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october.15.2016 大晦日問題にございまする~
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あららら、そんなしかめっ面ミネがみたら飛んでくるよ、正明。
画面と睨めっこしたあとスマホをテーブルの上に置いて腕を組んでいる。この先日本は大丈夫なのか?と将来を憂いているのか・・・面倒なメールがきたのか。
「どうしたの。」
「ああ・・・理さん。」
しかめっ面は俺の顔を見たとたん困った顔に変わった。これは個人的なことで日本の将来みたいな壮大な理由ではないみたい。
「メールですよ。」
「誰から?」
「・・・母親です。」
正明が日々こぼしている北川家問題。問題というか、北川家がこぞってミネにメロメロだっていう嬉しいのか面倒なのかわからない案件。息子さんと付き合います宣言をしに実家に乗り込むなんて、俺には考えられない。衛の両親に逢う?イヤイヤイヤ!考えただけで動悸息切れ状態になりそうだ。第一自分の親にだって言えていないのに、相手の親に交際宣言?無理でしょう。それに男同士という難易度の高い関係性から宣戦布告みたいな様相になりそう。・・・考えたくない。
だからこそ「息子さんとお付き合いします。」と言われた時の正明の両親の気持ちは想像できる。
正明がゲイだということは家族皆知っているし、そこにミネが颯爽と現れたわけだ。
・・・すごく嬉しかっただろうなって、その場にいなくてもわかる。
北川家の面々はちょくちょくSABUROにやってくるようになった。正明父は会社や取引先の相手を伴って仕事モードですオーラをバリバリだしているくせに、厨房のミネの姿をチラチラ見て頬を緩ませる。「どうかしましたか?」「なにかいいことでも?」そんな事を聞かれてしまうほど顔がユルユル。
答えは決まっていて「美味しいものを食べると幸せな気持ちになりますから、勝手に笑顔になるというものです。」と言う。「あははは、ですよね。」「たしかにそうですね。」
そんな会話を続けながら北川父は厨房を懲りずにチラ見する。見ていてほほえましくもあり・・・正明は大変そうだなと思ってしまうのだ。
正明母は布教活動よろしく、色々な知り合いを伴って参上する。北川父の時にはしないのに、ミネは必ず厨房からでて「いらっしゃいませ、広美さん。」と挨拶。
誇らしげで自慢げな母親の様子に正明はいつも呆れ顔でため息をつく。「自分の歳忘れているんですかね。みっともない。」そう言ってサービスをトアに押し付け母親テーブルには近寄らない・・・気持ちはわかるけど。
弟君は客で来るのと遊びにくるのが半々。トアや正明とワイワイしたあとミネから渡されるお土産にこれまたメロメロ顔だ。ランチであまったデザートの寄せあつめとか、賄いの残り、北川家用のフォカッチャなど、その日によって内容が違うあたりも楽しみなのだろう。
「ミネさん格好いいよな。」が最近の口癖らしく、正明はそれも面白くないらしい。
ミネが格好いい事を最初に知ったのは自分だと言いたいようだ。でもそれを言ったらSABUROのメンバーなら衛が一番長い付き合いだから、最初が正明かどうかは・・・疑問。
正明以上に家族がメロメロっていうのは、反対されているよりずっといいけどちょっと困るよね。
うん、俺なら困る、おまけに超絶恥ずかしくなるから家族の前に出られなくなりそうだ。
「ん?お母さんなんて?またランチに来てくれるのかな。予約いれとくよ。」
正明は俺の言葉にため息をついたあと「聞いてください!」と言って俺の腕をつかんだ。ミネと年末プランの打ち合わせでもしようと半ば立ち上がりかけていた俺はそのまま椅子に座ることになった。困っている正明を見捨てるわけにはいかない。クランキー同盟は時にビジネスより重いのだ!
「母親が・・・というか家族の総意でしょうね。今年の大晦日の確認メールがきました。」
「大晦日?やけに気が早いね。その前にクリスマスがあるし、ボーナス!とか冬休み~なんていうイベントがあるのに、10月にしてもう大晦日?親戚が集まるとか?」
「いえ。両親ともに一人っ子だから親戚っていう付き合いはほとんどないのです。煩わしくなくていいですけど。って違いますよ。大晦日は帰ってくるだろう?っていう確認。」
「正明は毎年実家で年越しじゃないか。俺は今どうしようか悩み中。去年お疲れ衛を放置したら案の定風呂入ってベッドに直行したらしく全然大晦日らしい年越ししてなくてさ。年明け休みがあるから元旦に帰ってもいいかなとか。」
「あの・・・。」
「ん?」
「理さんの話じゃなくて、まずは僕の事をやっつけませんか?」
「あ~~悪い悪い。」
そう!大晦日問題。後回しにしていたけど俺もどうしたものか思案中で・・・衛を一人で年越しさせたくないけれど、一緒に俺と帰るのは気をつかわせそう。「じゃあ、一緒に帰ろうか。」と衛が言っても、帰ってみれば気を遣ったり居心地悪いこともあるだろう。「いや、気兼ねなく家族と過ごしてこい。」と言われたら、それはそれでなんだか寂しいというか衛が可哀想な気もしたり。でも正月くらいは親に顔を見せるべきかな、いや今年は結構マメに帰ったから今回はパスでもいいいかな・・・とかとか、などなど。どれもバッチリ!という解決策には遠くて困っていたところ。
結婚しているわけじゃないけど、当人同士だけではない周囲との関わり方という未経験の課題が生まれてしまっている。
間違い!正解!って各家庭で答えに違いがありそうなので、参考にならないような気がする。結局のところ俺と衛が周囲にどう接していくのかという事なんだろうけど・・・難しいよね。
「まず『大晦日帰ってくるのは何時ごろ?今年もお土産あるのかしら~~』という後半はかなり図々しい質問でした。」
「今年はチーム厨房要員だし、ミネは北川家にもちゃんと土産用意すると思うよ?なんていったって大晦日なんだしさ。」
「・・・それはそうでしょうけど。ミネさんと一緒に帰ってきなさいよってことなのです。なんでミネさんが年の初めから他人に気を遣うようなことしなくちゃいけないのかって思いませんか?
