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august.2.2016 ハルの誕生日<中休み>
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朝一番に「おめでとう」を言ってもらった僕は浮かれ気味です。誕生日って友達が祝ってくれる飲み会とか、ささやかなプレゼント、親からくるおめでとうのメールだった。それが一気に質の違うものに変わったんですよ~これが浮かれないでどうしますか。
ミネさんは仕事が終わって帰ってきてから二人で誕生会をしようって言ってくれました。本当に僕は嬉しくなっちゃって、なんかもうこんな誕生日なら毎日でもいい!って思うくらい。でも1年に1回だからいいんでしょうね。
ラストオーダーを確認する時間くらいから、とてもいい匂いが店内を漂っています。
匂いの正体は僕のリクエストのハンバーグ!
今まで食べたことのないソース・・・ミネさんはどんなソースを作ってくれるのか、とても楽しみです。未知のソースを味わいたいというのもありますけど、本当は僕のために考えてくれたんだなって思えることが嬉しいのです。プレゼントもそうですよね。何を贈ったら喜んでもらえるかって考える時間、それを買いに行く労力。そのすべてが自分の為だっていうことが幸せにつながる。欲しいものを聞かれて欲しいものが手元にくるより、贈りたいと思ってくれたプレゼントを受け取りたいです。贅沢かもしれないですが。
最後のお客様が帰られて、とうとうやってきました中休みです。トアさんと洗い物をサクサク片づけている間に、理さんはホールを整えつつ、全員で座るいつものテーブルにお皿を運んでいます。
ミネさんのスペシャルハンバーグ!楽しみ。
用意が整いテーブルの上にはアツアツの料理がのっています。
ん?ハンバーグ?グラタンみたいに見えますけど・・・。
理さんはサンペレグリノをグラスに注いでいます。お誕生日だから炭酸シュワシュワですね。お酒で乾杯はできませんから。
全員席について「いただきます。」といういつもの始まりではなく、理さんの「お誕生日おめでとう!」コールで中休みが始まりました。
「おめでとう。」をたくさんもらってジーンとしちゃった僕です。ありがとうを丁寧に言いました。
「今日の賄いはハルのリクエスト。『フワフワハンバーグ、そして今まで食べたことのないソース』俺バージョンってところかな。」
焦げたチーズがプシュプシュしていて美味しそうです・・・がどうみてもグラタンにしか見えない。ハンバーグにチーズのせて焼いたのでしょうか。でもそれはファミレスにもありますよね。
「まあ、まずは食べてみてよ。」
フォークを入れると柔らかいってことがわかるハンバーグ。まずはお肉を一口パクリ。モグモグ・・・もぐもぐ・・・んん?これはなんだろう。
チーズの下はトマトソースだったけれど、風味が違う。なんの味かな、それにお肉にも何かの風味?香り?すごく馴染みのあるものなのに、わからないもどかしさ。そして全部統一感があって美味しい!安心するというか優しい味で・・・見た目はばっちり洋風なのに和食みたいな。
「うわ~ミネ、これメチャメチャ美味しい。何が入っているとか全然わからないけど。確かに食べたことのない味かな。見た目はありそうなのに。」
理さんは相かわらずのザックリ感想。
「見た目は格好いいのに、懐かしいのはなんでしょうかね。おふくろの味じゃないのに、最初に浮かんだのがそれなんです。」
「ああ!ですよね、トアさん。僕も思いました。食べたことのある風味なのに、なんだかわからないのです。」
「そうなんですよ。食べたことありますよね。この味。」
「村崎、これいつ思いついたんだよ。」
飯塚さん、なんだか悔しそうです。先を越されたっ!ってとこですかね。
「いつって?ハルのリクエストもらってから考えたわけ。特別なものじゃないけど身近な食材で差別化できないかなって。」
「まさか、ハンバーグにゴボウを入れるとはな。」
「ゴボウ!」
「牛蒡!」
「ごぼう?!」
ミネさんはエッヘン顔をしていた。あらためて一口食べてみると、なるほどゴボウですよ、これ。
えええ!
