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december.26.2016 トア、まさかの朝チュン
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白い・・・朝?
白?
昨日の一日を振り返るような、そんな夢を見た気がする・・・ううう、体がこわばって
えっ・・・えっ・・・えええええ!!!!
ガバと起き上がれば見慣れない部屋。生成りのカーテンを通して冬の朝が漂っていた。
まさか!あああ!!まさか!!
床に敷かれた布団の中、服を着たまま寝ていたらしい。
ちょっと待て、ええと・・・そうだ!BOX感想ミッションで・・・ワインで乾杯した。ここは坂口さんの部屋で、僕はこともあろうか寝落ちしたということですね!ネットの寝落ちとわけが違いますよ、オフでもリアルでも何でもいいですが、本人を目の前にしての・・・寝落ち。
しかもお招きに舞い上がりすぎて自宅に保管してあるプレゼントを持参することすら頭から抜け落ち状態。
なんということ・・だ。
最悪だ。
頭を抱えているとフワリと香るコーヒーの香り。
坂口さんは今日出勤だというのに、なんという迷惑を!!
カチャ
ドアが開いてピョコンと坂口さんの頭。
ぼやける姿を見て、眼鏡をはずしていることに始めて気がついた。
「おはようございます。」
「あっ!あの・・すいませんでした。」
坂口さんは部屋の中に入り窓側に向かった。カーテンがシャアっとあけられ、鈍い太陽の光が一気に部屋に入り込む。
「夕方から雪ですって。」
「あ・・・ですか。」
「トアさん?」
「・・・はい。」
「おはようがまだですよ。」
・・・・でした。
「おはようございます。」
「コーヒーが丁度出来上がったところです。飲みますか?まさか二日酔いじゃないですよね。」
「はい・・・大丈夫です。いただきます。」
キッチンに向かった坂口さんを確認して僕は大急ぎで布団をたたむ。途中目が覚めそうになって体が痛かったのは服を着たまま寝たせいだ。
だるいような重い感触はDVDを見ながら眠ってしまったときと同じ。
でもよりによって坂口さんの部屋でそれをやらかすとは・・・絶望的すぎる。
こんなときにこそプレゼントがあればよかったのに、それすら僕は持ってこなかった。
ドアがまた開いて坂口さんとコーヒーがやってきた。
「ワイングラスもないし、カップ&ソーサーもないってダメですね。すこし考えなくっちゃ。」
テーブルに置いてくれたたっぷりサイズのマグカップから湯気がもふっと立ち上る。そしていい香り。
少し気持ちが落ち着いたから、コーヒーは偉大だ。
「そんなにションボリしなくてもいいのに。疲れていたんですよ、仕方がないじゃないですか。」
「でも・・・眠ってしまうなんて、とんだ失礼なことを。」
「失礼かな?安心してくれたのかなって私は思ったのに。」
「え・・・?」
「美味しいものを食べて、美味しいワイン飲んで、いつもみたいに楽しい時間を過ごした。眠くなったってことはリラックスしたってことかなって。疲れているトアさんがホッとしてくれたのなら、嬉しいなって。深く寝入っていたので、動かせないから布団を敷いて転がしたのは申し訳ないけど。
温かいうちにどうぞ。」
テーブルの上でマグカップが僕のほうに寄ってきた。
フワリと香るコーヒー。
湯気のたつ温かいコーヒー。
怒るどころか笑ってくれる坂口さん。
「トアさんが眼鏡かけていない顔を初めて見られたのも嬉しかったかな。外したのは私ですけど。だって寝ている間に曲がっちゃうかもしれないし。」
コクリと飲み込むとコーヒーの香りがもっと強くなる。
体に染み込むような温かさ。
言葉を継いでくれる坂口さん。
朝・・・一日のスタート。コーヒーとともに始まる朝。
笑顔と優しさと「おはよう。」
僕に向けられる柔らかさと気持ち。
ジワリと涙が滲む。
誰がなんと言おうと、やはり坂口さんは「特別」で、いつまでも僕の「特別」な存在でいてほしいと願ってしまう。それは押し付けだろうか?
