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feb.13.2017 SABUROのバレンタインは一日早いのです/トアと坂口さん 3
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「満腹です・・・少し食べすぎたかな。」
フウと息をつくトアさんと同様、私のお腹もパンパンだった。サラダを食べて牛タンの焼きをつついていたら、タンシチューも食べたくなってオーダー。ビールで乾杯したせいもある。
これは家まで歩いて帰らないと摂取カロリーが大幅にオーバーかも。
「早くここが緑になればいいですね。」
わたし達は窓際のカウンター席に横並びで座っていた。赤れんがテラス前の広場が見えているけれど、ビル街ともう白とはいえない道路縁の雪という景色。左手奥には赤れんが庁舎が建っているけれど、ここからは見えない。
空いた食器を全て下げてもらって、わたしはバッグを膝の上に置いた。中から目当てのものを取り出す。小さな箱と小さな封筒。
「これはトアさんにバレンタインデーだからチョコレートがないとね、というオマケ程度です。」
「GODIVAって書いてありますよ?」
「トリュフが4つしか入っていないので、ささやかですけど。」
「いえいえ、ありがとうございます。ええと、オマケって言いませんでした?」
「言いました、これが本命です。」
小さな封筒をトアさんに手渡す。ここに何が入っているのかな?そんな不思議顔。たぶん喜んでくれるはずなんだけど。
封筒の中身は会員券だ。
「ああ!これは!!しかもビンテージ会員じゃないですか!!」
トアさんがよくいくミニシアターの会員券。1000枚の限定チケットで年間10本まで無料で見られる。
11本目からは無条件で1000円というお得な会員券だから、トアさんみたいに沢山見る人は十分もとが取れるシステム。ちなみに私は2000円の普通会員。これを提示すれば1000円で1作品みられるので、トアさんと一緒に行くときにお得に見ることができる。
「一度会員になろうか考えたのに何となく止めちゃってまして。それがプレゼントになって僕の所にやってきた!嬉しいですよね。うわ~これで僕のミニシアター系はばっちりです。シネマレストランに紹介できる作品に出会うチャンスが増えます!
坂口さん、ありがとうございます、うわ~~うわ~~~。」
子供みたいに会員券を持ちながら目をキラキラさせているトアさんを見て私まで嬉しくなった。笑顔と嬉しいが伝染!贈った私も胸のあたりがホコホコしてくる。
トアさんは丁寧に会員券を財布にしまった。私と同じように膝の上に抱えたトートから細長い箱が出てきた。それは私の前にそっと置かれた。
「バレンタインですから、僕からも。」
「え?男性は3/14じゃ?」
「外国は男性が女性にプレゼントする日です。本を贈る国もありますが、僕はこちらを選びました。」
「男性が・・・女性に。」
「ええ、映画でもよく出てくるので・・・一度やってみたかったのです。でもいざとなったら照れますね。」
今日何回目だろう、トアさんの照れくさそうな顔。
包みを外して箱を開けたら・・・そこには一輪の真紅の薔薇。ビロードのようになめらかな花弁が開き始めたばかりの一輪。
「え・・・やだ、どうしよう。」
花をもらった事はある。あるけれど、どんな花束よりも素敵な一輪の薔薇。こんな形で贈られるなんて予想していなかった私の心臓は破裂しそうにドキドキしている。
「やっぱり、ちょっとキザでしたかね。」
照れ臭そうな顔は困った顔に変わる。
「坂口さんが、困った顔をしています。」
そう、私は今とても困っている。制御が効かなくて、ものすごく困っている!
どうしよう・・・この人が好きだ、すごく好きだという気持ちがものすごい勢いであふれてくる。
どんどん、止まることなく溢れてくる。
だから困っている、とても。
「ありがとう・・・ええ、私は困っています。」
「ええと・・・やっぱり僕がこういうことしても似合わないか。」
私は迷わずトアさんの手を握った。力いっぱい、ギュウと握る。
トアさんがびっくりした顔をしたあと、心配そうに私の顔を覗き込む。
「坂口さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないから困っています。もう私、いまここでトアさんに抱き着きたいのにできなくて困っています!」
「えっ!」
「もう帰りましょう。二人きりになれるまで困った状態のままです。それも困ります。」
握るというより掴んでいるような私の手にトアさんの手のひらが重なった。
「ええ、帰りましょう。僕もキスがしたくて困っています。」
「・・・そっちのほうがキザで・・・す。」
わたし達は勢いよくイスから降りて荷物を掴む。
家に帰って一息つかないと・・本当に、もう。
でも私は嬉しかった。こんなに好きだと思える人が私の隣にいるから。
この薔薇の花が一生枯れなければいいのに・・・ね。
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