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november.7.2016 北広島三井アウレトレットパーク 3
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なんで北海道ロコに最初に行っちゃったんだろ、私。
ベビーリーフがお買い得だったし、野菜が沢山あってついつい買ってしまった。気になるお店は覗いたけど、コレっていうものがなかったので買わなかった。それに今日は私の買い物にきたわけじゃないし、いいものを見つけようとして北広島まで来たんだし!(札駅からバスで一本だけど・・・)
ザックリしたニットかな?ジャケット?このあいだコートのサイズは盗み見したからサイズの把握は大丈夫。
バナリパがあるのは増床したフロアなので高架の連絡通路で道路を横断して別棟に行く。こっちはわりと静かなフロアで買い物がしやすい。
自分用に掘り出し物があったら買っちゃおうかな。来月ボーナス月だしね。
店舗右側が女性フロア、左側が男性。女性側から入ろうとしたら男性ディスプレイの前で男の子が「コレ~これ~」と言って指さしていた。君にはまだ10年位以上早いよ!と言ってあげたくなる位、そのこは真剣だった。お父さんのお買い物かな。
「翔、まずは兄さんのですよ。」
「それはおかあさんがえらぶの。ボクはとっちゃんのえらぶの!」
何故か私はさっと売り場に入って彼らから見えない場所に位置取りをしてしまった。「いらっしゃいませ。」と声をかけられ、うぐっとなる。そそくさとコートがかかっているラックの後ろ側で一息ついて耳をすませば何をどう間違ってもトアさんの声だ。それに翔って呼んでいるから間違いない。
「翔、中にも沢山あるんだから、まず全部みてみましょうよ。ほらこれなんかどうかしら、きれいな色よ。」
「え~それくろい。くろはだめ!おもしろくない。」
「黒じゃないのに。」
和気あいあいすぎる和やかファミリーの会話だった。私はそろそろと店舗の奥に進み、女性と男性の売り場に通じる通路からそっと眺める。そこには元気な男の子がトアさんの手をとりながら笑顔で見上げている。もちろん視線の先のトアさんだって笑顔だ。しょうがないわねって顔をしている女性は翔君のお母さん・・・トアさんのお義姉さんということになる。表面はグレー、裏側が紫色でそれがそのままパイピングになっている洒落たコートを身にまとい、パイピングと同色のスヌードと手袋をしていた。7分丈のコートから黒いタイトスカートと編み上げのブーツ。きりっと一つにまとめたロングヘア。きちんと手入れされている艶のある髪-大人の女性だった。
トアさんは7歳お兄さんと離れているから、トアさんより少し年上なくらいだろう。元気な子供を間に挟んで服を選んでいる姿に、何故か私の心が沈んでいった。
なんでだろ・・・。
よくわからない感情に私の表情はこわばっていたのかもしれない。
なんの前触れもなく振り向いたトアさんが私を認めて驚いた顔をしたあと、心配そうな表情に変わった。
「坂口・・・さん。」
「あ、いえ、ほんとに偶然ですから。」
本当に偶然なのに言い訳みたいに聞こえる言葉を言ってしまい、さらに落ち込む。あら?という顔をしたお義姉さんに軽く会釈をされてバネ仕掛けの人形みたいに頭を下げた。
「私はもう帰るところなので。」
またしてもヘタな言葉を重ねてしまう。
「とっちゃんのおともだち?わああい!」
紺色のピーコートに黄緑色のタートルを合わせるなんて、将来どれだけハイセンスな男子に育てるつもりなんだろうとぼんやり考えていた私は不意打ちのタックルによろけてしまった。(ついでにいうとボトムはダークブラウンのコーデュロイだった!)
「翔!」トアさんとお義姉さん見事にシンクロ。
「とっちゃんの友達?」
「ああ、ええっと翔君ね。」
「えええ~ボクのことしってるの?」
「うん、トアさんがよく翔君のことお話しするから。」
「えへへへ。」
不覚にもカワイイと思ってしまった・・・。
「お買い物が終わったら一息つこうと思っていた所なの。一緒にいかがですか?」
素敵な大人の女性がニッコリ微笑んでいる。でも私は何故かここにいたくなくて、一人で自分の家に帰りたいと思った。あのデジタルの時計をみて落ち着きたいって思った。どうしても・・・そう思った。
「いえ、あと10分でバスがでるので。私は帰ります。今度機会があったら是非ご一緒させてください。
トアさんも、じゃあ、また。」
「坂口さん?」
またもや私はぴょこんと頭を下げて翔君にじゃあねと言って足早に店をでた。後ろから聞こえてきたのは「稔明さん背中かしてくれる?このセーターどうかしらね。」なんていう声。トアさんの背中にセーターをあててサイズの確認をしているのだろう。
別にトアさんがお義姉さんとどうしたってことじゃない・・・なんだろう、私はあの人達のきっと1/100もトアさんのことを知らないっている現実かな。
朝一緒に仕事にいって、お休みを過ごして、沢山の話をして、トアさんが私の中にいっぱい積もっていくのに、きっと私はトアさんの生活の中にはほんのちょびっとの存在でしかないっていう敗北感・・・。
これ以上考えるのはやめよう。
冬が寒いって便利だ。冷たい風が吹くと涙が流れる。あくびをしたときみたいに涙がでる。
だから風のせいにしてバスを待とう。おうちに帰って、ベビーリーフのサラダを食べよう。
それともパスタにしようか。
涙を拭いた手袋の先が湿って、太陽の光をキラリと映しとった。
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