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その2
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土曜日の家事工程をいつものようにこなし、待ち合わせ場所に向かう。街はもう来月最大のイベント「クリスマス」の準備に余念がない。ツリーがあふれ、プレゼント商戦真っ盛りだ。
11月・・・去年の今頃、飯塚の本屋に行くという言葉につきあったこと、その後の誕生会を思い出した。ばかみたいに嬉しかった、あの日。
その後シャツはうやむやになってしまった。12月の忙しい最中に熱をだしたり、落ち込んだりだった俺を前にノー天気にプレゼントな気分になれなかったのだろう。ちょっと残念だけど、どんなシャツをくれるつもりだったんだろうか。
ということは、誕生日・・・時間に余裕もあるし、ちょっとぶらつくか。
<それから1時間後>
待ち合わせの場所には正明しかいなかった。
「理さん~」
無邪気に手を振る正明。お前に嫉妬したところでお門違いなのに、まったくもって情けない。
「飯塚さん、たぶんもう一本あとでしょうね、同じのに乗ってなかったから。」
「遅れるようなら電話がくるさ。それより今日は何の集まり?」
「それはおいおい。」
正明の言うとおり、一本あとの電車でやってきた飯塚が合流して俺達は正明の後ろをついて歩いた。さてどこに連れていってくれるのやら。
「なんでパルコ?」
「ここのレストラン街って学生以来かもしれない。」
どこに連れて行かれるのかと思えば、ファッションテナントビルの最上階。学生の正明主催じゃ仕方がないチョイスだ。
「今16:00ですよ?こんな中途半端な時間に開いてるっていったら、こういう所しかないですよね。友達がバイトしているから気楽だし。」
「それで、うまいのここ?」
「美味しいかどうかは二の次です。立地とこの時間に入れることが重要です!」
そもそも、なんでこんな時間に待ち合わせなんだって話だ。結局ビールと何品か頼んだあと、さあ、話せと言わんばかりの俺達の顔を見て、正明が口をひらいた。
「僕ですね、あのコンビニのバイト辞めることになりました。今月いっぱいです。」
「なんで?長いんだろ、あそこ。」
「居心地よかったから気に入ってたけど・・・なんというか、恋愛のモツレ?みたいな。」
「あの中の誰かとつきあってたってことか?北川。」
飯塚の驚きも納得。そりゃあ、俺もびっくりだ。
「違いますよ。女ですよ、女!」
学生を前にして黙り込む大人が二人。正明の恋愛のモツレ・・・しかも相手が女?
「迷惑な話です。バイト同士とか、その時点で面倒なのに、女子に好きだって言われても困るでしょ?それでダメダメ言い続けてきたけど、シフトはがっつり合わせてくるし、後を尾けられるし、大学にもくるし。面倒くさいから言ったんですよね。あんたが男だったら考えてやってもいいけど、女のあんたを好きになるなんて絶対ないからって。」
「う・・・わ。」
「うわ、じゃないですよ。腹いせかなんか知りませんけど、店長に僕がホモだって言ったわけです。」
「・・・。」
「・・・。」
「僕の働きは評価してくれていた店長も微妙な感じだし。ホモがいるコンビニは客が減るとか言うわけ、その女。周りも店長も僕を腫物みたいに遠巻きに見てる感がヒシヒシです。
こんなにかわいい顔なのにイボとかデキモノ呼ばわりって最低ですよ。」
思い出して怒り再燃の様子だが、さりげなく自分でかわいいなんて言っている。
「それで辞める事になったんで、逢おうとしないとお二人の顔を見られなくなっちゃうわけです。
来月はさらに忙しくなるんでしょ?だから、このタイミングかなって。」
「・・・なんと言っていいものか・・・ちょっとな。」
「恋愛のもつれというか火の粉が大火事になったって感じだな。」
「理さん、僕ね、その火事に油注いで大炎上ですよ!」
「大炎上?」
「その女、この間ヒスって止まらなくなって。女を知らないからだ、私とつきあったら普通になれるのに、とかね。暴言すごいんですよ。まあちょいちょい反撃してはいたんですけど。」
「・・・反撃」
「ケツに突っ込まれたこともないくせに知った口きくな~、とか?」
「『とか?』って・・・そりゃあまりに・・・」
飯塚の言った「かわいい顔してえげつない」がまさに目の前に出現している。町のオアシス・コンビニが俗世の極みな有様だ。
「トドメが『あんたなんか汚い!』ときたもんです。おかしくないですか?
好きな相手に汚いとか、普通言いますか?
涙やら鼻水のグッチャグチャ顔で、どっちが汚ねえのって話ですよ。その顔を触った手で僕の腕つかんできたから振り払ったわけです。」
俺たちは口を挟む気力がなくハイピッチでジョッキの中身が減っていくばかり。
「そしたらね、キイイーーーーって、キイイーーーーーってなったのです。アニメかと思いましたよ。バカバカしくなって笑ったら、ギイイーーーって。
もうこれは口で言ってもダメだなって。だから平手打ちしました。見事に黙りましたね、あれもドラマにありますけど、へえ~リアルに黙るんだって感心しました。」
「正明?お前こえええよ!どんな状況でも女の子殴っちゃいかんだろ。」
「怖いですか?それは顔とのギャップですよ。僕の中身ってこんなもんです。そりゃ、僕だって「普通の女子」には優しいですよ?
でも今回はギイイギイイ喚いていたから、あれは女子じゃありません。
かわいい顔の優しい人と思われるのホントの所は大迷惑、基本ドSだし。
どこの美容室いってもキュートな仕上げばっかりでしたけど、タケさんは違いましたよね、さすがです。」
感心どころが違います・・・
「・・・・俺、トイレ行ってくる。ビール頼んでおいて。」
座っているのが落ち着かなくなって、俺はその場を逃げ出した。
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