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jan.23.2017 morning
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朝だ・・・。
たぶん、今の時間は7:00の少し前。最近はようやく日の出が7:00前になった。一番寒いのは2月だったりするけれど、少しずつ太陽は春にむけて軌道を変えている。
16:00で真っ暗だった夕方も、少しだけ長くなっている。夜が少しずつ少しずつ少なくなっていくのは嬉しい。
暖かいベッドの中から抜け出すには勇気がいる。でも起きてストーブのスイッチを押さなければならない。目覚めて部屋が暖かい、それってとても大事なことだ。
静かにベッドを抜け出し床でくしゃくしゃに丸まっていたパジャマの下を拾い上げて足を入れる。フローリングの床は冷たくて足の裏がヒヤっとするけれど、今までみたいに悪態をつくほど寒さは感じない。気の持ちようで、色々なことの感じ方や見方が変わる。最近それを感じるたびに、面白くもあり嬉しくもある。人が幸せを実感するのは、こういう積み重ねなんじゃないかな。
リビングに行きストーブのスイッチを入れた。まもなくファンヒーターから温風が吹きだすはず。部屋が温まるまではまだまだ時間がかかる。
カーテンを少しだけずらして外を見れば冬の朝。
空気は乾燥していてシンと音がするような氷点下の気温。何層にも折り重なった道路の氷が曇天から透けてくる鈍い朝日を浴びてキラキラ光っている。
外から眺める分には綺麗な風景。歩くとなると・・・コツがいる。
車の轍、ところどころにある大きな穴。マンホールの上は特に路面がいびつになる。
少しずつ短くなっていく夜と反比例して気温が少しずつ上がっていく。氷も少しずつ減っていくけれど、完全に消えるまではまだ2ケ月はかかるだろう。
桜が咲くまでまだ4ケ月待たなくてはいけない。
それでも、この景色を嫌いになれない。雪のない冬を迎えたら、きっと雪が見たい、そう思ってしまうはずだ。
ストーブがウウウウ~~~~ンと唸ってフスゥゥ・・・と温風を吹き出し始める。加湿器を買った方がいいかもしれない。そんなこと今まで考えたことなかったのに。
これも新しい変化、そして嬉しいと思える変化だ。
キッチンに移動してコーヒーメーカーをセットする。朝飲むコーヒー、中休みに飲むコーヒー。時にはスタバまで出張することもあるけれど、やっぱり朝のコーヒーが一番美味しいと思う。
一番最初に身体にいれるなら水のほうがいいのだろう、でもいい。
朝はコーヒーがいい。
寝室に戻ってパジャマの下を脱ぎ捨ててベッドに潜り込む。
フワリと温さに包まれて、ほっと一息。
「トアさん、冷たい・・・。」
「おはようございます。」
んんん・・・ともぞもぞしたあと僕の身体にぴたりと寄り添う体温。
「おはようございます。もう朝なんですね。」
「ええ、朝です。今日も寒そうです。でも雪はやんでいますよ。少し気温が上がればいいですね。」
「早く10度にならないかな。天気予報の雨マークが当たり前になるまでまだまだですね。」
「ええ、まだまだです。」
布団の外に出ていた僕の身体は少しだけ冷たい。でもそれもまもなく体温を取り戻す。直接伝わってくる体温をもらって温かくなるまで、僅かな時間しかかからない。
「冬も悪くないなって思う様になりました。」
坂口さんはクスリと笑う。
「人間湯たんぽがある時だけ、そんなこと言えるんですよ?一人ぼっちだと寒さが堪えます。」
不思議だと思う。ほんの少し前まで「一人ぼっち」の夜と朝を重ねてきたというのに思い出せない。どんなふうに過ごしていたのか。
「忘れてしまいました。」
「んん・・・なにを?」
僕の胸元にある唇が言葉を紡ぐ。少しくすぐったいけど、僕はこれが好きだ。
「ずっと、こんな朝を過ごしてきたような気がするのです。一人ぼっちだったこと、その時どうしていたかってことを思い出せない。不思議です。」
