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september.9.2016 臆病風が吹いた先 2
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「なんだかゲッソリしてませんか?忙しいのはわかりますが、ちゃんと食べてます?」
やつれた顔をしている自覚はある。仕事はまあ適当に忙しいが目が回るほどでもない。ここのところ色々なことに向き合いすぎて自分の行く末にビクビクしている。そのせいで肌の弾力は失われ、艶なんかこれっぽっちもない。会社の連中は「夜遊びのしすぎ」「酒の飲みすぎ」だと言って自分推しの健康法を押し付けてくる始末。
そんな健康法なんか役に立たない。でもそれを言えないわけで、足が向いたのはSABUROだった。
ゲッソリしていても腹は減る。こういう時こそ旨いものに向き合えば少しは気持ちが上向く気がしたから。
そしてここには忌々しいほどキラキラしているキイがいた。そりゃそうだ、片想いキラキラは今や両想いキラキラ。エルドラドか改修したての金閣寺みたいに金ぴか野郎になっている。
「キイは万全ですって感じだな。」
「ですかね。楽しいですが面倒くさい時もありますよ。」
どこが面倒くさいって顔だよと言ってやりたくなったがやめた。泊りに来たときの半ば諦め顔のキイにハッパをかけたのは俺だし、キイはちゃんと口説いてモノにしたーそれもノンケを。
これから困難はやってくるだろうし壁もニョキニョキ立ち塞がって行く手を阻むだろう。でも二人が同じ気持ちならきっと乗り越えられるはずだ・・・ああ、そうか。本当なら二人で考えるべき事を一人でウンウン唸っているからこういう状態になるわけか。
そうだとしても俺は一人で抱えたかった。今までチャランポランに生きてきて浮き草みたいにその時の流れに身を任せていた。いい流れの時もあれば干上がった事もある。淀んだり澄み切ったりを繰り返してきたが、いつまでもチョロチョロしていられない現実にぶち当たり身動きがとれなくなった。
そんな俺に手を差し伸べたのがヒロで、俺はその手を取った。
9ケ月。
俺たちの長い関わりの中ではわずかな時間だというのに、とてつもなく重いものになってしまった。
こんなことは初めてで、自分がどう生きるかを考え始めたり、横でほほ笑む存在が与えてくれる安堵という柔らかさに戸惑いつつ手放せなくなった。
そしてそれと同じくらいの恐怖といっていい恐れが生まれた・・・俺の中に。
見ないふりをすればするほど、それはネチネチと俺に迫ってくる。失うことは予定でも未来でもないというのに「もし」「万が一」がふと脳裏をよぎる。
それなら少し距離を置いても平気になれば問題が解決するだろう。そう考えたのにガランとした自分の家で過ごすほどに、怖さが増すだけだった。
いずれは慣れる。
そう言い聞かせた2週間は無駄な行動だったようで、キイがいうように単に俺の心を削り皮膚をたるませただけだった。
「キイ聞いてもいいか?」
「ラストオーダーになってからでも大丈夫ですか?あと10分です。」
「そんなに長くはかからないから。悪いな、忙しいのに。」
「いいえ、ギイさんのおかげで今僕は元気なので。」
元気か・・・。キラキラで元気とは最強じゃねえか、まったく。
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