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december.15.2016 約束
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「ミネ!今年、去年よりいいよ。」
サトルさん、去年よりいいのは何ですか?そりゃあ数字だろうけど。
「ん~なんの?」
「なんの~~って呑気だね。オードブル関係だよ。去年の同じ日付より5つ多い。」
ちょっと胸をなでおろす。とんでも数字だったらどうしましょうってビクっとしたじゃないの。
「5つね、ありがとーおきゃくさん(棒読み)」
ジトっとサトルに見られた。なんとなく笑ってみたらニヤリと返されて背筋がゾっとしましたよ。
サトルさん、そのニヤリってなに?
「一応言っておくけどね。20日をすぎて怒涛のオーダーラッシュになって29日までそれ続いているね、去年。それとBOXは結構押してからの発売だったけど、今年は早くから露出したせいで好調だよ。」
あ~あのハルがアイディアだしたBOXちゃん。それなりに品数入っているから結構な手間なのよね、あれ。でもそんなこと言ったら、言い出しっぺのハルがスイマセンな顔をしちゃうかもしれないでしょ?
やっぱりそれは避けたいよね。でもね、そのスイマセンな顔が可愛かったりするから、言っちゃいたい気もする!恋する男は悩ましい事の連続ですよ?皆さん知ってた?
「いっそうのこと23日から25日まで仕出し屋さんに変身しませんか?サトルさん、どうでしょう、このアイディア。」
ジト・・・。
わかってますよ、ちょっとした冗談ですってば!
「ランチ、ディナーの売り上げ幾らあったか把握しているでしょうが。知らないなんて言ったらマジでケツ叩くよ。」
あ~怖い、コワイ。
リーマン時代のサトルは優しく厳しい先輩だったのであろう。厨房とホールに分かれていてよかった。怒られるのは苦手なんだよね俺。面倒くさくなっちゃっうのよ、怒られるとモチベーション下がるのよ。
だから怒られる要素を最初に潰して動くっていうのが働いているときの俺のスタンス。オーナーシェフになった今、俺を怒るって人はいない。でもおじさんやサトルは手厳しい助言をくれる。
あ~俺大人になったのかも。
手厳しい助言=叱られた
この見方しかできなかったら、相当やる気なっしんぐ君になってしまうところだったよ。
「サトル、わかってるって。稼げるときに稼ぐ。休むときには思い切って休むという方針を打ち出すからね俺。」
「12月は休めないよ?」
サトルの疑いの眼差しを受け止めながら3年日記帳を手にテーブルに座る。チョイチョイとサトルを手招き。
「ものは相談なんだけど。」
眉間にザックリ深い皺のサトルは俺を見る。ふふん、いつまでそんな顔をしていられるかな?
「1月は早くから開けるのや~~めた!ってことにしただろ?」
「ああ、それは数字の裏とってもそれ程うまみがあるわけじゃないから、思い切ろうっていうのは賛成。」
「そして次は成人式がある。」
「そうだね。振袖や袴軍団が街に繰り出す。SABUROは「今日から大人です」の看板ぶら下げたガキンチョ軍団が大挙して騒ぐ店じゃない。でも家族でお祝いしますとか、オードブルの仕事が馬鹿にならない。」
ガキンチョ軍団って・・・サトルさんキビシ~~!!(あ、これも古いギャグらしいよ。)
「そうだよ、もちろん頑張りますとも。そして2月には待望の雪まつりがある。」
サトルはようやくウンザリした顔になった。
「その顔をしてこそ、SABUROのホールチームだよ。」
「厨房チームだってヘロヘロじゃないか。」
「そりゃそうだ。どうする?あのソバカス外国女性再来店したら。「イイズカ、アナタノコト、ズットワスレナカッタ!スキ~。」とか、とか、とか!」
サトルは面白くなさそうに言った。
「その時は指輪を印籠のように掲げさせるよ。」
