アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
chapter24 男前のとある朝 <12月>
-
今日は12月第1週の金曜日。
俺の最後の出社日。
課長と渡辺と3人で取引先の挨拶回りを終えて社に戻る。このあとは送別会と忘年会の合体宴会で俺の役目は終わるのだ。
色々なことがあったような気もするが、結局ここでの出来事の多くは武本につながる。
武本に逢わなかったら、俺はいったい何をしていたのだろうか。
今となっては、アイツがいれば・・それでいい。
物事は随分単純になった・・・
笑い声、料理の香り、アルコール
周囲で起こる様々なこと、沢山の声、色々な顔。
ゆらゆら揺れる人の背中、グラスがあたって鳴る響き。
俺はちゃんと笑えていただろうか。
「いいやつだったよな」と言われるぐらいに笑顔をつくれていただろうか。
『メガトン級のカシ、忘れるなよ~』
課長がそんなことをいって俺をタクシーに突っ込んだところまでは覚えている・・・・
「朝か・・・」
おそるおそるベットから起き上がったが幸い頭は痛くない、胃も大丈夫そうだ。
武本に無理やり飲まされたヘパリーゼの錠剤とビタミンCのおかげかな。
床に点々と転がる脱ぎ捨てられた衣類をみて、昨夜の自分の様子が見えるようだ。よく一人で帰ってこれたものだ、ほんと。
ストーブをつけて水を飲もう。
ベッドからでて厚手のパーカーを羽織りリビングに向かう。引き戸をあけると、そこは暖かい空気に包まれていた。ストーブつけっぱで寝たのか?記憶にない。
とりあえず水だな、台所に向かう途中ソファの前にあるテーブルに視線が釘づけになる。
500mlペットボトルが3本。昨日飲まされたのと同じ錠剤が豆皿にのっている。俺は最期の最後まで、手をわずらわせたってことか?
置手紙が一枚。
紙の横に転がるブルーのサファリ。
北川の言ったとおりになったようだ・・・ま、俺が書いたわけじゃないけどな
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
酒が変なところに入ったみたいだな。
そんなに飲んでないのに潰れてびびったぞ
とりあえず水と薬飲めよ。
ストーブはタイマーにしたからな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「名前ぐらい書けって。これ見られたかな。」
テーブルの上には包丁の箱が載っている。
俺はこれを毎日眺めて、これを貰った時のことを思い出す。嬉しい驚いた、そんな言葉で足りない感動に近いかもしれない。
あのとき俺の心臓はつぶれるかと思った。
武本にぎゅーっと握りつぶされて自分が消えてしまうかと思った。
俺の貯めこんだ5枚のシャツは月曜から金曜まで毎日替えてもこと足りる数だ。武本が仕事に向き合っている時に、少しでも支えになればいい。俺が一緒にいると思えればいい。
そんな考えで、課長のいう首輪的な意味合いがあったけれど・・・器の違いを見せつけられただけだ。
『お客さんとの縁がつながるように』
どれだけ男前なんだ、お前は。
俺はそっと箱の表面をなぞる。俺と武本の縁が切れませんように・・・
毎日眺めて念をこめていることまでは・・・たぶん、ばれてないだろうな。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
31 / 474