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august.1.2016 意外と近くにあるものです
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「ふううう。」
今僕がついた溜息、それはSABUROにおいての僕のポジションが昨日決定したから。というかそういう認識だったのか!ということがわかったためです、ふううう。
日曜日の混み合ったランチタイム。カウンターお一人様指定席はオープンと同時に鈴なりになった。幸せな人も不幸な人も引き寄せられるようにカウンターへ。そこには後光をまき散らすかのように幸せオーラ全開、さらに輝く笑顔のミネさんがいるからです。
まあ、気持ちわからないでもありませんけどね。幸せで嬉しくて楽しくて・・・ミネさん曰く「激烈なかわいさ」にレベルアップしたハルさんとウキウキ暮らしているとなればね、ええ・・・まあ、わかりますけど!
確かにキラキラ度が増したなとは思います、ハルさん。でもミネさんの言う「激烈」かどうかは、ちょっとハンコ押せないですよっていう。
恋は人を狂わせるといいますが、どうやら視力にも影響するみたいです。
彼氏さんと来ていたすずさんが帰り際ミネさんに言ったのです。
「実巳君、なんかいいことあった?」
ありまくりなミネさんは隠すどころかバッチリ言いました。
「はい、すずさん、俺ね幸せ街道爆走中。いい人できちゃいました。」
溜息、唸り声、ポカン、えええ!などなどざわつく店内をものともせずニコニコしているミネさんを前にすずさんがケラケラ笑った。
「すっごいわね。振られ男だってぐずっていたのに、なにその突き抜け感!」
「今度は振られませんよ。もちろん俺だって振ったりしませんしね。俺の仕事に理解あるし、激烈にかわいいから言うことなしです。」
キャッシャーのところで理さんは遠くを見ていた。『やってらんねぇ~この手間かけ男が!』という吹き出しがプヨプヨ浮いているような、そんな心が丸見えな様子。
飯塚さんはすごい勢いでイタパセを刻み始めた。タンタンタンタン!!!!超高速。それ以上刻んだら、イタパセの正体が誰もわからなくなってしまいます。イタパセに罪はないのです飯塚さん!
「この際だから言っておこうかな。ハルはとっくに売れてますので、みなさん諦めちゃってください。」
「え?とっくに?そうだったの?」
すずさんに聞かれハルさん顔が真っ赤です。あ~可哀想に。ミネさんの牽制なんだか宣言かよくわからない発言にキリモミ状態のハルさん。
「ええ・・まあ、はい。とっくに売れています。」
「あらら、ここは幸せさんばっかりね。当然だけど、こんな優良物件ばっかりだもの。」
「ほら、直美。皆さん忙しいから失礼するよ。」
おお、大人な彼氏さんは心遣いもパーフェクト。
「は~い。」
間延びした返事をしたすずさんの背中をそっと押したあと、何事か小声でハルさんに言ったようです。ハルさんはコクリと頷きました。さて、何を聞かれたのでしょうか。
ミネさんもハルさんももう恋人いますよ~が周知されたSABURO。そんなこと知っていたわよ、相手がいないわけないじゃない。そんな囁きがあちこちからポロポロ。
その点理さんははじめっから指輪してますからね、彼女だ、いや既婚だ論争は水面下であるらしいですが、どっちもハズレです!と時々言ってしまいたいという誘惑にかられます。
言いませんよ、勿論。
飯塚さんは指輪にチュー事件から、相手にぞっこんだという認識が広まりSABUROの観葉植物となりました。美しい、きれいだね、空気が洗われるようだねという鑑賞物件。
みなさん、忘れてやいませんか?
そうです、僕という存在を、忘れてもらっては困ります。
テーブルに料理を運んだ時にお客さんが言ったのです。
「まさか、トアさんまで彼女さんがいるとか?」
キタキタ!
「いいえ、僕は売れ残っていますよ。買ってくれる方、大募集中です。」
テーブルのお二人はそろって首を横に振った。
ええ・・と、その反応はいったい何?
「だめですよ。トアさんは癒しキャラで導きキャラなんですから。」
「といいますと?」
「悩める人に映画を1本与えて道を示してくれる、神様みたいな人です。一人の人に縛られてパワーが落ちたら大変。ずっとこのままでいてください。」
「あははは、そんないいものではありませんよ。れっきとした人間です。」
神様にされちゃ困りますよ。それに・・・ギリシャの神様達はずいぶんご乱心にご乱交ではありませんでしたか?違いますか?僕はだめですかあああ!
