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feb.14.2017 サンジョルディ
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「有名になってしまった。なんてボソッと嫌そうに言われてもね。」
「でもそれって自分が望んだことだと思いません?」
「まあ、いずれにしても身を削る根性がないと無理って話かな。」
打合せでそんな会話をしたすぐあとに、売り出し中の女優が宗教に身を寄せた。私はこのニュースを聞いて愕然とした。注目され、メディアの寵児となり、誰もが振り返る・・それを望んでいる若者が多いのでは?「現実は違った」そういうのなら、会社員だって同じだ。芸能人だけではない。
安月給もコキ使われるのも、不本意ですって仕事の内容も・・・
働かない以外に解決策がないってことかしら。
その世界にイケメンという括りで紹介している自分。感謝されるより、恨まれる方が多いのだろうか・・・。面倒くさい、正直。不本意だというならそれでいい。
その考えがバカらしくてコーヒーメーカーをセットした。
根回ししていたら周囲はもう少し沈静化できたのかもしれない。今後もうすこし踏み込んでオーディションに送り込まないと、こっちにも面倒が飛び火しそうだわ。
PCのメールをチェックしながら言われるいつものセリフを思い出す。「ラインは?」「なんでメール?」
その昔はね、ビジネスにもメールはなかった。送り付けたメールにいちいち電話で「送りました!」と言い、それって意味不明と思っていた。FAXですら「届いていますか?」なんで電話していたけど・・・もうひと昔まえの常識なのだろう。
Deliciousは稼いでいる。私が心を入れ替えたせいもあって、地方特集が人気だ。探せるはずの店の名前を伏せただけで、一気に熱気を帯び。「あそこだよね」「知ってる!」「あそこだよ!」「うん、美味しいよね!」
伏せた名前は勝手に暴露される。私は正解も不正解も言わない。
時に暴走するユーザーとビジネスチャンスだと浮足立つ店。
それを毎日見ているせいだろう、SABUROに行くと脈々とここには人の営みがあると実感できる。スタッフとお客さんとの幸せの連鎖だ。
だから・・・つい飛行機に乗ってしまう。でも一歩下がって見渡すと自分の私生活の寒々しさにゾっとなる。SABUROにくるまでは思いもしなかったのに。
そうなのだ・・・私は一人ぼっち。でも仕事もあるし稼ぎもある、人に言えば「羨ましい!」なんていう仕事の側面もある。
だが・・・一人なのだ。それを選んだ自分を恥じるつもりはないが、でも・・・そう、一人だったりする。
これが現実。
ピンポーン
ん?宅配?
ドアスコープの向こうは制服の黒猫さん。
ドアを開けると「石田さんから西山さんへの贈り物です!」と元気な対応。石田さんが?意味がわからないままハンコを押して部屋に引っこむ。
箱を開けたら一冊の本。
表紙にはポストイットが一枚
『電話するな、本を先に読め! 』
最初のなん行か読んでみると、29才の誕生日に独身の主人公は結婚できていない現実を悲しんでいた・・・意味が不明すぎる、石田さん!といささか憤慨な私。
それで本人ではなく高村さんに電話をした。
「また何かたくらんでます?」
『西山、イキナリなんの話だ!』
「石田さんから本が届いて。」
『ほおお』
「ほおじゃあないですよ!SABUROに関係あります?この本。」
『あるようでないかもな、ないようでもあるかもな。西山、その本読んで石田さんに電話しろ。』
「なんですか!本読めばわかるってことですか?」
「ああ・・そうだ。」
喚き倒していた私の勢いが止まった。わかるの?わかる・・・の?
「石田さんがお前に対して無駄な事はしないだろ。知ってるか?今日はバレンタインだ。そしてサンジョルディだ。」
「サンジョルディ?」
「ああ、男が好きな女に本を贈る日だよ。ああだこうだ言う前に、その本を読んで見極めろ。ああみえて石田さんはモテモテなんだぞ。向こうから本がきた・・・その意味を受け止めろ。仕事も愛も手にするのが大人の女だろ?違うか?」
高村さんは高笑いのまま電話を切った。
言われるまま・・・贈られた本を読んだ。
私がしたのは一便の飛行機の予約だった。
本片手に聞かないと。
デキル女になった私は聞く権利がある。デキル元上司に!
だよね、高村さん。
そして石田さんに向きあおう。
「こんなまどろこしいのは、あなたらしくない。」と言ってやろう。少しは困った顔をするだろうか。
あはははは、そうだった。私はいつもあの人を困らせていたよね。
もう・・・何年?
私の「困った」を拭い続けてくれたのだろう。私も歳をとった。
そこを問いただすくらいは・・・大人になったと認めてもらいたい。
ですよね、石田さん。
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