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september.18.2016 トア自覚する 2
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「どうですか?」
僕の後ろに鏡を持ちあげて坂口さんはそう言いました。
ちゃんと絶壁後頭部はカバーされているし、今までより優しい男子的な装いになっております。
髪型だけですが・・・。
「いえ、なんかいいですね。気に入りました、ほんとです!」
「ならよかった~。仕上がりが変だったら番組に苦情がきちゃうかもしれないし。」
「いえいえ!とんでもない。逆に問い合わせがくるかもしれないです!というレベルですよ。」
不器用な僕にでもスタイリングができそうだし、今までと何かが違うという感じが気に入りました。やはり男性と女性の感性の違いでしょうか。
「連休なのにお休みになることがあるって珍しいですね。」
「そうですね。月曜日祝日の時だけです。それも年に何回かだけです。体力勝負の仕事なので、お休みは大事ですから。坂口さん、明日はお休みですか?」
「はい、いつもどおりに。」
「僕は明日シアターキノに行こうかなと。気になる映画が2本ばかりありまして。」
「そうですか。じゃあ、明日カフェ巡りは無しですね。ラーメン食べにいこうかな。」
ハルさんが言っていましたね、そういえば。オータムフェスト・・・でしたっけ。そこにはきっとラーメンだってあるに違いない、それも何種類もです。しかし映画も捨てがたい。爺さんになったレッドフォードも気になるし、男の子と日系人の関わりの物語も見たいし。
「あの~ですね。気になる映画が2本あって連続で見るつもりです。15:30から19:30までになるのですが・・・ええと、もしよかったら、映画を見たり・・・大通り公園でやっているオータムフェストでいつもと違うラーメンを試したりとか・・・はどうですか?
あ~でも僕セレクトの映画はデート向きじゃないから・・・ピンときませんよね、なんだかすいません。」
「えっ?」
「あ~いやいや、忘れてください。楽しそうだなと思ったら勝手に口から言葉が。あわわわ。」
鏡に映る坂口さんの頬がほんのり赤くなった。その表情はハルさんの最強キュートな笑顔とは違って、僕の心がホワンとする。
「トアさん・・・デートって言いましたよね、言いましたよね?」
デ・・・デート。
うわ~~うわ~~何を口走っているのですか!カフェ巡りやラーメンや朝の出勤はデートではないというか夜まるきもデートではなく、いやデートだったのか?いやいや、デートと口にしたらそれはデートになるのですか?食事とデートの違いってなんですか?
映画鑑賞とデート映画の違いってなんですか?
なんですか?そうですか?うわ~~うわ~~
ほんのり坂口さんどころではない。鏡に映る僕の顔は茹タコか還暦のちゃんちゃんこかという、ああ~頭がおかしいことに!
ええ、赤面です、それもかなりの赤面状態です!
「・・・言ったような気がします。それで今かなりテンパっておりまして・・・。」
坂口さんはクスクス笑った。
「ですよね。真っ赤な顔を見ればわかります。」
逃げ場がない。
僕はイスに座ったまま、ひたすら血が顔面から元の位置に戻るのを待った。だってもうどうしようもないので、心臓がおとなしくなり通常運転に切り替わるよう脳にお願いするしかない。
「ぜひ。」
はい?
「シネマレストランで取り上げることになるかもしれない映画ですよね。その初見に立ち会えるのってすごくないですか?」
「はいぃ?」
鏡越しに坂口さんはにっこり笑った。
「映画いきたいです。そしておいしいものを食べちゃいましょう。食べるのは映画の前がいいのかな。
映画見た後、トアさんの感想も聞いてみたいから、それはお店がいいですよね。
じゃあ、お昼を大通りにして映画みて、どこかで映画談義をする日にしましょう、明日。」
「いいのですか?」
「もちろんです。トアさんとデートですね、明日。」
ホワン
ホワン
ホワ~~ン
「が、がんばります!」
僕の意味不明な決意表明に返ってきたのは、ホンワカ笑顔でした。
飯塚さんは笑うよりニヤリだから・・・理さんの笑顔を見たとき飯塚さんはこんな気持ちになるのでしょうか。ミネさんのフニャっていう顔を見たらハルさんは絶対笑顔になりますよね。笑顔の連鎖って素敵です。
そしてなにより、鏡の向こうに映る笑顔は僕に向けられているということが大事なのです。
それはとても嬉しいことで、同時にムズムズするようなホワンとするような・・・ずっと持ち続けていたい、そんな想いが自然と沸いてくる不思議な感覚。
笑ってくれている。
僕はこの瞬間思いました。
坂口さんにいつも笑ってもらえるように、僕なりに頑張ろう。僕なりに無理をせず、僕らしく。
きっと・・・きっと坂口さんは少しずれている僕を笑ったりしない。
僕らしくある姿に微笑んでくれる。
はっきりと自覚しました。
僕は・・・坂口さんが好きなんですね。
うん・・好きなんだ。
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