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december.21.2016 お節介は成功するのか?
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「26日は休みにしようかと思って。」
ええ?去年は開けましたよね?稼ぎ時に1日お休みするのですか・・・どんな理由なのかな。
朝ごはんを食べながら向かい合う朝です。
「予約は・・・入ってなかったですね、そういえば。」
「定休日も浸透しているし、クリスマスあけたら会社勤めの人も師走まっしぐらで忙しいのかもね。去年開けたけど、それほどうま味はなかったし。それにほら俺と飯塚は仕事があるから、その日は休みだけど店には行くつもり。」
「仕事・・・ですか?」
オードブルの仕込みかな。クリスマスが終われば冷蔵庫もコールドテーブルもスカスカになる。26日を休むとしたら27日から29日までの3日分の営業仕込みはあるけれど。オードブルは去年営業終了してから一斉に仕込みをしたような気がします・・・どうだったかな。
「仕事というかミッションだな。ご実家訪問の手土産があるだろ?」
「ああ!お節ですか。」
「そういうこと。」
大晦日どうするんだ?という母さんからの連絡。どうするもこうするも、ミネさんを連れてこいという半ば強制みたいな申し出だった。あれからあっという間の年の瀬。
僕も歳をとったのかな?年齢を重ねるほど時間の流れが速くなるって、本当かもしれない。
「僕も行っていいですか?」
ミネさんはウ~ンと言いながら考えている。あらら、ダメなのかな。お節にはあまり興味がなかった僕は食べるものが決まっていた。栗きんとんは甘くて好きだけど、紅白なますは苦手。昆布巻きは好きです。身欠きにしんの昆布巻きは風味があって美味しい。母さんは鮭や焼いたシシャモで昆布巻きを作ったこともあった。でも北川家の男子は「身欠きにしん」推しだったので、もうずっと身欠きにしんです。
あとは・・・だて巻き好き!うま煮も捨てがたい。
ミネさん何を作ってお重に詰めるのかな。勉強の意味もあるし、食べる日を楽しみに見学するのもいいかなって思ったんだけど。
「俺としてはハルに月曜のお仕事を任せたいのよね。」
「月曜の・・・ああ、常備菜や買い物ですね。」
「なんなら年末までパン食でもいいけど、日に一回は味噌汁飲みたいなと思うわけよ。賄いを味噌汁にすればいいのか。」
パン食も嫌いじゃないけど、やっぱり決まったメニューを一緒に食べて一日をスタートさせる毎日がいい。特に疲れがたまっていく時期だからこそ、体に優しい物を食べたいです。
「そうですね。やっぱり白いごはんとお味噌汁から始めるのがいいです。わかりました、僕が常備菜担当します。」
「そっか、ありがとう。お節は逃げていかないしね。本気でオーダーとるようになったら、見たくないって思うかもしれないぞ。手間がかかるし、ハルは期間限定厨房チームに編入だしね。」
大量のオードブル。唐揚げの肉をカットするだけで「うへぇ」っていう量と時間。それをやりながら和食で品数を揃えるのって大変だ。
常備菜づくりのおかげで、前よりずっと煮炊きのコツを掴めたと思う。出汁と薄口醤油と塩。醤油味が勝つと田舎臭い味になるから塩のほうが立っていないといけない。それをわかっただけで、うどんのツユも煮物もスッキリとした味わいになるのです。
「オードブルの数も数量限定をシビアにしないと、お節まで手がまわらなくなるだろうな。」
「ですね。「まだ大丈夫?」なんて言われると「一応聞いてみます。」って言っちゃいます。そしてミネさんに聞くと「いいよ、いいよ。受けちゃって。」ってなるから、限定数がジリジリ溢れることになる。」
「そういうこと。サトルとも話たけど、もっと早くから計画性をもって新しいことに取り組まないとダメだよねって事。最近まで「とりあえずやってみようよ。」っていうノリでなんとかなってきたけど、売上に反映されてお客さんが来てくれるってことは、それだけ期待を裏切れないってことだ。
最初のオードブル大作戦の時からずっと「とりあえずやってみよう」戦法だったけど、来年はもう少し考えるつもり。」
「前より確実に忙しくなっていますよね。」
「そうだよな~。おじさんと北川さんが西山さんをひっぱりこんだり、トアのエンタメ能力のおかげで店がTVに映ることになった。昔からの常連さんに加えて新しいお客さんが来てくれる。オーナー制度のおかげで確実に月1回来てくれる客数も増えた。
店で食べられる料理だけじゃなくって、テイクアウトや仕出しがバカにできない売り上げになっているしね。毎年きちんと考えていかなくっちゃだわ。」
バイトでいた頃、確かに忙しい時もあったけれど毎日ではなかった。トアさんが来てくれて、理さんが加わったあたりかな。チームっていう感じになって僕たちは皆まとまった。毎日を一生懸命に働いて充実した時間を過ごす。それはお客様の笑顔に繋がって、僕たちに跳ね返ってくる・・・だから頑張れる。
「皆でアイディアだしながら真剣に考えることで、素敵なお店で在り続けますよね。僕は毎日楽しいです。不思議ですが、風邪ひいていないのです。毎年ドカンと熱だしてウンウン唸っていたのに。」
「そっか。家族全員インフルエンザに罹ったことなくてさ。オヤジ曰く「気合を入れればウィルスに勝てる。」って。気合かどうかはわからないけど、手はよく洗うよな。そこが予防になっているとか?」