「解説しよう。豚肉とごぼうは相性抜群だろ?ごぼうの入っていない豚汁はどこかに忘れ物してきましたねって味になるじゃない。だからねハンバーグにも合うと思ったんだわ。合い挽きにさらに豚肉を加えるとフワフワに一歩近づくのは結構知られているだろ?んでパン粉の代わりにもっと低カロリーで体にいいものって探すと豆腐に行き着いたわけ。豆腐をミキサーにかけてペースト状にしたものとごぼうが入っているのであ~~る。」
豆腐ハンバーグはありますよね。ひじきとかニンジンがぴょんぴょんしていて醤油味のあんかけがかかっているようなハンバーグ。でもこれは全然違います。がっつりハンバーグです。
「豆腐とごぼう、パン粉使わない、さらに肉の量が少なくて済むの。通常はひき肉だけだけど、これはひき肉8割。豆腐とごぼうで1割ずつ。そのおかげで30%カロリーダウンになっている。パン粉使わないから糖質のカットにもなっているしね。」
栄養学が始まった。帰ったら実際成分表を見て計算してみよう。忘れないうちにノートにつけなくちゃ。
「チーズがかかっていてもカバーできるわけか。」
「サトル、その通り。まあ厳密にいうとオーバーしてるけど、でも普通のハンバーグにチーズかかっているよりは少ないよね。そしてすこし緩めに作ったトマトソースがハンバーグによく絡んでいるでしょ?あと米ナスを揚げたのも並べたから食感も楽しめる。」
サイの目の米ナスがトマトソースとチーズに絡んで美味しいのです。なんかこれ全体で一つの料理。ソースとかそういうんじゃないのです。グラタンみたいだなんてゴメンなさい、ミネさん。
「村崎、トマトソースに入れたのは味噌か?」
「みそ?」
「味噌?」
「ミソ?」
「さすが飯塚。そのとおり。なんかまとめ役さんが必要になってね。ゴボウ、豆腐、チーズ、そして肉にも合うとなると、これやっぱり発酵食品で味噌なわけよ。意外や意外、これがベストマッチ。うまく全体をまとめてくれました。」
「ミソが懐かしの素ですか!ミネさんすごすぎます!」
トアさんに激しく同意です。そういえばSABUROのグラタンの隠し味は味噌だった。サツマイモや黒豆といった具材が入ったグラタンに少しのお味噌が他とは違う味になっている人気のメニュー。
「ミネさん、ありがとうございます。今まで食べたことのないソースどころか、初めて食べる料理を作ってくれて・・・ほんとに嬉しいです。ありがとうございます。」
ミネさんはニッコリ笑ってくれた。
「だってハルの誕生日だぞ?俺が張り切るのあたりまえじゃん。」
う・・・うれしすぎる。
「そうそう、誕生日おめでとうなのに、すっかり料理試食会みたいになっちゃった。はい、これ俺たち3人から正明へのプレゼント。」
トアさんが細長い紙袋、理さんがその隣によくある大きさの紙袋を置いた。
「北川のプレゼントは気が利いているからな。それには負けるだろうが3人で選んだから開けてみて。」
開けてみてなんて、いつもより優しい飯塚さん。ちょっとドキドキしながら細長い紙袋を覗くとワインボトルだった。
白いカバーがボトルの首をしっかり覆っていて、ボトルの下にはきれいな水色の横長のラベル。
「アスティ・スプマンテ フォンタナフレッダ???」
「マスカットのスパークリングワインだよ。甘口だから正明でも大丈夫だと思ってこれにした。それにボトルがいいだろ、品があって。」
「・・・ありがとうございます。見た目ですでにおいしそうです。」
紙袋にボトルを戻して、もう一つの紙袋から箱を取り出す。百貨店の包装紙を破らないように丁寧にはがす。でてきたのは赤い箱、アルファベットの最初は「B」
「えええ!これ、まさか、まさかですか?」
赤い箱の上にプリントされていたのは 『 Baccarat 』
僕でも知っています、高級なグラスですよね。一つ何万もしちゃう凄いグラス。
「正明が思うほど高くないから。うすはりくれただろ?あれ毎日重宝しててさ。正明にも大事なグラスを持ってほしかったんだ。ペアグラスだから、ミネはおこぼれってとこかな。」
いたずらっぽく笑う理さんの顔が滲んでいく。僕の贈ったうすはりなんかに比べたら値段が違いすぎる。胸が一杯ってこういうことを言うのかな。
「シャトーバカラだったかな、タンブラーだからワインだけじゃなく、それこそ水や麦茶でもいいと思うし。こういうのは使ってナンボだからさ。」
「北川、男3人寄せ集めで贈るプレゼントだ。このくらいの値段で妥当だよ。それに若いころから良いものに触れるのはいいことだ。これは高村さんの受け売りだけど。」
理さんにするみたいな優しい笑顔の飯塚さん。なんかもう僕・・・どうしよ。
「このスパークリングワインは僕が選らんだんですよ。理さんと飯塚さんは辛口で重いワインばっかり買おうとするので阻止させていただきました。シュワっと甘く今晩はミネさんと乾杯してください。」
「うわ~~~ん。トアさ~~~ん。」
「SABUROあるあるです。誕生日にはもれなく皆泣かされるのです。」
トアさんは肩をポンポンしながらティッシュをくれた。僕…大事にされているって日ごろずっと思ってきました。そしてそれを幸せだって思っていました。でもそれが言葉になったり形になるとこんなに心に響くって知らなかった。
言葉にしたり、形にしたりして自分の気持ちをきちんと相手に伝えなくちゃいけない、その大事さ。それが年に1回であっても、毎日でも・・・思っているだけじゃダメなんですね。
幸せです、大事です、嬉しいです、楽しいです。そういう気持ちは隠しても意味がない。
僕はSABUROに来るまでは自分のことを表にださないようにしてきました。そしてだんだんそれが楽になって、人からどう思われてもいいやって諦めていた。自分の気持ちを伝えることは時に勇気が必要です。でもその勇気を持って言葉にすれば、こんなに素敵な瞬間を体験できる。
「本当に嬉しすぎて頭がどうにかなりそうです。皆さんありがとうございました。」
パチパチと拍手を貰いながら僕は大声で叫びたくなりました。
僕にはこんな素敵な仲間がいます!
最高の仲間が僕を大事にしてくれます!
そして僕はとっても幸せです!!
心の中で何回も・・・何回も言葉にする。
その言葉を噛みしめながら心に決めました。
また来年もこうやってお祝いしてもらえるように、成長する1年を送ろう。みんなと笑って過ごせる有意義な時間を過ごそう。
皆さんの気持ちに恥じない素敵な男性を目指します!!
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