自分の望みを言葉にするのは我侭だろうか?
「・・トア・・さん?」
僕なりの笑顔は泣き笑いみたいになっているはずだ。でもいい、ミネさんが言ったように伝えることが大切なんだ。
「今・・僕は感激というか感動しています。朝起きたら僕のためにコーヒーを入れてくれる人がいる。昨晩の失態を失態じゃないと言ってくれる人がいる。そして僕に笑顔をくれている。
誰かが同じことをしてくれても、こんなふうに涙がでそうなくらい気持ちが昂ぶることはないでしょう。それは坂口さんだから・・・です。
僕にとって坂口さんはずっと・・・特別な人です。」
「たった一杯のコーヒーで?」
「はい。一日が始まるコーヒーです。特別な人が淹れてくれたコーヒーです。自分の気持ちを押し付けているような気持ちはあります。でもそれを伝えるべきだと思いました。
坂口さんに感じるような想いは未経験なのでうまく言えない。結局全部「特別」になってしまいます。」
坂口さんが僕を見つめる視線は静かだ。でも揺ぎ無い強さを感じる。
僕よりもずっと・・・強くて優しい人。
「私、プレゼント用意していて、いつ渡そうかと考えていました。クリスマスは終わっちゃいましたけど。受け取ってくれますか?」
「僕も用意していたのに、持ってくることをすっかり忘れてしまって・・・。情けないですよね。これどうぞって渡すだけでいいはずなのに余計なことを考えすぎました。」
「余計なこと、どうして考えすぎちゃったのかな。」
「決まっています。嫌われたくないし、格好悪いところばっかりで愛想をつかされたらどうしようって。」
「トアさん。」
「・・・はい。」
「私は何回も「格好いい」って伝えたはずです。それに・・・嫌うのは難しい人ですよ、トアさんは。」
「坂口・・・さん。」
「あと30分したら家をでます。10分くらいコーヒーをゆっくり飲みましょう。頑張って働くために、ゆったりした時間は必要です。」
その言葉のあとに坂口さんの浮かべた笑顔は何度も目にした表情。僕をホコホコさせてくれる優しい笑顔。
僕の・・大好きな笑顔だった。
コーヒーを飲む間、僕たちは何も話さなかった。なぜか感じたのです。今この時間に言葉いらないって。
気詰まりとは真逆の時間。そこにあるべき時間の流れ、そんな穏やかな時間だった。
僕のマグカップが空になった。
「そろそろ失礼します。」
そう言って立ち上がる。
玄関に向かい靴を履く。
後ろに感じる坂口さんの存在。
ゆっくり振り向く。
「お店が閉まる頃プレゼントを持って迎えにいきます。」
坂口さんは何も言わず僕を見る。
僕も視線をそらすことなく、彼女を見つめ返す。
わずかな時間なのに、急に時が止まったように流れが止まる。
「迎えはいいです。」
「え?」
「仕事が終わったら、プレゼントを持ってトアさんの所に行きます。」
坂口さんを見つめ返す。
ふわりと解けた表情は笑っている様で、今にも泣き出しそうでもあり・・・そして輝いていた。
「明日のコーヒーはトアさんが淹れてくださいね。涙がでそうなくらい美味しいコーヒー。」
あなたという人は・・・。
「もちろんです。」
僕はしっかりと坂口さんを抱きしめる。
僕は初めて「特別」な人の心を得た。
それはあまりにも幸せで・・・温かく・・・心が踊る瞬間。
ようやく、プレゼントを渡すことができる。
包みを開いて笑ってくれるだろうか?
大丈夫、笑ってくれるはずだ。あの赤いマフラーは絶対あなたに似合うと思うのです。
ええ・・・絶対です。
END
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