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august.10.2017 第一歩
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「ん……」
意味不明の音を出す僕。でも便利、色々な解釈ができる。それに……うっとりしていることが伝わるから一石二鳥。
「うん」「ん……」「ふう」「ふふ」「くすくす」
僕たちの間に存在する音は単純なのに、とても奥深い。同じ音なのに気持ちが違えば同じに聞こえない不思議さ。服を着ている時に肌がのぞくとドキっとする胸元に鼻先を埋めているのに、性的な昂り以上の安堵感がある。子供みたいに甘えた格好の30すぎの男でしかない僕。受け止めてもらって抱きしめられているって、どうしてこんなに落ち着くのかな。どうしてこんなに素敵だなって感動するのだろう。
ふわりと額に唇の感触。たったこれだけの接触なのに、愛されていると確信できるのはすごいことだ。とても柔らかいのに確固たる存在感。
僕が誰かの為に存在している――それは驚きと喜び。嬉しくなって力一杯抱きしめる。
「んんん。どうしたの?」
「どうもしません、いつもどおりです」
クスクスな笑い声が頭の上から降ってくるのが気持ちいい。情熱に押し出されたり優しい気持ちで交わすSEXは素敵だ。必要不可欠。でも……でも。こういう微睡みたいな触れ合いに心が震える、そして安堵がこみあげる。
すり抜けていくことはない、そんな確信がある。それなのに、失ってしまったら?と同じくらい不安になる。相手を疑うということではない。大事なものを得たら必ず生まれる不安。
だから格好悪く甘えて……甘えても格好悪いよって言われないことで踏みとどまる。男は厄介だ。かくありたい、強くありたい、守ってあげたい、そんな独りよがりが先走る。
男だと威張った所で女性がいなければ生まれてくることもできない。鶏が先、卵が先ってことではないよ?でもね、やはり女性はすごい。そして敵わないと思う。
特にこんな風に甘えている時には。
「坂口さん」
「んん‥‥…おはよう、トアさん」
「あったかい……いい匂いがする。安心です」
「トアさんもです」
「坂口さん?」
「どうしました?」
ふんわり抱きしめられて、このまま二度寝をしたくなる。でも駄目だよ、うん。
「今度……いつか……斜里に連れて行ってください」
「……トア‥‥‥さん?」
「兄さんや義姉さんに無理やり逢わせてしまって申し訳なくって。同じような居心地悪さを僕も体験すべきかなって」
「そんなのいいのに」
よくはない。
坂口さんの真上にポジションチェンジ。
「ご両親に会いたい、いや……会うべきだと思っています」
「トア……さん?」
「あなたの存在は僕の中で大きく育っています。たぶん、これからもずっと膨らむ予想しかない」
「え?」
「いてくれないと……困ります」
親指でなぞる肌の感触。濡れたような気がして目じりをなぞったけど違った。でも……でも、眼球の上には透明の涙がこぼれんばかりになっている。表面張力で張りつめた鏡面に映る朝日。
肩甲骨から背中に滑らかな手のひらがすべる。
「いっしょにいきましょう」
「うん、いっしょに」
「トアさん?」
「はい」
「私は鈍感なので、言葉にしてもらわないとわからないの。でも……伝わりました。ありがとう」
抱きしめ続けた。消えないように、減らないように。僕の気持ちが移ってしまえばいいと思って。
「あなたは特別ですから」
埋めた鼻先に触れる柔らかさ、そして温かさ。これを失うことになったなら、僕は僕でなくなるだろう。自分の気持ちを押し付けるだけではなく、愛おしいを言葉にして二人の未来を沢山話したい。いつか困難が生まれても、それでもやっぱり抱き合って沢山話をしたい。
あなたは僕の特別なんです。
だから抱き合って、お互いの鼓動を抱きしめながら体温を感じたい。
贅沢ですか?
だって……あなたは僕の特別だから
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