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chapter11 ヤサ男弱る <同じく12月>
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「おはよう、何か変わったこ・・・と・・・」
俺は出張から戻った火曜日の朝、武本の顔をみて口をつぐんだ。
体調を崩しているのが明らかな様子、滅多に見ることのない姿。
「ちょっとお前。」
「あ、おはよ。みなまで言うな。今俺の体温は36.8度。少し平熱よりは高いかもしれないが熱はない。」
「そんな顔してどの口が言っていやがる。」
武本はふうとため息をつくと言った。
「たぶん37.8度くらい、ギリ8度にはならないところで踏ん張ってるから大丈夫だよ。」
「病院は?」
「いや、風邪ってか、ちょっとマッパ掃除に手間取ったのと若干の知恵熱だから、これ以上悪くならないはず。早いとこ仕事にとりかかろうぜ、何件か相談があるから。」
この時期に体調を崩すなんてお前らしくもないと言いそうになって止めた。武本が一番わかっていることだし、俺がダメを出す必要はない。
俺のできることは仕事をやっつけて武本を早く帰宅させること。仕事に給料以外の目的が発生するのは大歓迎。モチベーションがあれば効率が上がる。俺は武本の後ろからミーティングルームに向かった。
<金曜日>
なんとか3日やりすごし、ようやく金曜日になった。
鬼のように案件に取り組んだおかげもあって、今日は定時に武本を帰すことができそうで一安心する。火曜日よりはマシにはなったものの、本調子には程遠く心配だ。
「お前はもう帰れ。」
「いや、飯塚にばっかやらせたから。明日から休みだしもうひと踏ん張りする。」
「ダメだ。」
「ダメって言うな。」
「うるさい。病人はおとなしくしておけ。俺が風邪ひいたときのお返しだ。いいから先に帰って待ってろよ。もう少しで片付くから。」
武本の目が少し潤んだように見えたのは気のせいか?また熱があがってないといいけれど。
慌ただしく仕事を片付け会社から戻ると、武本はベッドに丸くなっていた。
こいつの部屋はベッドがソファがわりみたいな1DK。妙に居心地がよく長居を無意識に避けているというか・・・な部屋だ。
床に寝ていたらどうしようかと思ったが、たぶんそんなことをするのは俺だけで、ちゃんと着替えたらしい。
「悪いんだけど。」
ネクタイを緩めていたら声が聞こえた。
「なんだ、寝てなかったのか。」
「それ着てくんない?」
指さした床には暖かそうなルームウェアがあった。
武本はむっくりとベッドから起き上がり顔の右側をゴシゴシさすりながら指の間から俺を見た。
「お前がいなくてつまんなくてさ。埋め合わせしろ。」
「あ?」
「雑誌置き場のとこに布団一式あるからさ。ヒマならここにいてくれないか。」
「・・・。」
お前そんなに弱っているのか?
「悪いな、俺少しおかしくて。お前がいなくて納豆ばっか食ってて、それで、色々、か、考えたりとか、よくわかんなくて。」
「うん。」
前に武本がしたように首筋に手の甲を伸ばす。
「・・・お前いないからつまんなくてさ。」
「8度超えてそうだぞ。」
「・・・デコさわれよ。」
そう言われて触れた額は首筋より熱くなかった。
「首のほうが熱いだろ?デコで測った熱は希望的観測値だよ。だから誰もがオデコを触るんだ。体温計の数値を知りたくないのと同じ心理。正確な値を求めるなら首を触れだ。」
ゆっくり眠ってほしいから、武本の目を手のひらで覆う。
「ん・・・。」
「お前、寝ろ。」
「飯塚は看病に慣れてないな。」
「お前は慣れ過ぎだ。」
「・・・ねえちゃんが俺の生命線だったんだ。」
「は?」
「うち商売やってるだろ?両親はずっと忙しくてさ。俺、姉ちゃんに認めてもらえないとゴハンあたらないのさ。」
「何言ってんだ、武本。」
「姉ちゃんが母親に代わって俺の面倒みてくれて、炊事もやってた。で、ねえちゃん扁桃腺もちで。」
それで、俺が具合悪くなったときノドを診たわけか。
「早くよくなってもらわないと俺ごはん食べられないの。だから必死で看病してできることをするようになって。だから看病と掃除洗濯はできる。」
「・・・それでお粥。」
「そ。ねえちゃん不味いと薬飲まないからさ。だから俺、看病とおかゆ、うまいの。」
弱って寝ている武本の姿と、子供みたいな口調で昔の話をしているのを見ていたら、守ってやりたいという衝動が俺の身体を突き上げた。
いきなりスーツを脱ぎだした俺に武本は大慌てだ。
「ちょ、おまえ、ハンガー。たのむからかけろ。なんだ、どうした。こええよお前。」
用意されたルームウエアに着替えて武本の隣にもぐりこむ。
「うわ、なんだ!なんだ!ちょっ!飯塚!」
「だまれ。本当は寒いだろう?怠いし、色々面倒になるくらい疲れているだろ。」
「わかったような口ききやがって・・・」
「安心したあとの朝は気持ちいいじゃないか。」
「お前何か食わなくていいのかよ。冷えてないけどビールがダンボールにはいっているぞ。」
「なにもいらないよ。明日の朝うまいもん食べよう。何でも作ってやるから。」
俺は後ろからしっかり武本を抱き込んだ。
「冬の醍醐味は湯たんぽだな。」
「・・・。」
「おやすみ。」
「・・・お前がいなくてつまんなかった。」
今日何回聞いたかなと思いながら俺も言うことにした。
「俺も、つまんなかったよ。」
少しだけ震えた背中を胸に感じながら・・・抱きしめる腕に力をこめた。
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