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december.24.2016 ・・・メリークリスマス
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「お疲れ~~」
「お疲れ様です!」
疲れた・・・疲れております。SABURO全員ヘロヘロです。なんといってもクリスマスです。この時期に暇なら店を潰してしまえ!という飲食店にはありがたいイベント。そうはいっても体がヘタレるのは仕方がないですよね。
昨日からオードブルとBOXの仕込みと仕上げ。営業の仕込みと並行してですよ?仕事が倍というか倍々です!
「ローストチキンはどうなのかな。」
そんな理さんの呟きをキャッチした厨房チームは全員スルーしました。ええ、僕は今厨房チームに編入中なので、制作中は理さんの言葉よりミネさんと飯塚さんに従う。だからスルー。
これにチキン?トアさん的に言えばティキン?
やめてください。言い出しっぺの理さんが焼いてくれるなら別ですが(無理だよね。)
そしてクリスマス一番の山場である24日を何とか乗り切り、ヘロヘロで帰宅した僕とミネさん。クリスマスだけど・・・だけど、すぐ寝てしまう勢いです、はい。
去年はもっと元気だったような気がします。ああ・・・BOXが犯人だ。理さんがはりきって早い時期からPOP出していましたからね、注文が沢山きたんですよ!
引き取りに来るお客さんを見て、食事をしていた方達何人かが「もう売っていないのかしら?」なんて言い出しました。「予約のみなので、申し訳ありません。」と言いながら企んでいる顔の理さんを見て、思わず視線を逸らせました。「1日限定数決めて売ったらどうかな?手土産にいいと思わない?」
そんなことを考えてそうで怖かった!理さんが作ってくれるなら別ですが(無理だよね。)
「ハルが変な顔している。」
「なんですかミネさん、失礼な!」
「何考えてんの?」
「・・・ああ、理さんが何事か言い出しやしないかと。来年の同じ時期がこなければいいと考えていました。」
「おおお!ハル。ようやく俺の暗黒12月を共有できるってこと?にゃはは~。」
「にゃはは~じゃないですよ。理さん絶対BOX店頭で売ったらどうかなとか、ローストチキンやってみないか?って言いますよ。そしてお節を食べて、これもやってみないか?って言いますよ。どうします?僕は怖いですよ、来年が。」
「でもなあ、期間限定でハルが厨房に編入。その分だけ生産性はあげなくてはならんのだよ。一人増えるってことは新しいことができるってことなのだ。」
「でも期間限定です。」
「うん、まあそうなんだけどね。でも短期でも人手が増えるってことは頑張っちゃおうよってことだから。理が言い出すか、俺が言い出すかわからんけど、でももう今年は考えたくない。来年にする。乾杯しよう、クリスマスだしね。」
チリンとグラスを合わせて乾杯。
ほぅってため息がでちゃいました。そうですね、今日はクリスマスイブです。
「店から大事そうに抱えて持って帰ったの、あれがプレゼント?」
「ええ・・・そうです。来年はもっとうまい事するつもりです。」
飯塚さんの家に届いたプレゼント。とてもいい考えに思えたけど、結局店を出る時は手に持って出ないといけないわけです。もちろんミネさんも一緒ですから、プレゼント持ってます!と大声で言っているようなものですよね。
ミネさんは僕の荷物を見てふんわり笑った。それを見たとき、これどうぞって渡す時に見たい笑顔だなって思ったのです。
来年はちゃんと考えなくてはなりません。僕の3年日記にしかと記すことにします。来年の僕、ちゃんとしろよ!ってマジックで書こう。月頭のページに欄があるんです。「OO月の予記」って場所が。そこに書いておけば大丈夫。
「俺、今晩あるから乗り切れたって感じ。ご褒美があると頑張れるのね、人間って。」
「ご褒美ってプレゼントですか?」
「それ含め、ハルとのクリスマスがご褒美。」
もおお・・・どうしてこういうことサラっと言っちゃえるのかな。嬉しいけど、えへへ。
「そうはいっても夜更かししている場合じゃないからプレゼント交換しますか。まずは俺から渡します。取ってくるね。」
ミネさんは自分のお部屋に向かいました。
ミネさんはいつの間に買ったのですか?僕は全然気が付きませんでしたよ!あちゃ~格好悪いなあ、もう。来年はちゃんとします、絶対に!