という出来事から発覚したのは、僕はSABUROにおいて不可侵のキャラとして見られているということだったというわけです。
なんだか、どうなんですか?これっていう状態。
溜息10連発くらい許してほしい。
お気に入りのエコバックの中はさっき買ってきた食料品です。魚肉ソーセージじゃなくてフィッシュソーセージ「ランチバーガー」に初トライです。もちろんギョニケチャ風に調理して違いを確かめることにしますよ。神様はソーセージなんて食べないですよね、それも魚肉。
「ふうう。」
このため息は空振りしっぱなしのラーメンです。毎週律儀にラーメンを食べにいくのに、あれっきり会えないままです。スーパーでも遭遇しないし、どこにいってしまったのでしょうか。でも考えてみれば最初にあってから二回目にお会いしたのだって、けっこう間あいていましたよね。
ドキドキしながらラーメン屋に入り、ドキドキしつつ熱いからダラダラ汗をかいてのラーメン。
しかし成果なし。こんなことなら家でソーメンでも食べたほうがよかったんじゃないか。
誰でもいいです、僕に幸せのおすそ分けをしてください!!
自分の部屋があるマンションの真ん前に立って上を見上げる。もちろん人が降ってきたり、幸せが落っこちてくるようなファンタジー映画みたいなことにはなりません。
いっそのこと映画「マグノリア」みたいにカエルが空からガンガン降ってきたらいいのに。少なくとも笑えますよね、カエルですよ、それも大量に降ってくるのです!あれは意表をつかれて映画館で拍手してしまいました。隣の人に睨まれちゃいましたけど。
「えええ!!」
いきなりの驚き声。まさかカエルに代わる何かが出現したのか?!
声は横からだったので、そちらを見ると僕を指さしてキラキラの笑顔の坂口さんが立っていた。スーパーの袋を手にもって、反対の手で僕を指差している。指を差されるのは苦手ですが、時と場合、そして人によって違うってこと、初めて理解した僕です。
「坂口さん!」
「トアさん!」
「スーパーで買い物したのですか?会いませんでしたよね。」
「本当ですね、トアさんラーメン屋さんでも会いませんね。」
「ええ?毎週通ってますよ。」
「ええ!私もです。」
なんということだ、同じ行動をしつつすれ違いって何の妨害ですか。
「トアさんは・・・ここで何を?」
「何をって家に帰るところです。」
「え・・・この建物ですか?」
「ですよ、メゾン・ミドル・アイランド。ひどい名前ですよね。絶対英語わからない人がつけたんですよ。中島なだけに。」
坂口さんは気持ちのいいくらい豪快に笑った。フワフワなのに、なんだか潔くてこういうのも可愛いって思えるのですねって・・・僕は何を考えているのだ!
「私はこっちですよ。マンション・リバーサイド。ここから豊平川までかなりありますけどね。」
坂口さんが指さした5階建ての白い建物。それは僕が住んでいる建物と道路を挟んで隣合っていた。
こんなに近くに住んでいたのに?
スーパーもラーメンもダメだったのに?
これを逃したら僕は絶対後悔しますよね。神様であるより人間でいたいのですから。
「食料品を冷蔵庫にいれましょう。そして10分後にここで待ち合わせしませんか?」
「ええ?」
「前回コーヒー飲みましょうって誘ってくれましたから。今度は僕が誘います。コーヒー飲みに行きましょう。この界隈のカフェを制覇するって楽しそうじゃないです?」
「それいいですね。わかりました。10分後に。」
「はい。」
ニッコリ笑って手を振りながら川の見えないリバーサイドに坂口さんは入っていった。
そして僕はミドル・アイランドへ。
バカバカしい名前ですが、悪くないかもしれないと思いながらエレベーターを待つ。
この界隈のカフェを制覇する。「それいいですね」って言ってくれましたよね!よね!
こんなにウキウキしたのは久しぶりだ。
幸せオーラを垂れ流しているミネさんを思い出してクスっと笑った。でもわかりましたよ。勝手に流れ出るんですね、こういう楽しい気持ちって!
コーヒーを飲みながら何を話そうか。
それを考えただけで、また楽しくなってしまう僕なのです!
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