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july.18.2016 ギイさんとキイちゃん
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「朝ごはんになりそうなものが何もない。」
昨日たくさん愚痴やら文句、泣き言、色々聞いてもらったからお礼に朝ご飯を作ろうと思ったのに。
冷蔵庫の中にはチーズと豆腐。食パン発見。缶詰のところにはツナとカットトマト。オレガノの小瓶もあって何だか嬉しくなった。
トマトとツナ、豆腐でグラタンにしよう。
ガチャガチャと音がしたからギイさんが起きたのかもしれない。
時間は6:30。コーヒーをセット。
ミネさん・・・まだ寝ているだろうな。
短いメールだった。「ちゃんと話をしよう。」それは僕たちが何となくギクシャクしていることですよね。一緒に生活している以上こんな状態が続くのはミネさんだって嫌だろうし。
僕が大人げないのが原因だったりするから気が重いけど。あの朝帰りが効いたな・・・。
リードペーパーらしきものがないので豆腐を皿にのせてレンジにかける。そのあとフライパンで焼き目がつくまで豆腐を焼いた。
グラタン皿はなかったので、深めで楕円の皿に豆腐を並べる。ツナをチューブのニンニクで炒めた。みじん切りを備蓄するのは諦めたみたいですね。そんなに頻繁に使わないならこのチューブでいいのかもしれないです。でも生のニンニクよりおろしているせいかクサっ!!
トマト缶をジューと入れて塩コショウ。せっかくだからオレガノを入れちゃおう。
チーズをのせてオーブントースターに入れる。全部温かいからチーズに焦げ目がつけば出来上がりだ。
後片付けをしたあとマグを借りてコーヒーを注いだ。マスターのマグカップは全部酒屋さんがくれたものらしく、商品名が入っている。飲料メーカーの販促品らしいです。
ちょっと意外でした。マスターってさりげなくオシャレしている人だから、食器にもこだわりがあるのかと思っていました。それを昨日言ったら笑われた。「料理できない男が食器に凝る?」
そう言われるとそうですよね。僕だって100均でなんの問題もなかったし。でも作るようになると器が気になるから不思議です。
全部ミネさんの影響ですよね・・・ああ~あ。
「すげえ~いい匂いがするんだけど!」
パジャマの下とTシャツのギイさんが立っておりました。
「おはよう、キイは早起きだな。」
「おはようございます。」
あれ?なんか違和感。
「朝飯?コーヒーもあるのか。」
「はい、ありますよ。リビングに運びましょう。」
嬉しそうにしているギイさんは子供みたいです。昨日もヒロ~ヒロ~言い続けていました。マスターは「ん?」「あ?」なんていいながら、ちゃんとギイさんの面倒を見ている。とても自然で仲良しなのが伝わってくるから見ていてほほえましかった。
12年って長い。それを乗り越えた先にあるのが今だとしたら、その年月は無駄じゃなかった。マスターはそう言ってギイさんに微笑んだ。とても綺麗で優しい顔・・・あんなふうに笑えるようになりたい。
「これ旨いな!ええ~これ豆腐なのか!豆腐とトマトが合うの知らなかった!マジか!」
「興奮しすぎですよ。」
「これ前に教えてくれたツナトマトのソースと豆腐あればできるってこと?」
「そうです。」
「おおお!これはいい。」
モグモグ食べるギイさんを見ながら、自分の作った料理を食べてくれる人がいるのっていいな、そう考えました。僕の朝ごはんを食べるミネさんを見るのが一番嬉しいけど。
「ギイさん早起きですね。」
「リーマンはこんなもんだろう?今日祝日ですって言われても体は月曜モードだからな。週末はだいたい10:00くらいに目が覚める。ヒロがコーヒーいれるから香りが俺の目覚ましみたいなもんだ。」
朝から惚気ていますね・・・。
「マスターはまだ起きてこないのですね。」
「うん、ヒロはだいたい10:00くらいだ。今日は俺がコーヒー入れてやるとしよう。」
さりげなく仲良しアピール・・・。
「キイはさ、言ってる言葉に嘘があるから凹むんじゃないか?」
ギイさんは空になった皿にカチンとスプーンを置くと、僕の方に体を向けてそう言った。
嘘?僕の言葉に嘘?