いつもは高村さんの所にいくわけなので、なにも僕の家族と過ごす必要ないですよね?
だってもし逆の立場だったらどうしますか!ミネさんの両親とともに年越し&新年。なんかもう考えただけで過呼吸になりそうです。」
「・・・わかる。衛の親と一緒とか無理すぎて逃げ出す。」
「ですよね?それを期待している北川家って何なんですか!と言いたいのです。」
「それ伝えたの?」
「はい・・・返事は「ミネさんは何て言っているの?」ですよ?「行きます。」ってミネさんが言ってもそれ気が休まりませんよね?大仕事したあとの大晦日だって言うのに。ミネさんが「遠慮するよ、ハルは家族と年越ししてきなさい。」って言ったとします。僕はやっぱりそうですよねって思うけど、北川家は落胆しますよね・・・。なんかそれってミネさんの評価に影響しないかって別の心配というか懸念が発生で・・・なんかもう僕どうしたらいいのですか!って感じなのです。
こんなこと相談できるの理さんしかいなくって。」
鏡をみているようだよ、正明。俺もまったく同じ問題に直面している。武本家と北川家のテンションは違っているけど、根本は同じ・・・ああ、なんかミネじゃないけど暗黒モードになりそう。
「真剣に付き合って相手が大事になると当人だけの問題じゃなくなるというか、そういうこと出てくるよね。正明も俺も反対されていないだけに・・・あ、俺の場合は姉ちゃん夫婦が認めてくれていて親は知らない事だけど。適度な距離感とかさ、これから作っていかないといけないのかな。自分たちと周りとのバランス。」
正明はフウとため息をついた。
「そうですよね。バランスか~。ミネさんと別れるなんて事になったら家族会議に呼ばれて被告人みたいな扱いをされそうです。」
ぶっ
思わず吹き出してしまった。北川家の三人から責められる正明・・・かなり厳しい追及がされそう。
「笑いごとじゃないですよ。でも時々考えちゃったりします。いつか・・・やっぱり女の人がいいって言われるんじゃないかって。こればっかりは僕の努力で何とかなる事じゃないですよね。」
「んんん・・・そうだけど。正明とだから成立するっていう二人の関係を作れば性別に対抗することはできると思うけどな。俺は衛が性別を理由に離れていくことはないって根拠のない確信がある。」
「そうなんですか?そんな自信僕にはないです。」
「自信とは違うかな。衛が俺から離れていくっていう時は・・・本当に俺じゃダメだって事なんだよね。性別が理由であれば慰めになる気がするけど、完全に駄目ってことだから向き合えるか自信がないし怖い。あんまり考えたくないことだけどね。」
正明の顔はすっかりションボリ顔だ。衛とは話さないことを正明には言えたりする。たぶん正明も同じだろう、ミネに言えないことや不安を言葉するとき俺を選ぶ。
うまく表現できない漠然とした不安やモヤモヤ。それが正明相手だと素直に言えるのは、俺達はどこか似たもの同士なのかも。
不安か・・・俊己さんは後回しにしなければ大丈夫だって言った。
大晦日問題も後回しはいけないよね、そうだね。
「ミネに北川家のお誘いの件聞いてみた?」
「いいえ、言ってません。」
「案外「んじゃ、いくか?」なんて言うかもよ。」
正明はボヤンとテーブルに視線を落とした。ミネに話したらどうなるのか考えている様子に俺はハっとした。俺達ってやっぱり同じだわ。
正明は何か閃いたのか俺の顔を見る。
「理さんは飯塚さんに聞きました?」
「いや・・・言ってない。俺の頭の中でグルグル回してた。」
正明は笑顔を浮かべて俺の手の甲をツンツンつついた。
「僕たち、自分だったらアタフタしちゃうから相手もそうだって思いこんでいましたね。ミネさんや飯塚さんがどう感じるかってことを脇に置いちゃってますよね。大晦日どうしましょうか、実は・・・って話をして、どうするか話し合えばいいだけのことですよね。グズグズ考えていても僕には答えが出せない。理さんも一緒です。無駄なお悩みだったのかも。」
・・・確かに。
衛とアタフタするもよし、意外とあっさり「行こうか。」に驚くのもあり。「一人で言って来い。」に「お前は寂しくないのかよ~。」と言ったっていい。
取り越し苦労というか先回りしすぎな自分におかしくなって笑ってしまった。
「俺達似た者だな。」
「ですね、心配しすぎかな。ミネさんのどんとこい的な所、見習わなくちゃ。」
「俺も。衛の揺るがない所、真似したほうがいいかもな。」
今晩家に帰ったら聞いてみよう。「お前大晦日どうするの?」って。そこから二人で話し合って決めればいい。二人にとって周りにとってベストな方向性を見つけよう。
「今晩ミネさんに聞いてみます。」
「俺もそうするよ。」
正明のしかめっ面は綺麗に消えて、柔らかい笑顔が浮かんでいる。きっとそれは俺も一緒。
不安になったり一人では解決できない事を誰かに話すのはいいことだね。安心感が不安を覆い隠してくれる。
クランキー同盟は大事な絆。
今晩コンビニでクランキーを買って帰ろうか。
正明との縁が繋がった、あのコンビニで。
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