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september.30.2017 スパンキング王参上
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「ようやく日常が戻って来たってこと?」
「そうなるのかな。来週月曜日になればもっと実感できるかも」
ミネと一緒に来たスタバ。新商品と迷ったけれど、いつものパターンに落ち着いた。ただしラテではなくカプチーノ(ホットでシナモン多め)ミネはコーヒー(面白くないよね)
「なんだよ、サトルのカプチーノだって面白くないの範疇だぞ」
「なんでわかったの?」
「そんな顔だった。ハルみたいに新商品は必ずオーダー精神はどうよ?」
「んん……飲み物に甘さは求めていない」
「俺も」
道行く人は秋を先取りの人もいれば、薄着もチラホラしている。少々肌寒いからといって秋冬仕様にするのは気が引ける。秋がそろそろ終わろうとしているけれど、まだしがみつきたい!というのが北の民。
外は我慢できるけれど、部屋が寒いと生きていかれない軟弱性を持ち合わせている。だから冬の本州は屋内が寒くて苦手という北海道あるある。
「結局やりすごす作戦はうまくいったってこと?」
ミネはう~んといいながら頬杖をついた。
「やり過ごすというか、宿題にしてくれって親父が言ったから俺はそれを呑んだ」
「言葉にしない……ってことか」
「そ、ほぼバレているけどね。言葉にしないうちは否定もできる。肯定するとしたら?というシュミレーションもできるってことよ。こればっかりはクヨクヨしてもしょうがないから、俺はハルと毎日を頑張るだけかな。皆頑張ってるぞ!っていう写真を前より送るつもり」
「そっか」
「10/3はまた俺の前に来てくれないんだろうな、俊巳おじさん。だって俺困ってないし」
俊巳さん。毎年関わる事で、自分の何かが強くなったり整理される。俺にとっても1年の中で大事な日になりつつある。
「それを言ったら、俺も困っていないけど。でも来てくれるよ俊巳さん」
「なんだろうな、サトルと相性がいいのかもな」
「そういうのあるんじゃない?そっちの世界に明るくないけど」
俺の体を使って充さんを見たいと言った俊巳さん。今年はどんな望みを言ってくれるのだろう。
「3日はいつもどおり皆で営業終わりに飲もう。サトル食べたいものあったら言って。あ~違うな、リクエストをまとめておいてが正解」
「おお!何にしちゃおうかな。色々ありすぎて困るな!」
「相変わらず食い気に溢れているね~」
先月末からミネの身辺が慌ただしくなり、正明と離れて過ごす時間を重ねることになった。1ケ月に満たない時間であったとしても寂しかったに違いない。一緒にいることが当たり前になっているのに、それが無くなる。俺も衛と過ごす時間が当たり前で、24時間ずっと一緒だ。これがなくなったら?
正明は実家から通うという方法があったけれど、俺はどうしたらいいのだろうか?そう考えたら少し怖くなった。自分と両親の関わりばかり考えていたけれど、衛にだって親はいる。不測の事態が生じた時、俺は手立てがなにもない。ミネやトア、もしくは充さんを頼ることになる。
充実している毎日とはいえ、俺の世界は確実に狭くなった。このままでいいのだろうか?そんな疑問が生まれつつある。
「俺、今回のことで勉強になったというか、悟ったよ」
「なにを?」
「ん~なんていうのかな。物事は正しい、間違っている以外の見方があるってこと」
「正しい、間違い、世の中はだいたいこれで回っていると思うけど?」
「サトルの言う様に、俺もそう思ってきた。でもさ、今回親と接することで「正しい」「間違い」だけが基準ではないことを思い知った。正直に打ち明けるべき、これって「正しい」の分類だけど、今回はそれが当てはまらなかった。言わないことは「間違い」か?それも違う。親に言わないことに決めたサトルなら意味わかるよね」
「うん。わかる」
「一般常識や道徳観と違うところに答えがあったよ。それって「良いか」「悪いか」かな」
「良し悪しってこと?」
「そ、それって個々で基準が違うだろ?価値観というかさ。俺が良いと思っても他の人は悪いって場合もある。だから俺と親にとって「良いこと」を積み重ねていけば俺達なりの答えがでるんだろうなって。焦らずじっくり取り組むよ。次に帰ってくるのがいつになるのかサッパリわからないけれど、俺はそれまでハルに愛想つかされないように頑張る。それが一番俺にとって良いことだと思うしね。ラブラブ街道を突っ走ってやるさ」
映画や小説の燃え上がる様な恋愛は成就するまで(もしくは壊れるまで)の道筋を描いたものが多い。俺は衛と一緒にいるようになってから、成就してからが本当の道であることを理解した。
自分の家族、相手の家族、仕事、仲間。巡る季節、食事、過去と未来。様々なことを考えるようになったと思う。自分が何を大事にしたいのか、何を掴み取りたいのか。大事なものが重なり両方平等にできないこともある。衛と両親は別の意味で大事な存在だ。どちらかなんて選べない。
それはミネの言う様に「良いこと」を選択していくしかないのだろう。そしてその選択は時期や環境によって常に変化する。その都度考え悩み答えをだす。
ただその道筋をたどる時、横に衛が一緒にいてくれるということが一番大切なことだ。共に悩みながら一歩前に進む。それが俺達の道筋になり過去は未来へつながる。
