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july.17.2016 ハルのお泊り 1
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「いらっしゃいませ。あ、こんばんは。」
21:00過ぎの時間に来店したのはギイさんとマスター。二人仲良く一緒です。
「儀が夜景見たいなんて言い出すから藻岩山に行ってきたんだよ。」
「ええ~ギイさんが夜景?」
「なんだよ・・・だめかよ。」
なんだか30歳を超えて学生みたいなデートをしているギイさんがかわいい。よほどのことでもない限り、マスターはギイさんに付き合うのだろう。「ええ~。」なんて言いながらもちゃんと一緒に行くんだ。
なんだか羨ましいです。
テーブルに二人を案内してオーダーをとる。赤ワインとアクアパッツァ(今日は真鯛のアラです)とフォカッチャ。カプレーゼと牛テールの煮込みマッシュポテト添え。腹ペコのご様子です。
「オーダーお願いします!」
厨房にオーダーを通すとミネさんがギイさん達を見ていた。え?というような顔をして。ああ、ミネさんは二人が恋人同士になったこと知らないから雰囲気が違っていることに驚いているのかもしれない。
ボトルの栓を抜きながら僕はミネさんに言った。
「藻岩山夜景デートの帰りに寄ってくれたみたいです。」
「・・・夜景のデート。」
「大人になってからそういうデートもいいかもしれないですね。夜景みながらビールを飲んだらおいしそうです。」
「行きたいの?」
僕は予想外の言葉に一瞬手が止まってしまった。「行きたいっていったら連れて行ってくれるの?」そう言ってみたら何て言うかな?
でもすぐ思い直す。たぶん「ハルが行きたいなら今度行こうか。」そう言うんです、ミネさんは。
僕は夜景をみたいわけではなく恋人とデートしたいから、ミネさんが思う「一緒に行こう。」が欲しいわけじゃない。
火曜日からずっと帰りをずらしちゃった僕は普通に帰る方法を見失った。つい先にそそくさと出てしまい、少し時間をつぶしてから帰る。ビールを飲んで、少しだけ何かをつまむ。そしてゆっくり歩いて帰る。
ミネさんは僕がマスターのお店に行っていると思い込んでいて・・・今朝聞かれました。
「やっぱり、楽しい?気心しれた人達と過ごすのは。」
「ええ、ですね。」
つまらない嘘をついてミネさんがどんな顔をするのかうかがう。
「そっか、ハルが楽しいならよかったよ。」
そういうミネさんの表情は優しいとも寂しいとも言えないどっちつかずのものだ。だから僕はその表情がどんな気持ちを表しているのか判断できない。
そして一緒に帰る機会を今日も逃すのだろう。明日は月曜で僕たちにとっての週末だというのに、またつまらない気持ちで一人ビールを飲む羽目になるのか。
そんな想像を打ち消したくてワインのコルクを思いきり引っ張る。
【ポン】
「あ~正明!コルク抜くとき音だしたらダメって言ったでしょ。」
理さんにそういわれてハッとする。仕事中に何考えているんだろう、こんなんじゃいけない。
「すいませんでした。次はちゃんとします。」
「うん、そうしよう。」
ボトルとグラスをトレンチに乗せながらミネさんをチラっと見た。
何か考え事をするようにフライパンをぼんやり見つめている。このままじゃダメですね、僕たち。こういうとき一緒に住んでいるって事の重要さが身に沁みます。
逃げも隠れもできない。そして逃げ続けていると毎日がどんより淀んでいくばかりだ。
笑顔を見続けると決めたのに、僕の仕返しみたいな行動や嘘が僕たちの生活を暗いものに変えてしまっている。
ちゃんとしないと。
ため息をフウと吐いてトレンチを持ち上げる。
仕事をしよう、そして終わってから・・・考えよう。
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