アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
August 17.2015 愚か者現る
-
「ビアガーデン、今年は行けなそうにないなあ。」
札幌夏の風物詩、大通り公園ビアガーデン。
それぞれのビール会社が1丁分のスペースを受け持っている。キリン、アサヒ、サッポロ、サントリー。あと世界のビール。ドイツ村っていうブースもあったりする。
5丁目から11丁目まで全部ビアガーデン。
しかし、北の夏は涼しい。
真夏日で30度を超えた!沖縄より気温が高かった!そんなニュースが駆け巡ることがあるけれど、それはその日の最高気温。午後2時くらいのマックス温度。
日が暮れれば徐々に気温が下がる。30度あったとしても夜になれば25度を下回る事もザラだ。
ジョッキ片手にイエ~~イ!と盛り上がっても2杯も飲めば必ず誰かが言う。
「屋内に移動しますか。」
「だよね、トイレに並ぶのも面倒くさいし。」
気分だけ味わって普通の飲み会に移行、これが定番だ。
飯塚の上りを待てばビアガーデンはクローズしているから、一緒にいけないだろう。
別にビアガーデンに行きたいわけじゃない。
なんとなく外をプラプラするのもいいかな、そう思っただけだ。
俺が夏休みを後半の日程でとったから久しぶりに揃って休日になった。
SABUROの定休日は月曜日。
今検討中なのが、月曜祝日に限り前日の日曜も休みにして連休にしてはどうかということ。
日曜のランチは営業した方がいいんじゃないかという飯塚の意見に、ミネがぐらついた。
俺が日曜の売上と構成をまとめている。データをみれば日曜のランチをどうするかは、自ずと結果がみえるはずだ。
久しぶりに朝から顔を合わせて一日一緒。
たまにはどこかに出かけようか?(せいぜいが街をぶらつく程度だけど)
「武本の荷物整理でもしようか。一気に引っ越しするのもいいけど疲れるぞ。少しずつ手をつけたほうがいいんじゃないか?」
なるほど、それはごもっともだ。街をぶらつくのもいいかと考えたけど、それはいつでもできる。
ということで、二人揃って俺の家に移動となった。
「一番簡単な台所から攻めよう。俺の台所用品で役に立つものってある?」
勝手知った我が家の台所。飯塚はあちこち扉を開け、引出を引っ張りだし、中身の点検をはじめた。
「調味料関係はもったいないから捨てることはないけど、道具は持っていきたいものがほとんどない。
ボウルとザルはプラスティックだからいらない。食器は・・・あいかわらずの品ぞろえだな。」
ふん!大きなお世話だ。
なんでも盛れる大き目のプレートが二枚。小皿が4枚。ボウルが一個(これは茶碗にもなるしスープにも使える。とにかく何にでも対応できる万能君だ)
あとは箸とフォークとスプーンが2組、以上。
よくこれで生活していたと思う。飯塚があきれるのもモットもなのだ。
「それで、これなに?」
若干低めのトーンで質問される。飯塚が持っているのは鮮やかなブルーの大皿。ああ、やっぱりみつけましたか・・・。
みつからないように奥の奥にしまいこんでいたというのに。
「あ~それは~誰かが持ってきた。一回しか使ってないし色が綺麗だから捨てるのもなんだし。」
「ゼクシイ女か。」
うわ、ひどいじゃないの、その呼び方。(当たってるし、ええ里崎さんの貢物です)
「これは不愉快だな、俺達の家に置く必要がない。でも悪いものじゃないから店で使おう。」
うきゃっ、「俺達の家」だって。こそばゆいよね、こういうの。
えへへ。
「鍋とフライパン、これはいらない。そういえば電子レンジないんだな。」
「おう、コンビニだったら温めてくれるし、自分でつくったものを温めなおすなんてありえないから必要なかった。冷蔵庫と炊飯器。あとちっこいトースターで充分。」
