アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
chapter22 ヤサ男、退路を塞がれる <10月>
-
「武本~ちょっとこい。」
ミーティングルームの前で課長が手招きしている。さて・・・今度はなんでしょうか?
俺と飯塚の企みはまんまと見透かされ、想定外のエンドが組まれた。おかげで毎日多忙を極め、最近は石川、渡辺の二人もすっかり無口になってしまっている。
「飯塚の話と、お前に関しての2点。」
「はい。」
俺に関してって、いったい何があるのか。先の見えない話に不安感が増す。
「まず飯塚。来月に退職の話をオープンにする。離職手続きや年末の段取りもあるし、有給の消化もあるからな。」
「有給・・・ですか。」
「そ、それ。まったく考えてなかったって顔だな~。引き継ぎもろもろもあるし、どのタイミングで有給消化するかは飯塚と話し合って報告をくれればいい。」
「わかりました。」
「外野が騒がしくなるぞ~」
「・・・嬉しそうですね。」
「何事も物事楽しまないとな。」
有給のことは失念していた。アイツは何日ため込んでいんだろうか・・・。またひとつ懸案事項が増えた。
「それと、武本。お前は俺がいいと言うまで退職させないから、そのつもりで。」
「え・・・」
「え、じゃない。飯塚が居なくなって、ちょっとしたら頃合いだとか思ってただろう?」
「課長が言ったんです。」
「なにをだ。」
「タイミングを逃したら一抜けできなくなる、そう言いましたよね。」
「言ったな~」
「だから・・・。」
「じゃあ聞くが、お前、飯塚と何がしたいんだ?」
アイツの傍で、サポートをする。俺はそう飯塚に言った。俺はアイツの横で何をしたいのか?
突き付けられた質問に俺は答えを持っていなかった。
「一緒にいれば何とかなるってか?何~にもならんよ、お互いにな。」
なんでこの人の言う事はいちいちごもっともなんだろう。自分の未熟さが嫌になる。
「飯塚の作った料理をお前がサービスするか?それはできるだろうな。お前ホテルで働いたことあるだろう?」
「そんなこと一度も言ったことありませんよ?」
「確かに聞いたことはない。人間っていうのは言葉にださなくても沢山のことを晒して生きてるわけ。」
この人相手に何を言ったところで勝てそうにない。俺は黙って聞くことにした。
「飲み会で大皿料理がでてくると、お前がさっと取り分ける、サーバー使ってな。両手使っているのは見たことがない、片手でチャッチャとサーブするだろ?おまけにあれはジャパニーズスタイルだ。」
そう、そのとおり。新人の頃からいまだに取り分け係だし、俺はジャパニーズスタイルしかできない。
「土産にケーキをワンホールで買ってきたヤツがいただろ?それもお前が切り分けた。」
「そうでしたっけ?」
「そう、綺麗に9等分にしただろ?8や6に切り分けるのはできるが、奇数の等分は難しいんだよ、一般人には。」
確かにそうかもしれない。叩き込まれたから出来ることなのだ。9等分は12時と5時に切り目をいれて、狭い方は4等分、広い方を5等分。11になろうが12、10でも時計の針で覚えておけば等分にできる。
「ジャパニーズスタイルを使うのは、そこそこのホテル。ケーキの等分もできるからパーティーや披露宴の宴会部門でバイトだろ?」
「恐れ入りました・・・。」
「武本は観察力あるんだからもう少し注意深く様子をみれば、今より色々なものがみえてくるぞ。」
この人の存在を失念しているあたり、俺も飯塚もケツが青い若造だ。
「コックとウエイターが二人仲良く「将来自分たちの店がもてるといいね~。」ってか?それがお前のやりたいことかって話だ。飯塚もお前も男だぞ?そんなヌルイ生活で満足できるのか?
それがお前の望む飯塚のサポートか?」
言葉がでない・・・とはまさにこのことだ。俺は飯塚と何を目標にしていくのか。
ビジョンを持てなんて偉そうに言ったのが恥ずかしくなる。飯塚と一緒にいるのはあくまでも俺の「希望」でしかなく、ビジョンなんてものじゃない。自分の青臭さが鼻につく、くそっ。
「だからお前は俺の下に居ろ。この3年でお前には考えることを叩き込んできた。これからは次のステップだ。楽しむことを教えてやる。」
「楽しむ?」
「そ、楽しくないと退屈だろ?それを追及したら、金が作れる。金があればもっと楽しいことに手がだせる。旨い料理が提供されるだけではつまらない。ビジネスとして成立してこそ楽しいわけだ。委託で学食や社食やってるわけじゃないんだからさ、もっと楽しいこといっぱいありそうだろ?お前はシバリの中でどれだけ自由になれるか、これを身に着けろ。」
ビジネス、シバリ、退屈、楽しい・・・このキーワードが並んでも今の俺はこれをピースにして組み立てることすらできない。俺ってけっこうバカだな・・・。
「能ある鷹は爪隠す。それは自由に飛ぶためだと言っただろ?それだって縛りがあるなかで自由になるためのひとつの表現だ。アレもダメ、こっちもダメ、ダメダメばかりだから何もできない、これだと前進できない。だがな、ダメの裏にはGOが隠れている、ダメをひっくり返してこそ面白味がある。今はわからなくてもしょうがない、でも俺がそれを見せてやる。」
できるかどうかなんてわからないけれど、この人についていけば迷わないことだけは理解できる。
「俺の言わんとするコトがわかるか?武本。」
「・・・はい、十分に。そうは言っても何も浮かびませんけど。」
「飯塚は何か言ってたか?」
「何かとは?」
「このあいだ、お前が部屋を出たあとに俺言ったわけ。武本はやらないからなって。」
「・・・飯塚に?」
「そ、飯塚に。お前に言わなかったのか。拗ねてる飯塚ってのも面白いよな。」
「別段拗ねたような様子じゃないですけどね。」
「ふふん。お前は飯塚と遊ぶことしか考えないだろ?だから二人をばらすことにしたの、俺。」
「いや・・・そう言われても。」
「ま、いいさ。機が熟したら、お前らの楽しいステージがやってくる。」
「とりあえず、課長の敵側じゃなくて・・・よかったです、ホント。」
この人には一生敵わない、でも下にいれば俺は成長できる。そしてそれは飯塚にもメリットになるはずだ。そういうことなら、俺は前を向いて・・・この人と歩いてみよう。
飯塚と同じ仕事じゃなくても、俺にはできることがある!
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
26 / 474