アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
september.9.2016 臆病風が吹いた先 1
-
ガランとした部屋。
もちろん真っ暗だ。これが冬ならガツンと寒さが沁みるのだろう、考えるだけで心が沈んでいく。
「情けない、少し前までこれが当たり前だったろう?」
誰も言ってくれないから自分で声にだしてみる。だからといってここは暗いままだし気持ちが上がるはずもない。
壁のスイッチをパチンと押せばオレンジ色の光がつく。蛍光灯の白い色が苦手だから家の中はすべて電球色だ。「あ~電気の色が俺の部屋と違うのか。」そう言って天井の照明を見上げた儀は今ここにいない。
ここ2週間ばかり、儀は俺の部屋にほとんど来ていなかった。
約9ケ月、仕事が終わってマンションを見上げれば俺の部屋には電気がついていて、緩む口元を意識して引き締めながら階段をあがる。鍵を回して玄関のドアを開ければ、そこには確かな人の気配。リビングには寝てればいいのにまだ起きている儀が座っていて「おかえり、お疲れ。」と言ってくれる。
俺の体から力が抜けて、あ~帰ってきてよかったとホっとする、ささやかな幸せの瞬間。
たった9ケ月。
でもそのプロセスがなくなると、相当依存していた自分の気持ちが丸見えだ。
確かに付き合いだけは無駄に長い俺たちだったけれど、恋人同士としてはホヤホヤだ。3ケ月、半年。3ケ月ごとの節目でも変わることなく顔を突き合わせ、同じベッドで眠り、同じ部屋で過ごした。
重い9ケ月。
「仕事が立て込んでいるから、落ち着くまで自分の所に帰る。」
儀のその言葉に怯えながら笑顔を貼り付けて「無理するなよ。」なんて返した俺。出来立てはいつか常温になり、やがて冷める。そうならない為にはお互いが向き合って笑顔ですごすべきなのに、笑顔を向ける相手がいない。
一人の男とだけ向き合うのが面倒になったのか?
他の男を抱いた腕なんか欲しくない。長い片思いの時には「うまくいったほうが大変だろう。あんな浮気者と一緒にいれば気持ちがすり減るだけだ。」と考えていた。でも今は違う。
この9ケ月、儀は俺を裏切るようなことはしていないと思えたし、それを信じてもいいという確信がある。だからこそ、なぜ自分の家に帰るようになったのかわからない。そしてそれを聞く勇気が俺にはない。
堂々巡り。
『雨がひどいから帰り気をつけろよ。』
『土曜はそっちにいく。』
メールは来ている、電話も来る。でも家にこない。どうして恋はこうも厄介なのだろう。簡単なことで沈み、バカみたいなことで浮上する。一喜一憂を繰り返し、こんなに振り回されるのは懲り懲りだなんて思うくせに、それが嬉しかったりもする。特に俺は沈む方の能力に優れているからすぐにグズグズになる。面倒くさい男だという自覚はあるが、こればっかりはどうしようもない。
「ネガティブすぎだろ?」
もう一度だけ声にしてみるがやはり効果はないままだ。
一晩寝れば、明日にはきっと・・・そう信じて早2週間。また今日も同じことを頭において寝るのだろう。だが、薄々気が付きはじめている。
このままでは駄目だということ。
放っておけばおくほどに状況が悪くなるということ。
それに気が付いているくせに動けない自分が情けない。
一人で缶ビールを開ける気になれず、そのままベッドに潜り込んだ。自分のベッドなのに、まるで他人のベッドを借りているような気分で。
儀のいない部屋はもう二度と俺の部屋には戻れない。
じわりと涙が滲みそうになりきつく目を閉じる。
明日は土曜日だから儀はここに来る。大丈夫だ、来るってメールが来たんだし。
大丈夫…大丈夫。
さりげなく「何かあったのか?仕事大変なのか?」と聞いてみればいい。
怖れている言葉を聞かされる羽目になったら?
そもそもここに来なかったら?
上掛けをひっぱりあげ中にすっぽり埋まる。
何も見えない暗い闇がきっと俺を眠らせてくれる。
何も見えないほうがいい・・・何も。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
306 / 474