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chapter20 正明君と男前 <9月>
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背筋が凍るとは、このことだ。
人生始まって以来、あんな思いをしたのは初めてだった。理さんと「タケさん訪問+散髪」を終えて札幌に戻りバスをおりてすぐ。背中に異様な視線を感じて振り返ったら・・・
視線だけで人が殺せそうな顔をした飯塚さんと目があった。
怖い!その恐怖たるや!
無理やり飯塚さんから顔を引きはがし、向き合った理さんは天使さんのように穏やかだった。
そのあと背筋にビシビシ殺気を感じながら歩き続けた僕を褒めてほしい・・・ほんと。
あんな顔して僕を睨むなら、先にすることがあるはず。理さんを捕まえておけばいいって簡単なことなのに。
バイト先では、飯塚さんが来そうな時間帯はレジにいないように心掛け、被害に逢わないようにビクビクしながら過ごしていた。
今日もやり過ごせるはずだった・・・のに、タイミングが悪かった、ハア。
塾帰りの学生軍団のご来店と品出しが重なり、やむなくレジに立つはめになった。さくさく終わらせてしまおうと心に決めたと同時に、いらっしゃいました・・・飯塚さんが。
下をむいて誤魔化そう、もうそれぐらいしか自衛手段が浮かばない僕は、愛想のカケラもない接客でやりすごそうとした。
「下ばっかり見てても、今更遅いぞ。まさかこんな近くにいたとはな」
「・・・。」
「仕事あがりは何時?」
「あと・・・30分だったりします。」
「それじゃ、そのくらいにまた来るから。逃げんなよ?」
恐る恐る顔をあげると、半笑いの飯塚さんが僕を見下ろしていた。逆らえるはずもない!
「・・・ワカリマシタ。」
僕の抵抗は、棒読みで返事すること以外になかった。
不機嫌オーラ全開の男前とむきあうハメになった僕は、正直ウンザリしていた。
バイトあがりだし、早く帰って寝たいわけで、色ボケした人間につきあう義理はない。
なんか色々ばからしくなってきた。
「飯塚さん?」
「・・・なんで名前を知ってるんだ。」
・・・そこからですか、そうですか。
「僕は随分長いこと、あのコンビニにいるんです。毎週仲良く姿をみせるお二人ですから、互いに何て呼び合ってるくらいは、勝手に耳に入ってくるんです。それと、理さんには僕が友達になってくださいってお願いして、仲良くさせてもらってます。
黙っていて後々面倒になるのはゴメンなんで白状しますが、友達になってくださいとお願いする前、チョコを渡しました。結果振られました。
今は恋愛感情を通り越して、僕にとって一生必要な人・・・的な存在です。飯塚さんがなんと言おうが、理さんから離れませんのでそのつもりでお願いします!」
一気にまくしたててやった、フン。
「女だけ牽制しとけばいいと思っていたのに、まさか男から言い寄られてるとはな。」
「飯塚さんってバカですね。」
「はああ?」
「飯塚さんだって男ですよ?
理さんを誰よりも好きなくせに放置してるからですよ。そのうち誰かに盗られますよ。」
すごい勢いで文句を言われると思って顔をあげたら
ゆでだこのように真っ赤になった男前さんがおりました。なんだ・・・かわいいじゃん、この人。
すっかり楽しくなった僕は、飯塚さんと親睦を深めることにした。
タケさんに恩を売るのも悪くないしね。コンビニ買い物風景以外の報告ができそうです!
「男二人で茶もなんですから、飲みますか。」
店員に向かって手をあげる僕に、飯塚さんは何も言わなかった。
「前につきあってる相手が実家に行きたいって言い出したことがあって。」
「飯塚さんの彼女さんがですか?」
「いや、武本の。」
「あ~理さんの。」
「なんかそのサトルさんって耳障りだな。」
「理さんのお兄さんと混ざりますから、苗字だと。我慢してください」
男前の苦虫かみつぶしたような顔?これはなかなか味がある。
「話をもどすが、その時武本が怒って喧嘩になってさ。でも北川を実家に連れて行った。」
「へえ、そんなことがあったんですか。長いつきあいだったんですかね、その彼女さん。」
「いや、2ケ月くらいだったかな。」
「うわ~図々しいですね、その女。」
飯塚さんは目を見開いている。別段変なこと言ってないはずだけど?
「かわいい顔してるのに口が悪いな。」
そういって笑う顔は・・・そりゃあ理さんが惚れるのも納得の笑顔だ。
「別に僕が言いだしたことじゃなくて、理さんに無理やり連れてかれたんですよ。文句なら理さんにいってください。」
「アイツの姉ちゃんにも逢った?」
「ええ。そもそもが理さんのお粥が食べたいとか、そんな理由で家に帰ったんですよ。
一筋縄ではいかなさそうな美人さんです。お兄さん、僕はタケさんって呼んでますけど、これまた近寄ったらとって喰われそうな恐ろしい人ですね、これもまた美形。ご両親は真面目で優しいです。
理さんって時たま辛辣だったり厳しかったりするじゃないですか、あれってお姉さんの血です、絶対に。」
「そうか。」
最初コンビニで僕を見下ろしていた恐ろしい顔は何処へやら、頬杖つきながらジョッキを傾ける姿は穏やかだ。たぶん、理さんはこういう飯塚さんを沢山見ているんだろうな・・・そんな気がする。
「武本が落ちてたとき、ひっぱりあげたのは北川なんだろ?」
「・・・さあ、どうですかね。ちょっと考えの方向性を提示させていただいた?な感じですよ。ひっぱりあげたのは武本さん自身です。」
「いいこというな、お前。誰が武本を救ったのかなって気になってたから。」
目の前のあなたが元凶です!なんて言ったら、どんな顔をするんだろう。
「なにを悩んでいたんだろうな。」
「言いませんよ。」
「聞いたところで言わないだろう?」
「飯塚さんに呼び出しくらって脅されて仕方なく話しましたって言えば済む話ですから。
僕に実害はないと思うけど、そんなことしたって理さんが知ったら飯塚さん絶交されますね。
一生口聞いてもらえないですよ?あの人けっこう頑固だから曲げないだろうし。それでもいいなら話ます。」
飯塚さんはものすご~~く嫌な顔をして僕を見ている。だって今言ったこと絶対間違ってないもんね。
「お前・・・面白いな。」
「タケさんにも言われました。別に普通ですけどね。」
「面白いついでに、俺とも友達になってくれよ。」
絶句・・・・。
あまりに楽しそうに笑っているから・・・知らないうちに頷いてしまった。
男前は無駄に笑顔を振りまかないで欲しい!
まったく・・・
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