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chapter14 ヤサ男「特権階級」に特進 <3月>
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「就活・・・考えるだけで頭が痛いです。理さん、就職している・・・羨ましい。」
俺はビールを噴きだしてしまった。ええ、就職して馬車馬のごとく働いておりますよ。
「うちの会社、来期は新卒とるのかな。今月末には新人入ってくるけどね。うちの課に配属らしいから、正直面倒倒くさい。」
「もう少し考えて大学行けばよかったかもなあ。」
「学部どこだっけ?」
「国文科・・・です。」
「辞書つくる人になるとか?映画あったよな、そういうの。」
恨めしそうに俺を見ながら言い募る。
「こんなことなら経済学部にしておけばよかった!頭を挿げ替えて理数に改造すればよかった!」
またもやビールを噴きそうになり必死に飲み込む。相当に追い詰められた様子は申し訳ないけど、けっこう笑える。
日曜の夕方、なんてことのない居酒屋で俺に向かい合って座るのは北川正明(きたがわまさはる)
例のコンビニ君だ。クリクリの大きい目が可愛い男の子。
4歳下の同性に「男の子」は失礼だが、実際幼く見えるのだからしょうがない。
俺のことを好きだと言った・・・。「友達になってくれ、損はない。」そう訴える瞳の潔さに頷いてしまった。俺はちょうど弱っていた時期で、飯塚が好きなことを自覚してグズグズしていた。
自分には無い相手に想いを告げる強さ、それにあやかりたかった。
友達とはまた違う関係が始まり、月2回くらいは居酒屋で色々な話をするようになった。
毎週土曜日の飯塚訪問は継続中だから、正明のバイト先であるコンビニの前を必ず通る。
正明は土曜に律儀にフルでシフトを入れているので、毎週顔を見ることになり、メシ食うか?という流れになって恒例化したわけ。
「うちの会社も調べてみれば?お知り合いってことで多少プッシュできるけど・・・俺の影響力なんてほぼゼロに近いだろうな。」
「嫌ですよ。理さんはいいけど、飯塚さんの働く姿なんか見たくないですからね!」
「あのさ・・・聞いておきたかったんだけど・・・」
「なんですか?答えにくい質問っぽいテンションですね。」
「俺の・・・飯塚への気持ちってさ、はたから見てバレる程わかりやすいのかな・・・と。」
カルピスサワーをゴクゴク飲みながら、俺をじーっと見る正明。
「たぶん、他の人はわからないですよ。同性同士が仲良くしていても友達ってのがデフォルテでしょ?ただ同性でも恋愛アリだって種類からしてみれば距離感を見ると、あ~~っとなる。理さん達を見たところで普通は「気の置けない仲の良いお友達」どまりですよ。」
「ほんと?」
コンビニで顔を合わせている他人にバレるくらい好き好き光線をまき散らせているとしたら、会社の同僚のみならず飯塚本人にも筒抜けだったのではないかと・・・考えたら恐ろしくなっていたのだ。
「知ってます?1割はゲイだってこと。」
「え?その確率だと会社にもそこそこ居るぞって話になるけど・・・それ高すぎじゃないの?」
「もう早々に自覚する場合は別にして、異性愛だと思っていたら違ったとか、結婚して子供もいるけど違ったって場合もあるし。自覚あるなしに関わらず大部分は隠して暮らしているから少ないって感じるのかも。僕は「ノンケだと思っているけどそうじゃないかも?!」的な範疇の察知力があるというか。」
「え・・・それって・・どういう・・・」
「ちょっと言い方変えますね。性別に囚われないで人間性で人を好きになれる人がわかるっていうか、そういうことなんです。僕の場合ノンケキラーとかありがたくないあだ名があるわけですが、実際はちょっと違うんですよね。グレーゾーンを突っつくのがうまいだけっていうか。」
俺は口をパクパクさせるしかなかった。さらっと言われたノンケキラー、自分がノンケ自覚なのに実は違う人種にされている事とか、頭の中がパニくって息を吸うことを忘れてしまいそうだ。
「だからね、飯塚さんが男だとか、そこらへんもういいと思うんです。」
「・・・いいって、どういう意味だよ。」
「他の事を悩んだり考えたりしたほうが建設的ですって話。」
「同性を好きなっちまったって、そこ一番のネックだろう!」
飯塚が女だったら、簡単にスキだって言えるんだ。もしくは俺が女でも同じじゃないか。
「理さん・・・けっこう傷つくな、それ。」
サワーを飲み干して、店員にグラスをあげておかわりを頼んだあと、俺の顔を見詰めた顔は寂しそうだ。俺、変なことを言った?
