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chapter2 困ったヤサ男 <6月>
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「ほんと、お前の料理は旨いよなあ。」
これだけ旨い顔をされて食べられたら、作った時間や何もかもがどうでもいいと思える。
日々「報われる」と思えることは少ない(特に仕事では)が、毎週目の前に皿を差し出さえすれば、それを味わうことができるのだ。
武本は女性社員人気No.1の男だ。
背はそれなりにあるし、少し目じりの下がった優しい顔立ちが安心感を与えるのだろう。
長く一緒にいたいと思えば「優しい」ということは必須だろうし、色白の面差しとにじみ出る雰囲気がまさにそれで、周囲を和ませる男だ。
対して俺はどこから見ても「男」な出で立ちと押しが強そうにみられる顔のせいで、そこらへんの女を食い散らかしていると思われている。
「女の敵」と「女の味方」が社内でコンビを組んでいるというわけだ。
よくよく考えれば俺と武本は週のうち月曜から金曜まで会社で顔を突き合わせ、金曜の夜は武本の家に俺が行き、土曜は昼間から武本が俺の家にくる。
そこらの夫婦より長い時間を過ごしていることになり・・・この件を深く追求するのはやめた。
「いつか普通のシチュー作ってくれよ。」
「普通の?」
「そ、白いシチュー。CMで冬になると放映されるじゃん。」
普通のって、誰でも作れるようなシチューの素を使った料理が食べたいってことか?
今までの俺の創意工夫は・・・無駄だったということか?
「普通のシチューが食べたいならコンビニやレトルトを温めればいいじゃないか。野菜と水を鍋に突っ込んで裏書のとおりにルーを入れたら武本でも作れるだろ。」
「まあ、俺がつくればCM程度にはなるだろうけどさ。」
「だったらそれ食っとけ。」
武本は盛大にわざとらしいため息をついてみせる。その後フンというような顔を作り俺を見ないで言った。
「俺が言った普通っていうのは白いシチューのことで、タンとかビーフとか今まで食わしてくれたのあるだろ?茶色のシチュー。」
何が言いたいんだ。このヤサ男は。
「すっげー旨かった。だからさ、飯塚が作ったら白いのも今まで食べたことのない素敵なシチューじゃないの?って思ったら・・・食べたくなった。」
「・・・。」
なんなんだこいつ。こういうのはよろしくない、とうに気が付いている。
こいつが言うとブーケガルニだって少し工夫してやろうとか、ルーなんぞ使わなくてもできる旨いシチューを食わせてやろうとか、次から次と策が浮かぶ。すべてはこいつが旨そうに食い、嬉しそうにする姿を俺が見たいからだ。
『報われる』―そうだ、その代価に飢えているだけなのだと自分に言い聞かせる。
「おう、忘れたころに作ってやる。」
そう言った俺に向かって、「楽しみだな」と呟く顔にやる気がみなぎる自分・・・最悪だ。
でも、どういうふうに武本を唸らせようかと材料や工程を考えだすと、たまらなく楽しくなる俺がいる。
ほんと、困った男だ、このヤサ男は。
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