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september.27.2016 優しい朝
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シャアア
んんん・・・カーテン?
ベッドの中でモゾモゾ動いてみたらいつも横にある暖かさがなくて、一瞬身体が硬くなった。
ミネさん、起きたの?
寝起きが悪い僕なりにモタモタ動きながらベッドを抜け出す。ミネさんが寝ていた場所はまだ少し暖かかったから、起きてからそんなに時間はたっていないはず。
フワ~~とあくびが出て、ちょっと心配な状況なのにボケボケしてしまいました。
心配ごとでもあるのかな?
年末が着々と近づいてきているから・・・でもハルがいるから大丈夫って言ってくれたのに。
自分の部屋をでて廊下からリビングのドアを見ると、明るい光が見えた。やっぱりさっきの音はカーテンをあけたシャアアだったんだ。
ペタペタ裸足の音が聞こえているかな、ミネさん。僕は廊下を進んでドアを開ける。
ソファに座ったミネさんの後頭部が見えて、ホっと息が漏れた。少し寝癖のついたいつものミネさんの髪が僕を安心させてくれた。
「おはようございます。」
ミネさんがゆっくり振り向く。
「おはよう、ハル。」
僕はいつもテーブルとソファの間に埋まるようにペタンと座るけど、今日はミネさんの隣にストンと腰を下ろした。
「先に起きちゃったんですね。」
「なんかね。」
「起こしてくれればいいのに。」
ミネさんが僕の髪をクルクルしながら優しく微笑む。
「起こそうとしてキスしたけど、ハルはスピースピーって寝てるからさ、しょうがないから一人で起きた。」
「・・・そういうのは僕が目を覚ましているときにしてください。」
すかさずチュっと唇が重なる。
「はい、しました。」
「もおおお・・・。」
クルクル髪で遊んでいたミネさんの手はポスンと落ちてきて僕の手と重なった。
「ハルはブルーマンデーっていう気分知ってるの?」
「ブルーマンデーですか?あ~月曜日憂鬱!っていうのですね。どうでしょう・・・自分で言うのもなんですが基本的に真面目なんですよね。大学も面倒だ行きたくないってサボると癖になる。授業にでるのが当たり前なのに、サボり癖がついた人がちゃんと学校きたぜ、すごいだろ的なのは共感できなかったですね。
サラリーマンをしていたらそういう気分になったのかもしれないですが今となってはわかりません。」
「そっか~。俺もわかんない。仕事行きたくないなって思ったことないし。なんだろうな、サラリーマンの人は仕事してますっていうのぴったりだけど、俺みたいな職業は仕事なんだけどちょっと違うのよね。」
「立派にお仕事です。」
「そうなんだけどね~。」
「コーヒーいれますね。」
「ありがとう、お願い。」
僕が立ち上がるとつないでいた手が解けた。またすぐ戻ってこられるのに寂しいと思ってしまう。好きな人に触れるってとっても暖かいし安心する。それが消えてしまうってとても怖いことだ。
だからコーヒーをセットしてマグカップを選らんだらすぐにソファに戻った。コーヒーがおちてピーピーピーって音がしたらまた同じように少し離れちゃうのに。
こんな小さいことにまで僕は欲張りになっています。毎日毎日、少しずつどんどん・・・欲張りって上限がないですよね、もっともっとを望んでしまう。
でも僕がもっとってお願いしたら「いいよ。」ってミネさんはあっさり言うんだ、きっと。
「目が覚めてえらい早起きしちゃったなって。まだ暗くてね。でも時間みたらいつもの時間の30分前くらいだった。日が短くなってるってことだよね。だんだん朝が遅くなる。」
「ですね、今は夕方6時で真っ暗です。」
「もうすぐ4時で真っ暗になるな。」
少しずつ冬が近づいてくる感覚。日が短くなって、天気予報の気温がどんどん下がっていく。本州との温度差が広がって雨マークが雪だるまになったとき、あ~きちゃったよ!半年冬だよっていうあれです。
あとはもう桜が咲くまでの時間、春を待ちながら冬を越す。
「今年はストーブの火入れ、何月でしょうね。」
「だ~~な。厨房チームとしてはストーブついたほうが手間は省ける。」
「ああ、パンにチーズのせてストーブに乗せるだけでいいですもんね。」
「そういうこと。その程度ならハルは余裕でクリアだろう?