「それは不思議。」
「ええ、でもそれが嬉しかったりします。ストーブつけにいくのもそんなに寒くないし。」
「体は少し冷たいのに。」
「ええ、不思議です。」
「もう少ししたら温かくなりますよ。私体温高いから。」
「・・・知っています。」
ギュウと抱きしめると柔らかさと温かさが染みてくる。物理的なものだけではなく、皮膚を通して体の中や心の奥に坂口さんが入り込んでくるような感覚-これも嫌いじゃない。
いえ、間違いでした-「これも好きが」正解。
「もうすぐコーヒーがおちます。」
「いい香りがしてきました。」
カーテンの隙間から漏れてくる朝日が徐々に力を増していく。月曜日は週の始まり。あと30分もすれば慌ただしい車や沢山の人達が街の音を奏で始めるだろう。
そんな月曜日に僕たちはお休みだという優越感。
慌ただしくシャワーを浴びて出かける用意をしてツルツルの道路に飛び出していかなくていい。
「今日と明日はどうしましょうか。坂口さん行きたいところあります?」
「んん・・・行きたいところ・・・か。皆さんは今頃ウキウキしているんでしょうね。エアポートと飛行機は大丈夫かな。」
「たぶん、大丈夫じゃないかと。エアポートが止まったら空港にいくのが大変ですからね。理さんがその辺りバッチリ対策してそうです。」
「4人ならタクシー乗って割り勘にすればそれほどダメージはないかも。飛行機に乗り遅れるほうがダメージですよね。」
坂口さんはもぐっていた布団の中から顔をだす。
寝起きの顔、もちろんメイクだってしていない。でもやっぱり可愛くて綺麗です。僕の顔がどんな状態なのかは、毎回考えないようにしています・・・しょうがない事なので。
「連休なのにゴロゴロしているのもったいないですよね。というかSABURO軍団は皆飛行機乗ってお出かけなのに。」
「・・・ですね。でも坂口さんが休みがとれるか微妙だったから、計画は無理でしたね。」
坂口さんはチョンと僕の鼻の頭を人差し指でつついた。こういうことされると、めちゃめちゃ可愛い仔犬を見たときみたいに「うがあああ!」ってなります。
だからお返しに僕も鼻の頭をつつくことにしました。
くすっと笑う坂口さん。
うがああ!が余計に大きくなるだけです!
「月曜日だったらきっとすいていますよね。それに無料送迎バスを出している所もあるみたいだし。」
「すいている?無料送迎バス・・・ですか?」
「登別とか洞爺あたりの温泉にいきませんか?冬の露天風呂ってのぼせないでずっと入っていられるし、雪をみながらのお風呂!夕食はバイキングで充分です。ネットで探してみましょう?
トアさんも「じゃ~んん。僕もお出かけしたのです。温泉に行ってまいりました!」なんてお土産渡しましょうよ。」
「・・・絶対皆さんお土産買ってきますよね。」
「そうですよ。貰いっぱなしは悔しくないですか?」
「ええ、悔しいです。じゃあ行きましょう、温泉に。露天風呂付の豪華な部屋は無理そうですが。」
「そんなのいいですよ、普通で。浴衣と丹前でバイキング。洞爺湖だったら遊覧船に乗れるかも。冬もあるのかな。でもまずは無料送迎バスが大前提ですね。」
「部屋が温まるまでもう少しかかりますよ。」
「・・・コーヒーが煮詰まっちゃいます。」
「責任もって淹れ直します。」
クスっと笑った坂口さんが僕の首に腕を回す。
「私何かしたかしら?」
「ええ、大いに。僕の鼻はスイッチなんです。」
「コピーロボットみたい!」
「正真正銘の僕です。」
重なる唇は柔らかい。
この人は柔らかくて温かいところばかりだ。
そして僕を幸せにする天才。
不思議をくれる大事な人。
あなたとなら、後ろではなく前を見ていられると思うのです。
そんな風に思わせてくれた人はいませんでした。
やっぱり・・・あなたは僕にとって特別な人です。
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