「ミネさんとどうにかなりたいとかじゃない、あとなんだ?好きになって欲しいとかじゃない、だっけか。昨日何回もそう言っていたけど、それ嘘だろ。」
「嘘じゃないですよ。」
「いいや、嘘だ。好きな相手を欲しがらない人間なんかいないぞ。キイは言葉にすることで振り向いてもらえないかもしれない現実に対処しようとしている。でもな、それは望みと真逆なんだよ。だからモヤモヤするんじゃないのか?」
望みと真逆・・・か。
「望んだところでねっていう問題があるし。」
ギイさんはソファの背もたれに肘をついて頭をのせた。じっと見つめられてなんだか照れてしまう。
「望むから手に入るんだぞ。諦めた人間はそこで終わりだ。キイは諦めるって選択をするのかよ。昨日言ってた「特権階級」ってのにしちゃえばいいだろ、ミネさんを。」
「簡単に言いますね。」
「だって簡単だろ?好きだって言えばいい。」
「ずいぶん簡単に言うんですね。」
コーヒーをコクリと飲み込む。いつもの僕のマグはとても口当たりがいい。今日は分厚い白い陶器のせいか、コーヒーの味が薄く感じた。何でも「いつも」と比べる自分が煩わしい。
「好きだって言われて人は絆される。」
「ギイさんもですか。」
ギイさんはクスリと笑った。とっても優しい顔。
「ヒロに気持ちを打ち明けられて正直驚いた。そのあと色々考えてみたらわかったんだ。ヒロに対する気持ちは好き以外の何物でもなかった。ずっと当たり前に居る存在だったから安心しきっていた。ヒロが友達には戻れないって言ってさ、俺が感じたのは怖いってこと。いなくなられたら困るってこと。
じゃあ一緒にいればいいって答えは簡単だった。
頭の中で捏ね繰り回しても答えから遠ざかるだけだぞ。もっとシンプルにいけよ。」
「簡単とか、シンプルとか・・・。」
「だから口説けって言ってるの。男だろ?惚れた相手を口説いて手に入れる。そのためには好きだって伝える。ごめんなさいって言われたら?そんなの言われてから考えろよ。言われていないのにウダウダ考えたって無駄だ。」
口説いて手に入れる。
そうか・・・僕は無理だろうダメだろうばっかり考えていた。だから望みをもたないでミネさんの笑った顔を見ていこうって決めた。
ミネさんと僕が一緒に笑う、そんな未来を望まないように押し込めてきた。
ミネさんに好きになってもらおうって・・・考えたことなかった。
「つうかさ、すでに絆されてるかもしれないぞ。ノンケの男が頭ワシャワシャしたり、抱きしめるとかするか?しないだろう?
キイはそれどう思うわけ?」
「いや・・・かわいいって言うからペット的な・・・ですかね。」
ギイさんはハアとため息をついた(少し芝居がかっていますけど)
「あのなあ、かわいいとか言うか?男が男に。」
「僕はしょっちゅう言われますよ、色々な人に。」
「あああ!!もう!!そういうことはサラっと図々しいくらいに言えるのに、「好きです、僕のこと好きになってください。」ってなんで言えないのよ。キイは慎ましいのか大胆なのかわかんねえよ。」
自分の頭をワシャワシャしているギイさんを見て笑ってしまう。本当ですね、なんかギイさんに言われたら簡単なことのように思えてきました。
「ミネさんが好きなんです」その一言が言えそうな気がしてきた。
「毎日好きだ~~好きだ~~って言い続けろよ。向こうが絆されるまで飽きるくらい言いまくれ。
そしてミネさんの心と愛のあるセックスを手に入れろ。」
ボンと顔が赤くなったのがわかる。心は良しとして、あ、あ、愛のある△◆◎?
「なんだ、かわいいじゃねえか。童貞君でもあるまいし、赤くなるとか予想外だ。
あ・・・20歳超えたら童貞とは言えないんだったな、あれ未成年にだけ適用だ。
あ・・・キイはネコだから童貞っちゃ童貞か。」
「わ~わ~わ~~!!!」
なんという恥ずかしいことを!
「あっはっは。キイはやっぱり可愛いわ。そんな顔をたくさん見せてやればいいんだよ。暗い顔してよそよそしいとかさ、意味ないから。」
「ギイさん、恥ずかしすぎます!」
笑っていたギイさんが寝室の方を見た。ドアが閉まっているその先にはマスターがまだ眠っている。
「さんざん男と寝てきた俺が言うんだから間違いない。キイ、愛のあるセックスは最高だ。モノが違う。俺はお前にもそれを実感してもらいたいわけ。
もっと自信をもてよ。かわいいって言われるだけの器をもってるんだ。そして中身だっていい感じに育っている。ヒロがいなかったら本気で口説いていたかもしれん。」
「・・・。」
「きっと今頃起きて。あ~キイが居ないなってしょんぼりしているかもしれないな。おはようって言ってやれよ。ただいまって、あなたの所に帰ってきましたって、好きですって。」
さっきの違和感の正体はこれだ。
僕はもうずっと、朝一番のおはようをミネさんにしか言っていない。ミネさんにしか言ってもらっていない。だからさっきギイさんに「おはよう」と言われて何かが違うって・・・思ったんだ。
無性にミネさんに逢いたくなった。
「おはよう」を言いたくなった。
「ギイさん、僕。」
「おう、帰ってやれよ。朝はまだ始まったばかりだから「おはよう」に間に合う。」
「・・・ですね。」
「好きになってもらう努力を頑張れよ。そしてどうしても上手くいかないって時は慰めてやる。
ヒロと二人で一晩中ヨシヨシってしてやるから。」
「そうならないように祈っていてください。」
「ああ、勿論だ。」
ギイさんはコンビニに行くといって僕と一緒に外にでた。曇った空だけど外は明るい。緑の葉が風に揺れてキラキラ光っていた。
「じゃあな、またSABUROに食いにいくから、そのときはよろしく。」
「お待ちしています。」
ギイさんはまぶしそうに少し目を細めたあと背を向けて道路を渡っていった。肩越しに手を振りながら。僕にハッパをかけるために早く起きてくれたのかもしれない。そう考えるとなんだか胸のあたりがポカポカしてきました。
ミネさんがちゃんと話をしようって言ってくれた。だから僕もきちんと言おう。
ミネさんが好きですって・・・ちゃんと言おう。
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