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July 29.2015 必死の実巳を横目に・・・おまけ的な小話
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「どうやら、うまいこといったみたいだな。」
「だね。」
俺と飯塚は二人で厨房の中からホールの一団を眺めていた。
ミネは丁寧に言葉を重ねている姿は新鮮だった。ミネが真剣になっていると効果倍増、軽い営業だと油断していたら完璧なプレゼンをされちゃって頷くしかない的なね。
「正明は母親似だね、そっくりだ。」
「ノンケを落すキラースマイルは母親譲りか?それであの父親がコロっと。」
「それにしても、課長の顔の広さはどこまでなんだ?まさか正明父とも面識あったなんて。」
「おまけに、意気投合っぷりからみて同じ種類の人間だな、あれは。」
ミーティングルームから顔をだした飯塚に手招きされた時のことを思い出す。「ばれた。」と囁かれて背筋がゾワっとしたあの時。
お前の道を切り拓けとか格好つけて、飯塚が辞めても大丈夫なように動き始めた直後の呼び出しだった。時たま要領よく仕事をこなすが、いつも社内にいないし適当。考えてみれば適当に仕事をして穴をあけない訳がないので、ミスなく30年を乗り切ることは大変なことだ。
朝礼で義理チョコ禁止~なんて呑気に言っている課長は「爪隠す」バージョンで本当の姿ではない。
「『お前ら揃って辞める算段しているだろ。』って言われた時のこと思い出したよ。お前は辞めてもいいけど、武本はやらないって言われて頭に血が昇ったこととか。
そのくせあっさり武本を解放して、今は北川確保の援護射撃だ。かなわないな~まったく。」
ああ、まったくだ、全然追いつける気がしない。
たまに考える、俊己さんが生きていて願ったとおり3人でこの店を開けていたらと。そしてすぐに思い当たる。もしそうなっていたらミネは生まれていないかもしれないし、俺達がここで一緒に働くことはなかっただろうと。
会社の同僚として過ごしていたら・・・飯塚とこんな関係になっただろうか。今と同じように互いの気持ちを確かめ合うまでたどり着けただろうか・・・無理だったかもしれない。
課長と俊己さんのようになかった事にして乗り切る、そんな俺達の姿が見えるから。
どうせ向こうからは見えない、俺は手をのばして飯塚の手を握る。
キュと握り返されて胸が温かくなった。
「あのまま会社勤めしていたとする。お前、俺に好きだって言ってたか?」
「・・・・う~ん。どうだろうな、時たま考えるよ、それ。武本が断りきれなくて女と付き合って、そのたびに3ケ月後に別れることを期待しているだけだったかもしれない。そのうち本気で押されて結婚をしてしまう武本の横で指を咥えて眺める男になっていただろうな。」
「やっぱりそうか・・・。」
「武本も?」
「二人で誕生会してその後、俺ポンコツになっただろ?あれは飯塚が好きだって自覚したからなんだ。お前は出張いっちゃうし風邪ひくし、そのまま正月になったりして。
あの時はお前の家に行くのが億劫でさ。」
「なんで。」
「お前の部屋に女の痕跡があったらどうしよって・・・。でも行かないでいると確かめられないから行くわけなんだけど、安心するくせに何時までこんなこと続けられるのかって悩んで落ち込んで。正明が救ってくれたわけなんだけど・・・。
あのまま同僚っていう環境が続いたらバカになって勢いで結婚して踏ん切りつけたりしていそう、追い詰められた俺。」
「この店がなかったら、俺達は別の道を選択して離れていたかもしれないってことか。
よかった・・・俺が村崎と友達で。あいつが親父さんの跡を継いで。」
俊己さんのおかげなのかもしれない。
自分だけが存在しない世界のことを眺めて、あちらからチョイチョイ手を加えたのかな。結果オーライだからそれもアリだね。
「あのさ・・・今5分ぐらいいなくなってもテーブル席の皆さんは談笑中だよな。」
「今のうちに賄いつくっておくか。」
「じゃなくて。」
ん?と飯塚が俺を見る。もしかしたら切羽詰った気持ちは結構な勢いで、俺の顔を変えているのかもしれない。飯塚の顔がポっと赤くなったから。
「裏いこ?ギュってしてくれ、俺もギュウってしたい気分。」
くるっと振り向いた飯塚は裏にむかって歩きだし、器用に前掛けを外して作業台に放り投げた。
だから俺も後を追う。
もしかしたら違っていた道を歩いていたかもしれない自分達に思い当たった。でもちゃんと俺達は横並びで歩いている。
それを実感したっていい。抱き合って「よかった」と安堵することは必要なことだ。
お互いの体温がちゃんと存在していることに感謝したっていいじゃないか。
俺にとって大事な存在だってこと、言葉にしたっていいじゃないか。
沢山の物がつまった背の高いスチールラックが面積の大部分を占めている、2帖ほどのバックヤード。その狭い場所に無理やり入りこんで、しっかり抱き合う。互いの身体にまわした腕はけっこうな力だ。
「一緒でよかった。」
「ああ。」
そのまま5分、無言で俺達は体温と鼓動に安堵しながら抱き合った。
SABUROの存在に感謝しながら。
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