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jan.1.2017 happy new year
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喉が渇いた・・・な。
カーテンから漏れる光で朝だとわかった。
元旦の朝か・・・。
「あ・・・。」
昨晩・・・やはり迷惑な誘いだっただろうか。
「おはようございます。」
広美の声。隣のベッドに頭を向けると、寝起き顔の広美が微笑んでいた。
「おはよう、起きていたのか。」
「明さんが起きるのを待っていたんです。」
「・・・え?」
「昨日ストーブのタイマー忘れちゃって。ストーブつけてきてくれません?」
「なんだ、それ。」
「だってトイレに行くでしょう?」
そのとおり、喉も乾いているがトイレにも行きたい。
「お願いしま~す。」
ちゃっかりしている。でも元旦ぐらいはいいかと思い直す。俺がストーブのタイマーをかけて寝るなんてしたことがないから広美が毎晩セットしているのだろう。起きてリビングに行けば既に温まっている毎日だ。
昨日はミネさんが来るせいか北川家は皆フワフワしていた。正明がその様子に呆れているのがわかったが、俺も広美も通常モードになれず仕舞い。(もちろん俊明も)
21:00すぎると疲れが押し寄せたのか瞼が重そうなミネさんに広美が横になるように言った。
「一時間くらい眠ったらどうですか?」
成程、もう床についてはどうですか?よりも相手に負担がない言い方だと感心した。女性はやはり男と違って気配りを言葉にするのが巧い。
結局ミネさんはそのまま寝入ってしまったようで、広美も寝室に引き上げたあとは男三人でダラダラと飲み続けた。正明が「もう無理。」といって寝てしまった後は何となくお開きの雰囲気になり0:00を少しすぎた頃眠ることに。
大晦日に招待するのはもうやめたほうがいいだろうな。
そんなことを考えながら廊下を進み、まずはトイレ。すっきりしてリビングのドアを開けると、空気がふわりと温かい。なんだ広美、タイマーセットしたのを忘れたのか?
「もう朝?うわ~あのまま寝ちゃたんだな、俺。」
リビングの隣の和室からミネさんの声がした。音がしないように静かにドアを閉める。
「部屋があったまるまでもう少しかかるかな。昨日の夜ですか?いいんですよ、無理を言ったのは両親ですからね。ミネさん疲れてるって何回も言ったのに。」
「せっかくのお招きなのに。」
さて・・・どうしたものか。
ストーブはついているからこのまま寝室に戻るべきだろう。ただし音を立てずに・・・だ。
「んんん~~よく寝た。」
「少しは疲れとれました?」
「うん。ハルは大丈夫?腰痛くないか?ずっと立ちっぱなしで前かがみだったから堪えたろ。」
「ビキビキしてます。」
「だよね~俺も。」
リビングと和室を隔てている引き戸の向こうから聞こえてくる会話。盗み聞きしているような疚しさもあるが、このまま聞いていたいような二人の言葉。
「ハル、おはようとあけましておめでとうだね。」
「はい、おはようございます。あけましておめでとうございます。」
「一年の計は元旦にありってことでワシャワシャ~~~~」
「あ~~もう、ミネさん!」
「あ~~もう、なんだよハル!」
仲の良い二人の会話。不覚にも聞いていたらジワリと瞼が熱くなった。
正明・・・よかったな。
「ミネさんシャワー浴びたほうがいいですよ。昨日は歯磨きも何もしないで寝ちゃってますから。綺麗にしてパンツとりかえてください。」
「おわ~何も用意してなかった!全然そこまで気がまわってなかったよ、俺。」
「大丈夫ですよ。僕全部持ってきましたから。歯ブラシも舌ブラシも、もちろんパンツもです!」
「おおお~でかした。さすがハル、ありがとうな。」
二人の日常が垣間見える会話。
胸に広がる安堵。ミネさんが一人でここに来た時に言った言葉を疑った事はない。でもこうやって実際に聞くと、偽りなく「ハルじゃないと全部ダメなんですよ。」は本当のことだと実感できた。
正明・・・よかったな。
ミネさん・・・ありがとう。
「お節、気に入ってくれるかな~~。ちょっとドキドキする。」
「文句なんて言わせませんよ。どれだけ手間かけて忙しいさ中に作ったのか僕はしっていますからね。大丈夫です。食べるの楽しみだな~僕にも作り方教えてくださいね。少しずつ覚えたいので。」
「そうだね。食文化の継承は大事なことだから。俺も勉強することばっかりだけど、それも楽しいし。なんてことを元旦に言っておけば、今年一年お利口さんでいられるかな。」
「はいはい、じゃあ今日はいいことばっかり言い続けてください。」
「そうしようか。じゃあ、まずはそうだな・・・元旦の朝の最初のおはようがハルでよかった。来年の元旦までこれが続くってことだろ?」
「・・・もう、ミネさん。」
静かにドアノブを捻る。
二人は仲良しで・・・そしてちゃんと相手を想っている、想い合っている。それがとても嬉しかった。
息子が大事な人を見つけて一緒にいる、そんな日が来るといいとは思っていた。男女とは違いそれがとてつもなく難しいことだと決めつけていた。
なんてことはない。
俺が広美を想う様に、人を好きになり大事な存在だと感じることは、どんな形であっても同じ。
難しいことではなく、単純なことだった。
ミネさん・・・正明を受け入れてくれてありがとうございます。
親として感謝します。
今年の元旦は北川家にとって、とても大事な日になるだろう。皆でミネさんのお節をつつき、笑顔を交わし新年を祝う。
息子の幸せな顔を眺めてまた来年も同じ時間を過ごしたいと望もう、そして願おう。
静かにドアを閉めた。
ミネさんと正明の事、今の気持ち・・・広美に伝えよう。
新年に集う事の意味と、その有難さ、そして幸せだということを言葉にしよう。
無理を承知で、今年の大晦日もここに来てくれとミネさんに言ってしまいそうだ。
冷え切った廊下は寒かったが、気持ちはとても暖かかった。
よかった・・・ほんとうによかった。
よかったな・・・正明。
ミネさん・・・ありがとうございます。
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