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november.8.2016 HAPPY BIRTHDAY,SATORU
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朝か・・・
昨日の夜?あ~いや日付がかわったばかりの時間に衛がくれた「おめでとう。」は去年も同じ。だからきっと目覚めた朝にも同じように「おめでとう。」をくれるはず。
一年か・・・あっという間だな。月初めが来て締日が来て、それを12回繰り返して1年。決算がそこに入り込んでGW、お盆、正月の前倒しスケジュール、加えて年末の忘年会ラッシュ。そんな会社勤めの時も1年あっという間だな~なんて衛と言い合っていた。
SABUROの1年も同じように早く過ぎ去っていくけど、なんとなく違う。巡り巡っていく日付や季節の中には「生きている」と思える確かさがある。「生きている」は大げさかな。一番しっくりくるのは・・・「大事さ」かもしれない。毎日顔を合わせている皆と、そして衛と一生懸命頑張っていく毎日が自分にとって大事でかけがえのない時間をくれている気がする。それってものすごく幸せなことだ。幸せって充実があってこそなのかな、最近そんなことをよく考える。
俺が目覚めて少しすれば衛が目を覚ます。
ほらね、手のひらで俺を確かめるように動いたあとギュって抱き寄せる。軽く触れていた背中が衛の胸にギュウと押し付けられてホワンと温かくなる。
北海道は冬が一番長い。ストーブをつける時期を冬とするなら10月から4月は間違いなく冬だろう。冬になれば何が嫌って、それは寒い朝。布団から出るのに一大決心が必要になるわけで、一人暮らしの時は鼻の頭が冷たくなって目が覚める室温だ。そこにドリャ!と飛び出すには、文字通りドリャ!な気合がいる。
でも・・・でも!
衛と一緒に住むようになってからは冬にドリャ!はいらなくなった。
「おはよ。」
「ん、おはよう。」
起き抜けのくせにどうやってこんな甘ったるい声が出せるのか不思議だ。衛のこんな声を何人の女子が聞いたのだろうかと考えたこともあったけれど、最近はどうでもよくなった。何人が聞いたかしらんが、何回聞いたのかって数値で俺がチャンピオンになれば問題ない。衛と何年も朝を繰り返していけば、俺がチャンピオン間違いなし。衛のあったかもしれない未来にグダグダ悩むことはあっても、衛の過去があまり気にかからないのはすべてこれが要因だろう。
何事も回数でチャンピオンになればいいだけのこと。
大事な存在ってそういうことじゃないかなって思う。たった一度の事が印象深いってことはあるかもしれない、でも繰り返して積み重なる出来事は一度を凌駕する存在感があると俺は信じている。
「おめでとう。」
ほらね、やっぱり今年もおめでとうをくれた。そしてうなじにキスがおりてくる。こっぱずかしいなんて最初の頃はウキャウキャしたけど今は余裕で受け止められる。それは慣れたってことではなく、あって当たり前になったから。俺と衛の間に普通に存在する出来事になったから。
普通って時にすごいって思うわけ。
「おもしろくない。」
「はあ?おめでとうの後に面白くないって随分だな。」
衛にグリンと身体を反転させられ向かい合わせになる。ところどころ寝癖で方向性を見誤った髪を手櫛で整えてやりながら衛の顔を見る。
寝起きでまだ完全に目があいてない、この瞳の大きさが俺は好きだったりする。
「最近の理はあまり照れなくなった。」
「それが面白くない?」
「んん・・・だな。うなじにキスぐらいじゃびくともしなくなった。」
そりゃあね、これだけされればウキャウキャしなくなりますって。
「さっき、俺はそれを考えていたところだったよ。」
「それ?」
「普通の偉大さについて。」
「普通の偉大さ?」
衛の寝起き瞳が目覚めましたモードに切り替わってしまった(ちぇっ!)
ひじをついて頭を支えた姿勢になり、真剣に話をききますモード。どうせならワインを飲んでいる時に言えばよかったかな。
「ええと、衛が今まで何人の女子に「おはよう。」を言ってきたのか俺は知らないし、別に知りたくもない。でもそれが気にならないのは、衛の「おはよう」をもらっているのは俺が一番多いからだって知っているからなんだ。」
「それは理の「おはよう」をもらっているのも俺が一番多いってことか?」
「当たり前だろ。」
男前が満足そうにニヤリ・・・また喜ばせてしまった。
「それで?普通の偉大さとどう関係ある?」
「最初慣れないとか、うわ、恥ずかしいぞ!なことも毎日繰り返されると当たり前になる。でもこれって飽きたとか意外性がなくなったってことじゃないと思うんだよね。」
若干眉間に皺な衛。そりゃあ、うなじにチューが当たり前なんて言われたら誰でもそんな顔になる。
「ないと困るってことに変わるんだよ。普通ってね、毎日の中に埋もれがちっていうか、印象深い事に隠れちゃったり、アクシデントでうっかり忘れたりするだろ。」
「まあ、確かに。」
「でもそんなことが毎日起こるわけじゃない、でも普通のことは毎日起こるんだ。そしてそれがなくなるってね・・・俺にとっての毎日が激変するってことだ。普通のことがなくなったら俺の生活は一変する。」
「一変する・・・。」
「衛が「おはよ。」って言ってくれてうなじにキスが降りてくる。これがなくなったら?これがない日が来たら?
衛の「おはよう。」のない日が俺にとっての普通になるまで・・・いったいどれだけの毎日を繰り返すことになるのかって考えたら怖くならない?
だから普通は偉大だってことを俺は言いたいの。俺達の中でどんどん普通や当たり前が増えていくことは実は幸せなことなんじゃないかって・・・ことを考えていたんだ。」
衛はゆっくり頭を枕に落としてから俺をふわりと抱きしめた。
「怖い言葉だった。」
「なにが?」
「理の「おはよう」がない日が俺の普通になるまで、どれくらいの毎日を重ねるのかって事だよ。重ねていけば普通になれるのか?俺はなる気がしない。こんなのは俺にとっての朝じゃないって毎日毎日悲しんで一日を始めることになるだろうな。
怖い言葉だよ。普通のことがなくなるって事がどれだけ自分の中にある大事さを奪うのかって。
理がいなくなったらっていう漠然とした怖れは今まで感じてきたけれど、はっきり認識できた。そんなことにならないように俺、頑張るから。」
「馬鹿だな~頑張らなくていいよ。今のままで十分だ。俺のほうこそ頑張ったほうがいい?」
ギュウと腕に力がこもる。
「頑張らなくていい・・・今のままでいい、今のままがいい。」
「うん、衛もね。」
普通にあって当たり前のことが無くなる、それを乗り越えるまでどれだけの毎日を繰り返すのか。それは本当に怖いことだと思えたし、それと同じくらい強く思える。
衛と一緒にいよう
衛との普通を沢山作ろう
手放せないと、手放してたまるかと思える毎日を
俺達の当たり前を・・・沢山積み重ねてみせる
「大事なことを衛のおめでとうで気がつけた。最高の誕生日プレゼントだよ。」
「俺の方こそ。誕生日プレゼントをもらったよ。」
「じゃあ、18日俺のおめでとうで、また何か気がつけるかな。」
「いや・・・今年はこれで十分だ。毎日を積み重ねて来年また11月に何かを実感しよう。」
「約束する。来年の11月も俺は衛の傍にいる。」
「俺も理の傍にいる。」
重なった唇は約束の証。
そして二人にとってはキスだって当たり前で・・・かけがえのない大事なこと。
生きている、充実している、そして幸せであること
それをちゃんと実感しながら、沢山の普通を毎日作っていく
衛と二人で
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