「同性を好きになることが最大のネックだというのなら、僕みたいに同性しか好きになれない男は、存在自体を否定されるってことになる。僕は人類のネック・・・ってことですよ。」
「正明はそんな、ネックとか・・・違うだろう。」
「違わない!理さんはそう言った。」
「・・・。」
運ばれてきたサワーを一口飲んで視線を逸らせた後、正明はため息を一つついてもう一度俺を見た。
「理さんの気持ちはわかりますよ。ちょっと意地悪しました、ごめんなさい。でも言わせてもらえば、もうその道は僕通ってきちゃったから。どうやら自分は他と違うと思い至って悩んで受け入れるまで沢山の葛藤がありましたよ。
男女が普通っていうなら、なんで同性愛者が存在しているのか?って話になりませんか。だって昔から存在してるわけですよ?プラトンだってミケランジェロだってそうなわけですから、存在自体が悪ではない、きっと意味があるんだと。で、僕の至った結論。」
正明の顔を見ながら視線で先を促す。
「真の意味で相手を好きになれる『人類の特権階級』です。」
正明はニッコリ微笑んだ。
「女だからとか男だからとか、これが普通とか異端とか、そういう雑音じゃなくて相手を好きになれるって特別だと思うことにしたんです。
理さんも飯塚さんも男だけど、理さんは本当に魅力満載で素敵じゃないですか。飯塚さんの中身は知りませんが、見た目は男前。魅力お化けみたいな理さんが好きになったなら、飯塚さんも特別なんですよ。だからね、特権階級だってことにしておいて、悩むなら他を考えるべきです。
どうやったら飯塚さんに振り向いてもらえるかを考えたほうがずっと精神衛生上いいですよ。
僕の言いたいことわかります?」
驚いた。
まったく考え及ばない方向から心にストンと落ちてきた・・・。
「なに・・・お前すごくないか。なんか・・・感動した。」
「理さんには、そこらへんの凡人並みの考えに捉われてほしくないんですよ、僕としては。」
「いや、なんかさ、ここで大笑いしちゃいたいくらい。すっげえすっきりした。目からうろこってこういう事を言うんだな。」
「理さんなら絶対わかってくれると思っていました。でも特権階級論の支持率は20%ぐらいですよ、実際は。」
「何言ってんだよ!たぶん今言ったことで救われる人間は多いはずだぞ。説得力あるし・・・それにそうだな、なんか優しいな、目線が。正明の人間性だな。」
珍しく眉をひそめた正明が訝しげな視線をよこす。
「どこが優しいんですか、けっこう自己中論法ですよ。」
「片方落として片方持ち上げるって簡単だけど、それじゃないし。自己否定も憐憫もないけど恨みもない。突き抜けた先の道筋の提示って感じじゃないか。さすが国文科!」
「うわ、なんかむかつきますよ、理さん。それに僕がいくら言っても「結局ホモじゃんか、もしくはバイの肯定?」で終わる話なんですよね。」
「今ので、俺は救われた気分。終わる話じゃない、前向きになろうって思えた。」
急に正明が黙り込んでしまったので、つま先で靴先をつついた。
「あ、ええっと。今の状況を考えたら、僕バカみたいに敵に塩を送ってる感じですよね・・・。」
「あ、あ、あ・・・。まあ、そういうことに・・・なるかも?」
「好きとも違ったのかな?憧れっていうのはこういうことなのかな~って考えちゃいました。
だって、好きになったりってけっこうドロドロとか腹黒くなるもんでしょ?全然沸いてこないんです、それが。すっごい不思議。突き抜けて仏になった?う~~ん。」
かわいい顔をしかめてウンウン唸る正明を見て笑みがこぼれる。自分だけでどうしようもない時は助けを借りればいい。ギクシャクした俺達の関係を飯塚だって考えているはずだ、たぶん。
あいつをどうにかできるのは俺で、今までだって程度の差こそあれ、俺達はそうやって前に進んできた。
「就職、営業も頭に入れてみれば?」
「ええ~、むいてませんよ。」
「いや、説得力ある提示に現状分析。方向性の模索。けっこういいもの持ってると思うし。今度の新人が正明みたいのだったら会社いくの楽しくなりそうなんだけどな。」
「ほんとに?」
正明の言うとおりだ。どうにもならないことを「何故だ」「どうしてなんだ」と悩んだところで解決なんてしない。受け入れられないなら放ってしまえ!だ。
特権階級か・・・・
雲が散っていくように、俺の周りから憂鬱が抜け落ちていった。
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