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オードブル大作戦④
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旨い、旨い、うま~~いじゃなの!
予想以上に旨い、これは自信をもって買ってもらえるレベルだ。一番はしゃいでいるのは正明。そりゃあ、コンビニ廃棄弁当とわけが違う。
「フライドチキン、なんだこれは!ってくらい美味しいですよ!」
「だろ~ハル。カーネルおじさんじゃなくたって作れるんだぜ。」
「この唐揚げ、ブニュってないですね。」
「それが何を意味するかわからんが、胸肉だから脂が少ないんだ。でもパサパサしないだろ?」
お客様がこんな反応してくれるといいな、そんな二人のやりとり。
「飯塚、なんで今までやってなかったんだって話だぞ。もったいない。」
「アイツも一人で悶々としていたんだろうな。手がまわらないっていつも愚痴っていたし。」
「俺、この味付けだったらブロッコリー食べられる。」
「うわ、ムカツク。俺のは喰えないくせに。」
「修業がたりないんだよ、あたりまえだろ?ミネよりお前が上だったら問題だ。」
ガーリックオイルはわかったけど、隠し味かな?このうま味の正体がわからない。ちょっとしたことで嫌いなものでも食べられるって凄いことだ。
「えっと、それじゃ挙手でいこうか。この中から6品、もしくは7品選ぶから。」
「オーナーさん、それだけ?12品もあるのに半分に?」
「そ、だからこそ価値がある。選ばれた料理は自信持っておすすめできます!ってことだろ?」
「僕の意見なんかでいいのですか?」
「ハル「なんか」って言うな。お前の意見が俺は欲しい。わかった?」
「・・・はい。」
ミネは何気にすごいかも。正明に今日あったばかりだというのに手なずけている。飯塚なんか未だに手こずりまくりなのに。
最終的に7品選んで、ミネがそれを容器に盛り込んだ。見た目も豪華だし、これなら勝負できるかもしれない。もっと早くに着手できていれば注文数だって全然違ったはずだ・・・クリスマスまであと2週間と少し。5個でも6個でも注文がくればいいな。
仕上がったあと写真を撮る。ブツ撮りといってもそれほど道具があるわけじゃないので、スポットライトやスタンド、あるもので光をなんとか食わせて撮影した。さっきのラフに写真を落とし込み宣材物が完成。
「正明、これ出力お願い。」
「さっきと同じですか?」
「ファイル名は一緒、ラフ1~3。それぞれページが増えてるから、合計9枚。」
「了解です。」
料理の背景は白と黒、それと店のカラーであるオリーブグリーン。それぞれの色のクロスを写して背景に使ったおかげで柔らかい質感を出すことに成功。
「おおお~。いいんじゃないの?いいんじゃないの!」
「ミネはどれがいい?」
「俺、これ!」
「飯塚は?」
「俺も同じだな。」
「正明は?さっきは写真がなかったからまた違って見えるだろ?」
「でも同じかな、この色いいですよね。料理のバックは白いほうがいいかな。黒は高級な感じがするけど、ここの料理って優しいですよね。お店もアットホームだし。だからこれがいいです。」
「じゃあ、全員一致だ。俺も正明と同意見。」
プロのデザイナーのようにはいかないけれど、気に入ってもらえたようだ。
「データ渡しておくから細かい修正や値段をいれて完成させてくれよ。リーマン必死アイテムのパワポで作ってあるから問題ないだろ?」
「そうきたか・・・。」
「そうくるだろ、ベースがあるだけマシだろうが。」
本来は飯塚の仕事だろう!甘えるな!
「ミネ?たぶん小さいサイズを作って、各テーブルに挟み込みの何かに入れて置くとか、自由にもっていけるフライヤーをレジ脇におく必要があるね。通りから見える位置に貼るポスターもいるし、トイレにも掲示しよう。」
「ポスターどうしようかな、A2ぐらいの大きさはいるよな。」
「1枚2枚だし、セントラルの地下かキンコーズで出力してもらうのがいいかな。若干高くはなるけど背に腹は代えられない。損益のラインがわからなかったから、各品目の原価に容器もろもろを入れた計算表を作ってみたので、使えたら使ってみて。
あとオードブル受注表とか、とりあえずあれば便利かなって書式をいくつか作ったから。」
ミネの手にUSBメモリーを乗せる。
「飯塚をこき使ってやって。これでのんびりされたら俺が課長の人質になっている意味がないから。」
「人質?」
「そ、この男を辞めさせるかわりに俺は会社に縛られたってわけ。」
「・・・なんて言っていいやら・・・だな。」
ミネは俺の手からUSBをつまんで飯塚に投げた。
「鉄仮面は俺にまかせておけ。こうみえてね、厳しいのよ?俺。それと・・・」
ん?
「サトルに今日逢えてよかったよ。なんかすっげ~楽しかったのに、問題がいっこ解決した?みたいなさ。鉄仮面がきてから、俺の周りが動き出した感があるんだわ。それと、あのチビッコ。」
「チビッコ?」
「ハルのこと。俺これからスカウトしちゃう。」
ミネが正明の肩をポンポン叩いた。
「ハル?」
「なんですか?」
「ここでバイトしない?」
「は?」
「は?じゃなくてさ。俺さっき悪いと思ったけど試したんだ、ハルのこと。」
「何をですか?」
「料理を運ばせた。ハルはちゃんと言われたとおりにトレンチを使って運んで、テーブルに置いた。12種類の料理をカテゴリー別に並べた。それもきちんとな。そして取り皿にも気が付いた。俺が一番感心したのは調味料がいるかと聞いたことだ。
サービスの形っていうのは教えればどうにかなるけど、一番必要なのは相手を思いやる気持ちを持った人間かどうかってことなんだ。作り手の俺がどう食べてほしいか。食べる人がおいしく食べるために必要なものはなにか。ハルはそれ、ちゃんとわかってるってことだろ?
俺が目指しているのはマニュアルでどうにかなるレベルじゃないからね。ハルは俺が欲しいと思える種類の人間なんだよ。」
「えっと・・・」
「俺らと一緒に働いてくれない?ハル。」
こんなにアタフタしている正明は、俺がチョコをもらった翌日のあの時以来かもしれない。
目的に向かって動く心地よさ・・・ベースはビジネス。そして楽しい一日だった。
『コックとウエイターになりたいか?』課長の言葉を思い出す。
少し・・・わかったような気がする。小さなきっかけだったけど、今日みたいな事の規模を大きくすれば楽しさ倍増、そして利益が待っている。楽しいことがお金になる。
課長のいう、次のステップ、喜んで乗かってやる。
楽しいを追及したあとの結果か。人質のうちに沢山経験させてもらいますよ、課長!
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