諸葛孔明だけじゃなく黄門様にもなれるのね。ええと、そうじゃなくって。
「そこで相談なんだけど。」
「真面目な話?」
「大真面目だって。1月の20日のあたり4日くらい休もうかっていう提案。」
「え?」
「皆のおかげもあって、数字は確実に上がっている。そうはいっても突っ走りすぎると馬力も落ちる。どこかでエネルギー充填しないとなって思うわけよ。
サトルと飯塚は今年温泉いけなかっただろ?」
「でも皆で行けたからいいんだよ。温泉は逃げていかない。」
「温泉はね。」
サトルは俺の顔を見たけど、もうウンザリも眉間に皺もなかった。俺がちゃんとした話をしようとしている事がわかったんだろう。お利巧さんとお話しすると、こういうのが楽でいい。
「場所は逃げない、でも時間は逃げる。俺は最近そんなことを考えるようになった。」
「時間が?」
「そう。時間ってどんどん過ぎていくだろ?未来とか言ったってさ、一瞬先はすぐに過去なんだわ。俺ハルと毎日を過ごしながら、どんどん過去になっていくなんだなって気が付いた。それは積み重なっていくから悪いことじゃない。でも二人で何かをしようって約束して実現させないと、それは約束じゃなくなる。」
「・・・わかるよ。」
「いつか、いつかって思っていても、実現させる為に動くことをしなければそのまま素通りしちゃうんだ。水商売は営業日数=売上だ。休めば休んだだけ上りが減る。だからひたすら店を開ける。それも一つのセオリーだけどSABUROはSABUROの考え方があってもいいじゃないかって。1年スパンじゃあまりに幅広すぎるけど、2か月、3か月でみたら帳尻合わせるのはできるよねってこと。」
「つまり?」
「12月頑張る。そして1月は英気を養う。そして2月は1月の補てん分雪まつりを利用して稼ぐ。そうやって考えていけば、1年に1回か2回は3日とか4日の休みをとっても数字を落とすことにはならないんじゃないかって。
というか落とさないように、余計に頑張れそうだなってこと。」
サトルはテーブルの上で両手を握り合わせながら何かを考えていた。
俺だってちゃんと考えたよ。ハルとお箸買いにいかなくちゃなんだ。未来の約束を決めて、約束を果たせばまた次に繋がっていく。過ごした時間を積み重ねていくことも大事だけど、やっぱり約束だって重ねたい。約束は実現させることだよね。いつかね、いつかねって願う事とは違うんだ。
願いや希望と約束は大きく違う。
俺はハルとの約束を守りたい。
「三十三間堂、行くんだろ?」
「え?」
「飯塚が言ってた。いつか行くんだってね。ずっと前に約束したんだって。」
「・・・うん。」
「俺もね、ハルとの約束があるんだ。」
「箸をオーダーするんだっけ?」
「そう。同じ京都で奇遇ですな。」
サトルは嬉しそうに微笑んだ。こんな顔されちゃ、飯塚じゃなくてもトロトロになりますわい!
「ここ3年くらいの1月の売上調べるよ。どの日程が一番いいか、それから決めよう。」
「おじさんにはチラっと言ってある。好きにすればいいってさ。休めるって裏とれるまで飯塚には内緒な。」
「そうだね、急いで調べるよ。」
「サトル、言っておくけどね~ケツ叩かれなくたって俺なりに考えているんだよ。知ってた?」
いきなり左の頬っぺたをニギ~っと引っ張られた。
「うん、知ってる。頼りにしてるよ。」
サトルはマグカップ片手に席を立った。さっそくPCと睨めっこをするのだろう。棚をガサゴソさせている。
俺は気持ちジンジンする頬っぺたに手を当てながら考えた。
たぶん休みは取れる。
俺とハルはお箸屋さんに行く。
サトルと飯塚は三十三間堂に行く。
で・・トアは?
その頃までにまとまってる?
SABUROの新たな心配事ではないかしら、これ。
進捗状況、ハルに偵察させる必要があるな。
トア!!皆で楽しく休もうぜ。
俺、応援してるからな~~~!!
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