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July 5.2015 ちょっとした転機、いや・・・結構な転機
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「今日お前のとこに行っていいか?話がある。」
助っ人業務を終えて店をでたところで飯塚に伝えた。
課長の落とした爆弾の報告をしなくちゃいけない。
飯塚は「ん?」という顔をする。
飯塚の所に泊まるのは週末のみだ。おもっ苦しい気分の月曜を前にした日曜は家に帰る。
ただでさえ仕事に行きたくない月曜の朝、飯塚が横に寝ていたらグズグズしたくなるのが男心じゃないか。朝から盛っちゃったら大変じゃないか。
少し歩いて電車に揺られて飯塚と一緒に帰る。
俺の1DKの部屋とは大違いだ。こいつは一丁前に2LDKに住んでいる。
もともとは家族で住んでいた物件、両親の離婚後は父親と暮らしていたが再婚によって飯塚だけが住むようになった。管理費と修繕積立費のみでこんな部屋に住めるとは羨ましい限り。
(長いこと通っているから、我が家同然と思うくらいに馴染んじゃってるし。)
ザブンと風呂にはいり、パジャマに着替える。
順番は飯塚が先で、俺があと。俺が風呂から出る頃には、ちょいとしたツマミが出来上がっているわけ。ビールをプシュウ!極楽極楽なのであ~~る。
「それで、話って?」
そんな不安そうにされても困るじゃないか。
前にも増して目が腐っているのは自覚している。俺はこの男前が可愛く見えてしょうがない。
しょんぼりしたり、困ったり、不安そうにしている時はと・く・に!だ。
「課長からお許しがでた。俺10月いっぱいで会社辞めることになったよ。」
「ほんとか!」
とたんに満面の笑顔だ。ここにきてようやく自分も信じることができた。課長が言ったことが本当だってこと、なんせ飯塚がこんなに喜んでいるのだから。
「一課と二課が統合になって三浦課長が統括。課長は総務に引っ込むんだってさ。石川と渡辺に山脇で三羽烏、「ベテランvs若者」の図式らしい。課長が抜けたら俺が担ぎ上げられるだろうから、そうなる前に一抜けだって。」
「案外すぐだったな、もう少しかかると思っていた。」
「俺も。」
テーブルを挟んで向かい合っていたけれど、ビール片手に飯塚の隣に移動した。
飯塚の右手が伸びてきて左手をしっかり握られる。そんな何気ない触れ合いに安堵してコテンと飯塚の肩にもたれた。
「ミネに相談しなくちゃいけないな。雇ってもらえるかどうか、実際人件費の問題もあるだろうし。」
「それは考えてるようだったぞ。さっそく明日話そう。」
社会保障面の福利厚生とかどうなっているんだろ。飯塚にもそのへんの事は聞いたことがなかった。なんとなく金の話って、しにくい。ボーナスなんかでないだろうな、いや違うな。貰えるように頑張ればいいって話だ。
「実際のところ、手取りは落ちただろ?」
「まあ・・・な。」
やっぱりか。
「俺んちの冷蔵庫、最近ブガオ~~~ンってモーターが煩くなってきてさ。これって壊れますよ!覚悟してくださいね!っていうアピールだろ?
考えてみれば姉ちゃんと住んでいた時からだから学生時代に買ったものだしさ。
洗濯機もヤバいかも。こういう物入りな時に限って収入減か。ボーナス使わないでとっておいてよかった。」
飯塚はグラスをテーブルに戻した。こっちを向いて腕を掴むから、俺もグラスを置いて向かい合う。
「ん~、どした?」
「お願いがある。」
思った以上に真剣な顔だった。肝心な時はヘタレ満載になるのに、今は違う。
ちょっとドキっとするくらいの強い視線。それが全部俺に注がれている。
顔に熱が集まる・・・鼓動がうるさい。
「俺と一緒にいてください。ここに引っ越してくれませんか。一緒に・・・暮らそう。」
え・・・。
「今日はちゃんと飯食ったのかな、また白飯と納豆とビールじゃないだろうな。とか
飲み会だって言ってたけど、無事に帰ってきただろうか。とか
顔をみたい、ずっと一緒にいたいと願うのは欲張りだろうか。とか
朝起きて一人だと、けっこう落ち込んだり・・・とか
武本が傍にいなくても考えているのはお前のことばっかり。傍にいないと、前よりもずっと寂しい。
美味しいものを食べさせたい。笑ったり怒ったりしている顔を全部見たい。
俺・・・武本がいないと・・・ちゃんと生きている気がしないんだ。
だから、一緒に暮らしてください。お願いします。」
まず・・・なんっだ、これっ・・は。
「嬉しい」の度が過ぎると、自分の何かが吹っ飛んで丸裸になったみたいになるのか?
今の俺はむき出し、自分を覆うものすべてが消え去った。
目に入るのは、じっと返事を待つ飯塚だけ。
俺に必要なのは飯塚だけだという確信。
あふれる愛おしさ。
俺の身体に沁みこんだ、たくさんの飯塚が零れてくる、溢れてくる・・・。
涙が勝手にボロボロでてきた。ああ・・そうか。飯塚が泣くようになったのは、こういうことなんだ。俺で一杯になって、あふれちゃうんだろ?そうなんだろ?
力いっぱいを腕にこめて飯塚に抱きつく。
「お前が俺を好きになってくれてよかった。飯塚、俺嬉しい・・・。」
首にかじりついて抱きつく俺の頬にキスがおちてくる。
まよわず顔を寄せて唇を捉えた。
顔はきっと赤い。
泣いているから不細工になっているだろう。でもいい、今更だ。
焦れるようにせりあがってくる想いを解放したい。
「飯塚・・・ベッドいこ。お前を感じたい。」
ピキーン、飯塚が固まった。
「でも明日、お前仕事だろ。」
「俺は仕事より愛をとる。」
「あ、あい・・・。」
ブチン
飯塚の何かが切れる音が確かに聞こえた。いきなり引っ張り上げられ、腕を握られる。
俺達はもつれるようにヨロヨロしながら寝室に向かった。
サプライズのプロポーズシーン。
指輪の箱と同時に結婚してくださいと言われて泣きだす彼女。へえ、そんな感激するもんなのか。どこか冷めてみていた俺。
でも、わかった。
これから先、二人に困難がもちあがったとしても大丈夫。
今日のこの気持ちを思い出せば、二人で乗り越えられる。
悔しいけど、やっぱり俺はメロメロだ。
こちらこそ、よろしくお願いします、男前さん。
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