「炊飯器はうちにないから持っていくか。冷蔵庫は処分だな、これだろ?モーターが唸りまくって煩いの。」
そうだった、こいつは土鍋や鍋で米を炊く。
俺にはできない技だから炊飯器は必須アイテムになるはずだ。
あっという間の台所整理。もうおわっちゃったし。
スタスタ進んでいく飯塚の後に続く。
いきなりベッドの前で腕を組みだし、思案顔だ。
「ベッドどうすんの。まさか持っていくとか言わないよな。」
「え?持っていくよ、どこで寝ろっていうんだよ。」
そこには唖然とした飯塚が立ち尽くしていた。いや、でも、その、一緒に住むけど一緒に寝るとか(毎晩!)それってどうなんでしょうか。
同じ場所で働いて、一緒に帰ってきて、寝る場所も同じで、あげく目覚めても尚、飯塚・・・。
いや・・・それどうなの。
「だって、そんなずっと顔あわせてくっついていたら、すぐにウンザリがきちゃうかもしれないし。それに喧嘩した時に寝るとこがないって、それはよろしくないと思わないか?」
唖然→しょんぼり→怒り
阿修羅さんとは表情が違うとはいえ、カシャンカシャンと入れ替わるみたいに変わる顔。
これはいけません。
「ちょっと冷静になれよ。」
飯塚の手を握りながら優しく聞こえるように気を付けながら話しかける。
「俺のベッドは小さいから、普段は飯塚の所で寝るよ。でもさ、どっちか風邪ひいたりするかもしれないよな。共倒れは不味いよ、会社時代ならどうにかなっても、一人の役割が大きくなるんだし。
それにお前が風邪ひくってことは身体がシンドイのはもちろんだけど、舌と鼻が利かなくなる。
それって非常にまずいだろ。」
もう片方の手も握る。
「備えは必要だ。もしかしたら喧嘩をするかもしれない、その時にも必要だろ。だってさ、ホテルに泊まったりされたら堪えるじゃないか。寝るベッドが違っても同じ家の中だと救いがあるだろ?
出て行かれたら最後通牒みたいじゃないか。」
握った手をひっぱりベッドに腰を下ろす。
「できるだけ長く飯塚と一緒にいたいんだ。だから色々話をして、お互い納得して一つ一つ解決していきたい。俺はベッド持っていきたい。えと・・その一番の理由は・・・。
誰か遊びにきて寝室が一つしかないとか、なんか猛烈に恥ずかしくない?照れない?
それがミネや正明でも、やっぱり恥ずかしいんだよ。マゴマゴすると格好悪くなるしさ、俺のつまんない自尊心かもしれないけど。」
飯塚はようやく笑顔になった。
いきなり体重をかけられて背中からベッドに沈み込む。おい!まだ話の途中じゃないか!
「かわいい・・・お前かわいすぎて、頭が狂いそう。」
うわ、何気にスゴイこと言ってますよ、飯塚さん。
「なに言ってるんだよ!まだ台所しか終わってないんだから、どけよ。重たいじゃないか。」
「来週から日曜の仕事が終わったらここにくる。いるものといらないもの、その選別だけ暇みてやっておいてくれればいい。月曜に俺がいるものを梱包するから。運べるものは運んでおく。」
上半身を少しだけ起こして、頬に手が添えられる。
「できるだけ早く一緒に暮らそう。」
あああ・・・だめだ、この無駄に男前。
俺のこと大好きだって顔で、どうしてそういうこと言うの。これに堕ちない人間がいるなら教えてくれ!
承諾の替りに添えられた手のひらにキスを一つ。
自然に重なる唇。
「俺達・・・相当なバカップルじゃないか。」
「恋愛とは二人で愚かになることだ。ポール・ヴァレリーがそう言っている。」
首に腕を巻き付けて近くなった耳元に囁く。
「じゃあさ、ここに来た目的を忘れて、二人で愚か者になろうか。」
降りてくる熱を帯びた視線。
抵抗できるはずがない。
「飯塚・・・早く一緒に暮らそうな。」
飯塚を感じるために、俺はゆっくり目を閉じた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
74 / 474