふわっと微笑んだ。
「カギかけないで俺を待っていてくれて、ありがとう。」
ぐいっと腕をつかまれてスッポリ衛の胸の中におさまる俺。
当たり前のように重なる唇。
「うわっ!!SABUROでなにしてんだ!家でやれ!家で!」
トイレから出てきたミネにペロっと舌をだしつつ思った。
ミネと正明がこっそり店のどこかでキスをしたり手を握ったり・・・そんな日がくればいい。
心からそう願った。
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