「どうでしょうね。でも気力が充実していると身体も強くなる気がします。」
「大晦日まで、その気力をキープしてくれたまえ!」
「はい!」
忙しくて大変、疲れてもう嫌。そう感じる日は確かにある。でも自分がしていることに疑問がないのはスッキリしていると思うのです。割り切れない、やるせない、意味がわからない。そういうものに囲まれているとどうしても心が荒んだり弱ったりする。
僕にとってSABUROは素敵なお店で、大事な居場所です。でも色々な人がバイトで入ってきたのに誰も残っていない。
それを考えたら、僕は今を素敵と思えるけど、思えない人もいるってことですよね。置かれた環境を自分にとっていいもにする。もしくはいい所を見つける・・・そうか、人も同じだ。欠点ばかりをあげて相手を嫌いになればなるほど腹が立つし、イライラする。でも悪い所だけの人はいないはずなので、いい所を見つける努力も必要なんだ。
「ハル、何考えてんの?」
「あ~ええと。欠点ばかり見ると自分に跳ね返ってきてしんどいなって。いい所を見つけるほうが気持ちは楽かなって。」
「あ~それはそうだね。人や場所、自分のいる環境、全部に言えることかな。仕入れた食材がつねにバッチリってわけじゃない。イマイチの日だってある。「今日はいい物入ってこなかったら、この味でも仕方がない。」そう考えちゃうと全て終わりだよね。いい物は美味しくできて当たり前。イマイチのものを美味しくするのは俺の腕って考えれば、仕事も変わる。」
「はい。頑張っているミネさんは格好いいです。」
ミネさんはフニャっと笑った。
「あとね、クリスマスは24日でいいかな?25日のほうが予約も少ないし次の日休みだから、そっちのほうがいいだろうけど・・・。」
「けど?」
「去年24日にしたから、今年も24日がいいなっていう俺の我儘。」
我儘?そんなことないですよ、嬉しいな。初めてミネさんの所にお邪魔してクリスマスをした。高価でもなんでもないマグカップを嬉しそうに持ったミネさんを見て、僕は心の蓋を取り去った。
あれから1年・・・あっという間だけど、ぎっしり詰まった1年。
「僕にとってはお正月よりクリスマスの方が大事・・・です。」
「そっか・・・じゃあ去年と同じで24日な。疲れちゃってすぐ寝ちゃうかもしれないけど。」
「それでもいいじゃないですか。たとえ短い時間でも、ミネさんとクリスマスをしたいです。」
「また、そういう可愛い事言っちゃって!」
猛烈なワシャワシャ攻撃を受けました。えへへ。
「あ~でさ、トアのクリスマスの予定はどお?」
「プレゼントは買って用意してあるのです。でもいつ渡すのか決めてないみたいで。」
「えええ~なんで?」
「坂口さんは26日お休みじゃないみたいです。クリスマスの夜は遅くなるし、それからって迷惑なんじゃないか?とか。でもクリスマス過ぎてからプレゼント渡すのは間抜けじゃないか?とか。いっそのことクリスマスの前に渡しちゃおうか・・・有難味減りますかね。という3つを堂々巡りしていて、どれも決め手に欠けている状態です。」
「あちゃ~~。」
「遅くたって、早くたって渡さないと意味ないし。そしてちゃんと言わないと物事始まりませんよって言ったんですけどね。「ふは~!!何を言うのですか、何を!いえ、わかっています・・・ええ、わかっているのです。となるとやはりクリスマスの日に言いたい気持ちになりますが、でも遅い時間に呼び出すのは迷惑ですよね。」その調子で、またもや堂々巡りに突入。」
「あちゃ~~。」
「ほんと、あちゃ~ですよ。」
「少しお節介焼いた方がいいか。サトルみたいにスマートなお節介は無理だけど。」
「ええ!理さん、ミネさんにお節介焼いたんですか?」
「そそ。俺がグズっていたから理詰めで攻め込んできたり、やんわり作戦で俺を翻弄したりな。
それに飯塚もボソっと格好いいこと言ったりして。あ~あの頃の俺は格好悪かったな~~。」
「そうですよ。「なにそれ~~」ですからね。」
「うわ!ハルまでそういう事言っちゃうの?」
えへへ。
「二人用のBOXをトアに押し付けようかな。これ持って坂口さんの所に行け!って。」
「24日にですか?」
「・・・どうしよっかな。万が一「ごめんなさい。」を24日の夜にくらったら、25日のトアはポンコツ大魔王になっているよな。」
「ええ・・・すさまじい大魔王に変身するでしょうね。」
「じゃあ~あれか、25日仕事上りの時に無理やり押し付けよう。坂口さんの感想聞いてねって言えばトアの事だ、ミネさんに言われたから・・・やはり食べていただかなくては。なんていう使命感に縛られて頑張れそうじゃない?」
「ですね、それがいいと思います!」
「うん、そうしよう。そしてうまくいきますようにってサンタさんにお願いしよう。」
「あははは、神様じゃなくてサンタさんですか。」
「そそ、世の中はクリスマスだからね!」
サンタさんにその力があるかどうかはわかりませんが、お節介がトアさんの背中を押すことになったらいいな~。
25日、トアさん頑張ってくださいね。
僕はその前の日にクリスマス。ミネさんのプレゼントは飯塚さんのところに無事届いたので、24日こっそり店で受け取ることになっています。
何を買ったのか知りたいですか?
それは開けてからのお楽しみです!!
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