どんなマグカップを選んでくれたのかな。1年前の約束のプレゼントがもらえる。
あの時はこんな風にミネさんと笑って過ごせるなんて考えていなかっただけに嬉しさも倍増。そして本当に良かったっていう気持ち・・・本当に良かった。
ミネさんは小さい箱を持って戻ってきた。ちょうとマグカップ一つ分の大きさ。お揃いじゃないってことですね。
「ほい、これが俺の選んだマグカップです。」
「開けていいですか?」
「どうぞどうぞ。開けてくれないと俺泣いちゃうけど?」
「開けるに決まってます。」
包装を綺麗にとって箱を開ける。中にはマットな黒いマグカップが入っていた。取り出すと台形をさかさまにしたようなフォルム。スッキリとしたスタイリッシュな姿なのに、どこか柔らかい。形は金属の家具でも似合いそうなのに絶対木のテーブルに置きたい。ダウンライトの暖かい光が似合いそう。
「うわ・・・なんか格好いいのに優しいですね。」
「そうなんだよね。ぱっと見一目ぼれでこれだって決めたの。でもね、これに決めた理由はもう一つあるんだ。中に説明があるはずだよ。」
ミネさんの言う通り、箱の中には説明がかかれた紙が入っている。
『日本の職人手作りのマグ。
ブラックマットの光沢を抑えた独特の質感が高級感を醸し出します。
カップ内側のボトムが丸く膨らんだシェイプが特徴のマグは、良質なクレマ(エスプレッソの液面に浮かぶキメ細かい泡のこと)を作り出し、スプーンでかき回しても消えないくらいしっかりした理想的なラテの泡をつくります。
※手づくりによる製法上、形状に個体差があります。また、サイズや厚さのばらつき、凹凸などがある場合がありますが、不良品ではございません。
有田焼の職人は辻与製陶所。有田焼の窯元「与山窯」として知られ、ルーツは江戸時代・安政年間。長い伝統に新しい感覚を調和させた画趣の深さと画題の豊かさが特徴です。
デザインは世界のデザイン賞で多くの受賞をしているGKインダストリアルデザイン。いままでのマグにない、スタイリッシュですっきりとしたデザインが、コーヒータイムを特別に演出します。ぐるりと一周した楕円形の特徴的なハンドルは、マグ本体に面で取り付けられていてとても握りやすく、デザイン性と実用性を兼ね備えています。手にしたときに心地良いマットな質感がシャープなデザインにマッチ。』
「有田なんですか。白と青のイメージでした。」
「最近は色々あるみたいだね。肝心なのはその先なんだ。」
その先?
『「生涯補償」という価値を付加したマグです。』
え・・・
生涯補償?
『お客様の生涯の間、マグが割れた場合に新しいマグと交換させていただきます。(初回は無料、2回目以降は有償1,200円(税抜)で交換させていただきます)
割れてしまったら、マグの破片をマグが入っていた紙箱に入れて、同梱されている取扱説明書に記載されている住所宛へ送ってください。マグの破片は、新しいマグの原料として使用し、再生させていただきます。』
えっ・・・嘘、ミネさん・・・。
「これって。」
「ちょっと重いかな~とか格好悪いかなとか考えたんだけどね。デザインはいいし、それにもし割れちゃっても再生してくれるって素敵だなって思った。
壊れた破片を送って新しいマグの材料にしてくれるっていうのもいい。まるっきり新しいものと交換しますって事じゃないんだよ。俺がハルに送ったマグがずっと形になって残っていくってことだろ?
もしかしたらとんでもなく邪魔な物になってしまう可能性だってある。もらった指輪みたいに始末に困るプレゼントに将来なってしまうかもしれない。
でも俺はこれをハルに贈りたかった。
ずっと形に残っていくっていう物が一つでもあれば、俺達は大丈夫なんだって。
でもまあ~~なんだ?
