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すずさんのお仕事 3
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昼休憩の指示、数字の報告、集客データのまとめとチェック、商談のフォロー、情報取り、グッズ売り場のチェック。
やらなくてはいけないことはワンサカある。昼だって弁当の立ち食いで味わっている暇もない。
ペットボトルのお茶で飲み下しながら考える。
あああ、ラグーのパスタが食べたい!実巳君に「すずさ~~ん」って呼ばれてホンワカしたい。
しかしここは遠く離れた大阪。いくら札幌に思いを馳せてもあまりに虚しい。
弁当の立ち食いはさらに虚しい。この幕の内がパニーニだったらいいのに!
「鈴木さん!俺にはよくわからないですけど、男性二人連れが来ました。」
「わかった、すぐ行く!」
食道あたりでつっかえて、胃袋に落ちる事を拒否している幕の内のおかずをゴクンとお茶で飲み下して手早く化粧を直す。来たわね、男子二人組!
正木にマークさせているお客様の種類は複数あるけれど、この男子二人連れというのがミソ。
扱っている商品ゆえか、結構いらっしゃるのだ。カップルの男性二人組が。
そして彼らの購入率は高い。
彼らのハートをぐっと掴むスペシャリストがいるのです、その名は塚マネージャー。
会場に戻る途中、彼らとすれ違った。ニコニコと楽しそうに話しながら商品を見て指をさしたり、驚いたりしている。
しばし観察・・・。うむ、これはたぶんカップルさんです。
何故わかるのかと正木によく聞かれる。何故だかわかる、なんというか距離感かな。
友達同士とは違う互いの立ち位置があるのよね、微妙な差が。
くるっとUターンして会場に急ぎ足で戻りマネージャーを探す。商談中だったけれど、目くばせするとテーブルを立った。
「顧客?」
「いいや、たぶん当たりだとおもう。20代男子二人。」
ニヤリとする塚マネージャー。彼女は会場内に入ってきた二人を見て頷いた。
「だね、あれは私がつくからフリーにしておいて。今クロージングかけてもうちょいだから、決まればすぐ抜けるね。三村じゃ覚束ないから、契約記入のときフォローお願いするかもしれない。」
「問題なし、支払いは信販?カード?」
「たぶんカード。」
「了解。ちなみにあの二人DM、2回目の来場。兵庫から来てる。」
「2回目ね。いい頃合いだわ。」
「そういうこと。」
買ってくださいと言ったところで、誰も買ってくれない。商品の価値を説き、生活に必要であるという付加価値をつけ、様々な提案を繰り返して契約につなげていく。それは相手によって様々なわけだから、少しずつ情報を引出して適切なトークをぶつけていかなければならない。
彼女はズバっと切り込むから気持ちがいい。コミニケーションをとって穏やかな空気と信頼感が生まれはじめるとサラっと聞く。
「それで、彼氏さんとはよく出かけるの?」
相手は一瞬ひきつるけれど、向かい合うマネージャーは当たり前のようにニコニコしているから毒気がぬかれるのだろう。
ポツポツと自分達のことを話しだせば、ほぼ契約につながる。
「お財布の紐はどっちが握っているのかな?」
「・・・あ、俺です。」
「そうなんだ~。一緒に住んでどのくらい?」
「1年とちょっとです。」
「いいねえ。ちなみに私は別居中。」
「え?マジですか?結婚してたんですか。」
「そ、一応ね~。このままいくと「一応」すらなくなりそうだけど。あはははは。」
といった具合にカップルやご夫婦と同じ対応をしながら、彼らと打ち解けていくから、見ている私も楽しい。
客の見極めと伝達は私と塚マネージャーの「ゴールドライン」と呼ばれ、他の営業が羨ましがる。
別に対応できるなら誰にでも任せるんだけどね、そういうわけにもいかない。
顧客になった彼らは展示会の度に会場に遊びに来てくれる。
近況報告をしながら再度購入してくれる場合もある。
購入しない時でも追い返すわけにはいかないので、その際のおもてなしは私の役目。
持ってきてくれた写真を見せてもらったり、話を聞いているといつも思う。
幸せの形は人それぞれで、同性だろうとなかろうと、日々を大切な人と送ることにこそ意味がある。
仕事におわれる毎日で出張にでてしまえばほったらかしになる自分のパートナーの事を考える切っ掛けになったりするから、彼らと話すことはとても大事。
今晩電話しようかな。
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