アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
december.1.2016 大事なこと
-
「オードブルの予約はどんなもんだ?」
「去年は10日すぎから続々予約が入ったので、もう少しボチボチが続くと思います。」
充さんは俺の説明に納得したのか頷いた。
「1年なんてあっという間だな。」
「ええ、本当ですよ。今年はミネが平常心を保っているので悲壮感がないだけマシですね。」
「バラ色で浮かれているせいでダークサイドなんて見えない状態だろうな。いいじゃないか、武本と飯塚だけが浮かれモードだったのに仲間ができたってことだ。」
「・・・浮かれていません。」
「へえ、自覚がないのか。」
「だから浮かれていませんって!」
充さんはニヤリと笑う。時々ぶわ~と衛への気持ちが盛り上がっちゃったりは認めるけど、そんな色ボケしているわけじゃない(・・・はず。)
「いいじゃないか、色ボケでも浮かれモードでも、そう想える相手がいるっていうのは嬉しいことじゃないか。」
「茶化さないですね・・・。」
「そりゃあ12月だ。クリスマスっていうイベントがあるからプレゼントを用意しなくちゃならん。」
「奥様にですか?」
「まあな。クリスマスと誕生日はプレゼントを買う。結婚記念日は花。決めてしまえば年に3回のことだから楽しみでもある。クリスマスのプレゼントは買ったのか?」
「いいえ、クリスマスを楽しめる状態じゃないですからね。忙しくてぐったりです。クリスマスはスルーすることに決めたので。その代りバレンタインデーを盛大にしますよ。」
俺達のお付き合い記念日でもある。キリストさんに縁もゆかりもないからクリスマスよりバレンタイン司教さんのほうが有り難い気持ちになるというものだ。
ホワイトシチュー作ってもらおうかな。
「気持ち悪いぞ、武本。」
「なんですか、いきなり。」
「ニヤニヤしているぞ。さては飯塚の愛の囁きでも思い出していたな?」
「思い出していません!ホワイトシチューのことを考えていただけです!」
充さんは一瞬キョトンとしたあと大笑いを始めた。
何を口走っているんだ俺!恥ずかしいじゃないか!
目じりを拭いたあと充さんは俺ではなく壁に視線を向けた。あ・・・飾り棚。
「ホワイトでもブラウンでも好きな料理をリクエストするんだな。飯塚はそれが嬉しいだろうから。なんだかんだ言って、お前たちはいい組み合わせだよ。ごちそうさまでした。」
「・・・ご馳走じゃありません。」
「そうだな、武本は喰えない男だしな。」
充さんはカラカラ笑いながら出入り口のドアへと向かった。途中足を止めたあと壁に歩み寄り飾り棚の前に立つ。
【チリーン】
透明の音が静かに鳴った。充さんが指で弾いたのは青いグラス-俊己さんのグラスだ。
少しだけそのグラスを見詰めた後「じゃあな。」と言って充さんは店を出て行った。
「あれ?おじさん帰った?」
ミネが厨房から出て来てノンビリ言った。
「別に用事があったわけじゃないみたい。オードブルの予約の調子を聞いて帰ったよ。」
「あ、そ。打ち合わせかと思ったよ。」
「違ったみたい。」
ミネは俺の顔をまじまじと見た。充さんの言う浮かれモードが継続しているのだろうか。
「サトル、なんかあった?ちょいションボリしてる感じ。」
俊己さんが絡むと、どうしても心が沈む。逢ったことがあるといっても信じてもらえないようなシチュエーションだったりするのに、とても身近に感じてしまう。そして時々逢いたいと思う人。
「充さんがあのグラスを眺めてから帰ったから。」
「ああ・・・伯父さんのね。それで?なんでサトルがそんな顔してるのかな?」
俊己さんが教えてくれた事。充さんに時々言ってしまいたくなる。ミネを共犯にしてしまおうか?