あまり重く受け止めず、美味しくコーヒー飲んでくれればそれでいいよ。
俺の決意表明みたいなもんだからね。マグカップはマグカップなんだし。」
どうしよう・・・
なんで?どうしよう・・・
「どした~~ハル。ヘビーすぎてドン引き状態か?」
「うれ・・し・・・。」
マグカップを握った手にポタリと涙が落ちた。
ミネさん、同じです・・・僕たち同じ・・・
「どした~もう。そんな感激しちゃったのか?嬉しいような、恥ずかしいような。」
「・・・一緒です。」
「ん?なにが?」
僕は持ち帰ったプレゼントをソファの脇から持ち上げてミネさんに手渡す。
「開けていい?」
「あけてください。」
「うん。」
ミネさんも丁寧に包装を剥がして箱を取り出す。蓋を開けて中を見たあと僕の顔をみて浮かべた笑顔は嬉しそう。でもそれだけじゃなくてキラキラしていた。
「ハル・・これ。」
「はい・・お揃いです。」
「お茶碗だ。」
「はい。」
「ほっこりしてる。淡くてきれいな白だね。同じってなに?」
ミネさんの声はとても優しいから、また涙がこぼれそうになった。
でもちゃんと言わないと。
「土ものの陶器は・・・水を吸い込みやすいから使っていくうちに変わっていくって聞きました。」
「そうだね、器を育てるなんて言い方をする。」
「コーヒーやお醤油だったらすぐに色がついてしまうかもしれない。でもこれはお茶碗だから。」
「お米は白いしね。」
「はい。それでこの色を選びました。この白いお茶碗が「いい色になってきたな」って言い合えるくらい、長く一緒にいられたらいいなっていう僕の願いをこめたお茶碗です。」
「そっか・・・。」
ミネさんは箱をテーブルの上に置いた。僕はマグカップを握ったまま。離したくなかったから。
「ハル、おいで。」
マグカップと一緒にミネさんにくっつく。
「パン食にしなくてよかったな。」
「・・・はい。」
「毎日食べる白いお米が、俺達のお茶碗を何色に変えてくれるのかな。俺は見たいよ、ハルと一緒にね。」
「僕もです。同じ色になるのかな。」
「どうなのかな・・・それも楽しみだね。」
「楽しみです。このマグカップでコーヒー飲むのも・・・楽しみです。」
「明日からこのお茶碗だな。お揃いのお茶碗。」
「このお茶碗に合うお箸を見つけましょうね。」
ミネさんの腕に力がこもる。そして耳元におりてくるミネさんの優しい声。
「来月、京都行こう。そして箸もお揃いにしような。」
「え?」
「うん。来月行くよ、京都。」
お揃いがもう一つ増える。
そして約束が一つ果たされる。
ミネさん、今度はどんな約束をしましょうか。
でも僕は言わなかった。きっとミネさんも同じように考えているはず。
「俺達は一緒なんだな。」
「一緒ですよ?」
「一緒に住んでいる、一緒に働いている。そういうことじゃないんだ。俺とハルは同じ場所に二人でいるんだなって、それを実感したの。そしたらものすごく幸せになった。同じように相手を想っているんだなって、これって凄い事だよな。俺はなんかもう・・・嬉しくって・・・ちょっと泣きそう。」
そんなことを言うから僕はまた涙がでそうになる。
二人のいる場所は一緒・・・。
僕は今までで一番ミネさんを近く感じていた。ミネさんの言うように、一緒に暮らしているってことじゃない。僕とミネさんはちゃんと寄り添っている・・・心が繋がっている。そして心で想っている、相手のことをお互いに。
うれし・・・。
ミネさんの暖かい腕に包まれながらマグカップのマットな肌に指を滑らせる。
大事にする
マグカップもお茶碗も
ミネさんのことも、そして自分のことも
今感じているこの気持ちを忘れず大事にしよう。
今日の事は絶対忘れない・・・
僕にこんな素敵な時間が訪れたこと・・・一生覚えていよう
心の中に大事にしまっておく
「ハル、メリークリスマス。」
優しいミネさんの声が僕の中に沁みてくる。だから僕も同じように感じてほしくて言った。
「ミネさん、メリークリスマス。」
きっと・・この気持ちを忘れなかったら僕はミネさんと一緒にいられる。
その確信はとても強いものだった。
うん、忘れない。
そうだね・・・絶対忘れない。
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