今年からサービスパンはハルに任せちゃおうかな。」
ミネさんの手が僕の太ももの上にポンとのったから、迷わずその手を掴んで握る。
ミネさんの横顔がふわっと緩んだ。
「理がさ、日曜の夜営業の時言ったんだよね。
『サザエさん始まる時間って「ああ~あ」って感じだったけど、ここだと「夜はこれからだ」って思ってね「あ~明日休みだ!」ってうれしくなる。世間の大部分が月曜か~ああ~~あ~~会社行きたくないなって出勤する姿を横目に俺はお休み。もともと火曜日に恨みはないから、なんかね気持ちが楽。色々前向き。』って。
俺はそういう感覚イマイチわからないから「へえ~」って言ったんだけどね・・・っていう別に意味もなんにもない話。」
「それで今日一人で起きてみたのですか?」
「んんん~かもね。火曜日憂鬱?行きたくないって思う?って自分に聞いてみた。やっぱり俺は行きたくないとか思わないんだわ、これが。考えないといけないことは沢山あるけど、嫌じゃない。やっぱり性に合っているんだろうな、この職業。」
「天職ってそういうものかもしれないですよ?」
「そうなのかな。好きなことを職業にできているのって幸せだよな。」
「です。」
ミネさんは僕の顔を見た。キュっと握られた手に力がこもる。
「ハルはSABUROでよかったのかなって思うことがある。北川さんや広美さんが望んでいたように「お仕事」をするサラリーマンみたいな人生もあったわけだし。この仕事は拘束時間が長いから、時給に換算したらいくらなの?って考えちゃいけない面もある。これは今後改善していきたいと思っているけどね。みんなで努力すれば待遇だって変えられるはずだし。
ハルは楽しい?毎日楽しい?」
変なの。僕が思ったのはそんなこと。
だってSABUROで働くことは僕が望んだことだ。そもそもサラリーマンの自分をまったくイメージできなかったし。やりたいことが全くなかったのに、SABUROには居たいって本気で思えた。
「ミネさん・・・SABUROは僕を必要としてくれていました。それは今まで経験したことのない事で、それによって色々なことに気付ける切っ掛けになったんです。家族との関わり方だって変わることができた。コンビニバイト時代に考えなかったお客さんの気持ちに心を砕けるようになった。
皆と働く喜びを得ました。
オーベルジュで星を見上げたとき実感しました、僕の居場所はここなんだって。
そして今はミネさんが僕と一緒にいてくれます。
だから僕はここにいます。もちろん毎日楽しいですよ、大丈夫です。」
「そっか。」
「はい。」
手を引っ張られて僕はスポンとミネさんの腕の中。
やっぱりここは安心する。
だって今ここは僕の場所です、僕のものにならない寂しい場所ではありません。
ピーピーピー
コーヒーメイカーの呼び出し。
「コーヒーおちました。」
「だな。」
「取りに行きます。」
「ん、もう少し。」
「ぬるくなりますよ。」
「大丈夫、あと少し。ハルと一緒はどの時間でも気持ちが優しくなれるな。」
「・・・僕もです。」
「仲良しでいような。」
僕はミネさんに言葉や気持ち、知識と技術、いろんな物を貰っている。でも僕はお返しができているだろうかと時々考えてしまう。
何もないかもしれない、わずかかもしれない。
ミネさんが優しく穏やかな気持ちになれるのなら、それが今の僕ができること。
焦らずゆっくり
僕は僕のできることを見つけていこう。見守っていてくださいねってお願いしたらミネさんは言ってくれるんだ。
「いいよ。」・・・て。
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