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オードブル大作戦②
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武本のアイディアはオードブルだった。
世の中に需要があるのは知っていたが、村崎の反応が鈍かったから手をつけないまま。理由は村崎のイメージがネックになっていたからだ。
「出来あいの惣菜」「既製品」アイツがイメージするそれは、機械的で温かみがなく健康に悪いもの、そういう考えが根底にある。
「添加物や既製品を使わないで「手作り」のオードブルを作ろう。SABUROのオードブルは手作りで美味しい、そういう商品に仕上げればいいじゃないか。」
「お前の家、クリスマスでオードブル食ったことあるか?」
「ない。」
「だろ?」
「いや・・・ごちそうもなかったし。両親別れてるから。」
「あ~。そうだったな、じゃあどうしてたの。」
「俺が作っていた。親父がするわけない。」
村崎の顔を見ると、つまらんことを聞いてしまってスイマセンと書いてある。
思春期の若造でもあるまいし、今更なエピソードだ。
「働くお母さんだって一杯いる。現にそういうお客さんに支えられているだろ?」
「確かにそうだな。」
「最近のクリスマスは家族で過ごす家庭が増えたらしいし、アリだと思う。」
「そうだな、メニュー考えるか・・・」
「ところでオードブルって、何品いれるんだ?」
容器がなければ品数だって決められないし、量がわからなければ原価計算だってできない。器の値段だって必要だ、やれやれ。
パッケージショップに買い出しにいかなければならなくなり、俺と村崎は出かけることにした。
「武本、留守番しててくれるか。」
「了解、あ、行く前に予約帳みたいのある?それとプランとメニューが見たい。
ミネ?ここのテーブルはばらせる?全部つけてもクロスとか問題ない?」
「ないよ~。」
貸切は何人から?プランは最小何人から?時間切りはある?等々など・・等。
村崎は武本の質問の山に答えに答えて、ようやく店をでた。
「サトルって、なんであんな頭まわるわけ?」
「留守中に電話かかってきたら困るだろ?」
「今責任者いないから折り返しま~す。でもいいわけじゃん。太郎はいっつもだぞ。」
「あのなあ、待ちっていうなら来る者キャッチしろ!別の店に問い合わせしてそこでまとまったら、客を逃すだろう?武本はそれが嫌だから、自分でも対応できるようにお前に確認したんじゃないか。」
「なんか嬉しいな。」
「はあ?」
「見ず知らずのSABUROの為に、こんなに心をくだいてくれてさ。俺、サトル大好き!」
「自覚しろ!オーナーとしてもっとちゃんとしろ!」
俺は路上で村崎を怒鳴りつけた。
買い物をすませて店に戻ると・・・北川がいた。
「やっほ~飯塚さん。」
「なんで、お前がここに?」
「理さんに呼び出されたのです。勝手にきたわけじゃありません。」
「正明はお使い兼試食係。」
「そうですよ、もう仕事してきたんですから。」
指差す先のテーブルには、チラシが所せましと並べられていた。
「デパートにレストラン、コンビニ、仕出し屋さん。色々見繕ってゲットしてきました。」
「宣材のイメージにも傾向が必要だし、メニュー決めるにしても比較対象は多ければ多いほどいいだろ?値段も中身もけっこう違うし、和洋中とジャンルもバラバラ。」
「僕は全部食べられるのがいいと思います!」
「え?食べられないもんが入ってるってこと?」
「理さん、食べたことないの?サークルや宅ノミで買ったりしますけど、結構残ります。まず、揚げ物が油っぽい。エビフライの中身は超細身。それとこういうのが一番あやしい。」
チラシを一枚手にとってこっちに見せる。
「色は綺麗だけど、よくみたら食べるものが少ない。緑担当の枝豆はたいてい乾いています。
フライの横にあるナポリタン食べますか?そして野菜が圧倒的に少ない。春巻きも結局ブヨブヨだし。ウィンナーなんてご馳走でも何でもないです。」
「・・・そう言われたら・・・そうかな。」
武本と北川のやりとりを横目に村崎に情報伝達をする。
「あのちっこいのが北川。」
「キタガワマサハル君ね。」
「名前言ったか?」
「いや、サトルが「まさはる」って呼んでたし、飯塚は北川って呼んでいたから。」
北川は自分の名前が耳に入ったのか、こちらを向くと村崎にペコリと頭を下げた。
「あなたがオーナーさんですか?」
「はい『Kitchen SABURO』オーナーの村崎実巳で~
す。」
「飯塚さんの脱サラをそそのかした人ですね。」
北川のかわいいでしょオーラが・・・消え始めている。
「いや、もともとこいつが俺の所にきて見習いの真似事を勝手に始めたの。俺はそれを黙認して~」
「黙認して?」
「最終的には俺の傍にいて!ってスガッたの。これでいい?ハル。」
「いいも・・・悪いも・・・。」
「は~い、俺の勝ち~」
大人気ないとは、このことだ。
「遊んでないで、メニューだ、村崎。」
「あいよ~」
俺の座っているテーブルにどさどさとノートやファイルが積み重なる。
「これは?」
「俺の頭の中。いままでのメモとイメージを書いたりした料理の数々。よし、はじめるか。」
「正明、ちょっとこっちきて。」
「は~い。僕は一生チーム理がいいです!」
俺達は二手に分かれて、オードブル作戦にとりかかった。
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