「そうだね、自分たちにとってのベストを見つける旅みたいなものだ。回り道が必要な時もあるし、一気に飛行機に乗れちゃうこともあるだろうし。でもミネは答えらしき手応えを得たわけだから、今回のことは無駄ではなかったでしょ?」
「うん、無駄ではなかったよ。一つおりこうさんになったかな」
ニヘラっと笑うミネを見てもう大丈夫だと安心した。ちょっとざわついた村崎家だけど、ミネも正明との絆が深まっただろう。
「俺も安心したよ。これで日常が戻ってくるね」
「んだ~ね~色々頑張っちゃうもんね、俺」
ではさっそく頑張っていただきますか。トートに手を伸ばし、中からクリアファイルを取り出すと、ニヘラっとしていたミネの顔が一変した。
察しがよろしいようで、なによりです。
「あああ……サトル、もしやそれは」
「もしやのもしやです。だってもう大丈夫なんでしょ?それに色々頑張っちゃうんでしょ?」
「……」
「はい、今日は何日?」
ミネはテーブルの上にあるスマホを起動させた。トップ画面にデジタルの日付と時刻が表示された。
「9月30日……です」
「はい、よくできました。それで明日は何日ですか?」
「……じゅうがつ……ついたち」
「そのとおり。ということで、今年もやります。クリスマスのオードブル、もちろん年末もね。こんな感じで宣材イメージは作り込んでおいたのでメニュー変えるなら試作品をよろしく。写真とってすぐに落とし込むから。それと同じくランチプレート、ディナーの内容を検討。あとBOXは今年もやめられないよ。すずさんから予約きてるから」
「はあ?」
「はあ?じゃないよ。今年のクリスマスはイブイブの23日が土曜日、24日は日曜日、25日は月曜日だよ?あえてカレンダーみないようにしていただろうけど」
「げ!25日って月曜日?」
「そういうこと。残念ながら年末は18日の定休日を最後に大晦日までノンストップだね」
「な、なんと怖ろしいことをサラリと言うのだ!サトルは!」
「現実を見ろってこと。すずさんの予約25日だからスライドは無理。どこまで言ったっけ?オードブル、ランチ、ディナー、BOX、大晦日仕様のオードブル。あとどうかな、ローストチキンしない?ミネの誕生日に食べたの美味しかったよな。お腹の中に色々つまってたアレ」
「スタッフィング仕様?ただのローストではなく?」
「だって美味しいほうがいいし、他店との差別化って大事だよね。最初だから限定数を設定しよう。どのくらい反応あるかによって来年の設定数を決めればいいし。どうかな10?20?数が見えないから早めに掲示したいんだよ。だからローストチキンの試作もしなくちゃね。
他の店の価格帯、鶏のサイズを集めてみたから参考にしてみて」
ミネは目の色をすっかりなくし、半開きの口。コーヒーがダラダラ出てくるんじゃないの?というぐらい締まりがない。
「正明の配分も考えないとね。ホールと厨房両方で動かないといけないだろ?俺とトアの動きも再確認しなくちゃだし。ほらもうね、今からやっておかないとドンドン山積みになるだけだよ」
「勝手に……山になればいい」
「山になって崩れて生き埋めになるだけだよ?誰が掘り返すの?そんな手間のかかること俺は嫌だからね。そもそも山にしなければ問題なし。ということでコーヒーのんだから帰るよ。衛と相談しないと」
「……はい」
一難さってまた一難。ミネの家族模様も、熱い12月も「難」ではないけれど、今のミネにとっては「やめて~~~!」と叫びたい状況だろう。
「今日帰ったら正明に慰めてもらいなよ。あ~でも正明なら「ミネさん!頑張りましょう!僕も頑張ります!」って言うだろうね。一生懸命な恋人をもつと大変だね~」
ミネはゴクゴクコーヒーを一気飲みした。暗い顔は相変わらずだが、きっと頭の中は目まぐるしく料理の数々が浮かんでいることだろう。
「サトルは鬼だ」
「違うよ、俺は「スパンキング王」だし」
ようやくミネが少し笑った。
「それじゃあ、帰りますか。しゃーない!12月が俺の一生から消えることはないし。飯塚とハルに甘えて乗り切るよ。サトルはお尻ペンペンくらいにして。蹴り上げるのはなしにして」
「ミネが頑張ればスリスリさすってあげるよ」
ミネの顔がまたもや一気に暗くなる。
「やめて。サトルにお尻スリスリされているの目撃されたら鉄仮面に串刺しにされるから。じゃあ俺からの要望。11月に完全連休をとりたい。12月を乗り切る英気を養うために。どの週が一番影響ないかデータ集めよろしく」
「プチ連休じゃなく?」
「勤労感謝の日は木曜だからさ。プチはできないんだ。それに去年も行けていないだろ?飯塚と温泉」
「……ああ、うん。でもそれは」
「いやいやいいの。トアも俺もハルもね、連休ぐらいあっていいでしょ!俺も温泉かどうかわからんが、どこかに行きたいし。そんぐらい我儘いってもいいだろ?なあ、いいだろサトルさまぁ~」
なんだ、ちゃんとカレンダー見てるじゃないか。ミネはいつ言い出すつもりだったのかな。11月連休とろうよって。なんだかんだ言ってやっぱりちゃんと考えている所がミネらしい。
「いますぐここでお尻スリスリしてあげようか」
「いや!本気でやめて!おまけにここスタバだから!」
俺達はアハハと笑い合いながら立ち上がった。
今年は残り3ケ月。ギュっと詰まった忙しい日々がやってくる。気合をいれて乗り切ろう。
今晩はワインを飲みながら衛と温泉検索しちゃおうかな。うきゃっ!!
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