だって俺みたいな赤の他人ではないから知っていてもいいじゃないか。
「命日の日は充さんの夢に入り込んで逢えるらしい。でも本当は条件が揃えばいつでも逢えるみたいなんだよね。」
ミネは俺を顔をじっと見た。そのあと腕を組んで静かに言った。
「サトルには言った。でもおじさんには言ってないってことだろ?」
「ああ、充さんは知らない。」
「じゃあ、俺も聞かない。」
「なんで?」
ミネは椅子をひいてストンと座った。だから俺もテーブルをはさんで向かい側に座る。
「伯父さんがおじさんに言わないってことは・・・なんかややこしいな。オジサンだらけだ。ええと俺が言いたいのは、知らせる時じゃないから言ってないってことだろ?サトルに教えたのは保険みたいなものか、誰かに知ってほしいって思ったからかもな。でも俺がそれ知っちゃったら言いたくなるもん、絶対。
だから聞かない。」
「・・・そっか、そうだよね。」
「違う世界でそれぞれの生活をしているわけだから・・・生活してんのかな?あの世のシステムは全然わかんないけど。むやみに時間が重ならないほうがいいってことなのかもしれない。
こういうのは当人同士で何とかしてくださいってヤツじゃない?」
「俺が言えば単なるお節介ってことか。」
「お節介なのかな。そのうち「サトルが伝えてくれ。」なんて言われるかもしれないじゃん。それまでは胸に秘めていればいい。結果的に墓まで持っていくことになるかもしれないけど。あ~そうなったら向こうで伯父さんに逢って「そういえば秘密はどうしましょうか?」って聞けばいいのか。
・・・なんの話してるんだ、俺達。それも普通にね、これ「怪奇!恐怖の体験談」レベルだと思うけど?」
そう言われてみれば確かにおかしな話題ではある。でも俊己さんの存在は俺にとってリアルだから、生きている人と同じように感じてしまう。
ミネがボソっと言った。
「逢いたいのに逢えないって・・・どのくらい切なかったり悲しかったりするのかな。」
「どうなんだろうね。」
「俺もサトルも、四六時中一緒で飽きないの?なんて言われちゃうくらい一緒にいるだろ。」
「あ~衛と?」
「そ、俺はハルと。」
朝起きて同じ職場で働いて、一緒に帰っておやすみをする。24時間のうち一人でいる時間はどれくらいあるだろうか。シャワーやトイレくらいなもので、あとはずっと視界の中に衛がいる。
飽きないのか?
・・・飽きない。というか飽きるって何だろう?同じ顔を見ていると違う顔が見たいとか?
表情はしょっちゅう変わるし、衛の表情をコンプリートできている気がしない。あ~こんな顔をするんだ、そんな発見は日常に転がっている。
飽きる・・・飽きるって、俺にはわからないな。
「ミネは飽きるの?」
フニャっと笑うミネ。
「飽きるわけないでしょ。毎日盛大にハル祭りしてるよ、俺。だから今年はダースベイダーになっている暇がない。そしてクリスマスがやってくる。それこそ毎年「恐怖!聖夜の暗黒体験談」みたいだったのにさ、今年は違う。あ~去年からかな。ハルとクリスマスをして、マグカップをプレゼントしてもらってね、思えばあの日から少しずつ俺達の時間が重なり始めたのかなって。
俺にとってクリスマスはちょっと形を変えたんだ。」
ミネが大事に使っているオリーブグリーンのマグカップ。そうだったな・・・俺は心配したんだったっけ。正明はこんなミネの顔を見続けて大丈夫なのかって。
心配は的中してヤキモキもしたけれど、楽しそうにしているミネと正明を見るのは嬉しい。
「ずっと仲良しでいてくれないと困るよ。SABURO存続にかかわるからね。」
「サトル、それそのままお返しするよ。飯塚とサトルが別れましたなんてことになったらSABUROが空中分解を起こす。」
「関係が変わっても仲間です・・・なんて器用なこと俺できないと思う。」
「サトルが無理なら俺なんてもっと無理だって。でもさ・・・。」
「なに?」
「逢えなくて寂しいって感じることがない俺達って幸せなんだろうね。目の前にいる相手との時間を大事にすることはSABUROを大事にすることにもつながっている。
だから俺は結構張り切って頑張るつもりだよ、仕事も恋愛も。」
ミネは少し照れ臭そうに頬杖をついたあと窓の外を眺めた。窓の外は慌ただしい師走の気配と冬を湛えている。沢山雪が降り積もり、ウンザリする雪まつりを終えたら春を待つ。そうして季節は廻り、また来年も12月がやってくるのだろう。
「サトル。」
「なに?」
「俺がサボりそうになったら、喝いれてくれよ。」
「仕事?恋愛?」
「んん~どっちもかな。だってスパンキング王なんだろ?」
「任せておけ!」
ミネの腕に軽くパンチをしたら、頬杖がほどけて、おどけた顔が返ってきた。
「腕くらいのほうがいいだろうね。俺のケツをペチペチしていたら鉄仮面に殺されそう。」
俺達はアハハハと笑い合った。
自分の中に存在していれば、その人はちゃんと生きている。充さんと俺では感じ方も違うだろう。でもやっぱり俊己さんは俺にとって大事な人だ。
SABUROも皆も、勿論衛も。
皆生きていて大事な仲間。
ミネの言うように、仕事と恋愛と・・・生きていくことを毎日重ねていこう。
頑張りすぎない程度にね。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
345 / 474