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octber 30.2015 Hallowe'en
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「ミネさん、ハロウィーンは何か特別メニューとかするのですか?」
10月の初め、ハルにそんなことを言われて、あ~そういや時期的にそんなだなと思いだす。
日本人として、日本独自のしきたりとかイベントごとにどんどん疎くなっているというのに、海外の催しをもってこんでもいいじゃないか!と言いたい。
古代ケルトに由来する祭りらしいけれど、親父の代から特になにもしてこなかった。
暗黒の12月を控えて、本格的に憂鬱度がます10月の最後の日に、仮装したり飴くれ~と言ったりする気分ではない。
「特に何もないよ。かぼちゃ食べるなら日本人は冬至に食べろって話だし。「トリック・オア・トリート」と言いながら近所を練り歩くなら「ロウソクだせ、だ~せ~~よ。」があるじゃないか。」
「ミネさん、冬至は12月20日すぎですよ?かぼちゃを振る舞う余裕なんかない時期ですからね。
せっかく秋になって栗かぼちゃが美味しいのに。
僕なんか実家でてから食べたかな・・・っていうぐらいです。スーパーでかぼちゃ買ったことないし。」
「なんだって?あんなに栄養ある野菜をか!βカロテンが豊富だし、粘膜にいいビタミンA,疲労回復ビタミンB。ポリフェノールも食物繊維も豊富だ。和でも洋でもスイーツでも使われる万能君だぞ。
それを買わないとは・・・。ちなみにβカロテンは脂溶性だから、油と一緒にとって吸収力UP!」
「どうやって食べろと?煮る?できませんって。」
焼いたり炒めたりはできても、煮物になればハルには無理だ。ということは料理をしない女子達もかぼちゃを買って食べる頻度は低いということか・・・。
「あのですね。去年ぼっちゃんかぼちゃのグラタンなるものを食べたのです。小ぶりのカボチャがくりぬかれて中にかぼちゃがゴロゴロしたホワイトソースとチーズで、味も悪くはなかったのですが。」
力いっぱいのしかめっ面のトア。おいおい、どうしちゃったの。
そのグラタンがどうかした?
「ジャックオランタン的に顔がついてました、かぼちゃに。上は切られてまして蓋になっていたわけです。」
ありがちじゃん。よくあるよ、そういうの。見たことある。
「でもですね・・・。食べている途中で、なんかこれジャックの脳みそ食べているのか?という気分になりまして、なんだかそっからもう食べる気がしなくなったというか。
『インディージョンズ/魔宮の伝説』みたことあります?もてなしの席でサルの頭がでてきて、脳みそ食べるの!あれ思い出しちゃって。以来その店に行っていません。」
ハルは自分の一言がサルの脳みそにまで発展したことに言葉を失っている。
たかが一皿、されど一皿・・・意外なところでお客さんを失っちゃうって言う怖い話だよ。
まさにハロウィーン。
ハルはペコっと頭をさげて言った。
「ですね。南瓜をくりぬいて顔をつくる時間があるなら、もっと他にすることがあるって事です。
SABUROにハロウィーンはいりません!4種類の豆と北あかり、南瓜のグリルサラダ。あの料理がありますからジャックもトリックも飴もナシで!」
ふ~~~ん。かぼちゃね・・・・。
・・・・・・・・・・・・・そして10月30日・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お疲れさま~。」
サトルがラストオーダー間近に店にやってきた。
今日は10月最後の平日、サトルが会社と切れる日でもある。有給消化でとっくに送別会も終わっているというのに、2課の連中というか若手二人のたっての希望で軽く飲むというのは聞いていた。
帰りに寄って衛を拾って帰ることにするさ、そう言っていたから、飲み会も終わってここに来たってわけだ。
一組、また一組。ポツポツと客も帰りはじめ、後片づけをしながらボンヤリ考える。
1年前は飯塚が休みの日だけ来て手伝いをしていた。
サトルにはまだ逢っていなかったし、もちろんハルのことも全然しらなかった。
オードブルをやるなんて考えてもいなかったし、トアみたいな歳上さんがスタッフになるなんて考えもしなかった。そういえば太郎がまだ働いていたな。
そう考えるとすごく不思議な気持ちになる。
飯塚が来るようになって俺の生活が少しずつ変わって、たくさんの出会いを得て今がある。
今年は暗黒だろうが、なんだろうがいつもよりも前向きに12月を迎えられそうだし、楽しい時間が増える予感もある。
昔からなんとなく仲間意識が薄いことは自覚していた。別に群れなくたって自分の面倒は自分でみるさ、そう考えていた。
でも最近は少しだけ変わったと思う。
助けを借りて、意見を聞いて、自分で考えて提案して・・・。
そうやって精査している一つ一つの事柄がとても大事に思えるようになった。
可笑しいや・・・少し大人ってやつになったのかな・・・俺。
22:00を回って店はクローズになった。後片付けを終えて最終チェックをしたあと、帰ろうとする皆を呼びとめる。
「ちょっとさ、渡したいもんがあるんだ。」
なんだろ?な顔がこっちを見ている。用意していた物をコールドテーブルの奥からひっぱりだし、ホールに運んでテーブルに置いた。
「えええと、このあいだハルとトアでハロウィーンの話しになっただろ?覚えてる?」
とたんに顔をしかめる二人。たぶん頭の中ではサルの脳みそが浮かんでいるはずだ。
(結局ハルはトアにDVDを借り、サルの晩餐シーンを目に焼き付けたらしい。)
「それで、トアがカボチャのグラタンを一生食べられないってのはマズイだろ?うちでメニューにしたら売上増どころかトアにサル話でもされて客のオーダーが激減しそうだしね。で、はいこれ。」
袋の中身はキャセロールにはいったかぼちゃのグラタンだ。
「一気食いもいいけど、冷凍できっから。好きなチーズ乗っけて焼いて食べて。俺のグラタンは旨いからもう二度とサルはでてこなくなるはず。」
あまりに予想外だったのかトアが袋を受け取ったまま固まっている。うわ~とか、あざ~す、とか何か言ってくれな気分。無言ってなんだか恥ずかしいって。
「まさか・・僕のために作ってくれた・・・ですか?」
日本語変だよ、外国人ですか?
先を急ごう、早く帰らないと明日も仕事だしね。
「んで、これはハルの。」
ケーキ仕様の紙箱を渡す。ちょうどショートケーキが4つ入るぐらいのお手頃サイズ。
ハルはそろそろと受け取って俺の顔をじっとみた。許可とらなくても開けていいのに。
「開けてみな?」
大事そうにテーブルの上に箱を置いて、そっとあける。
ハルに作ったのはかぼちゃのパンナコッタ。自分でかぼちゃを買わないなんていうから、栄養満点のおやつにしてやった。
「俺の個人的な好みなんだけど、プリンよりパンナコッタのほうが口当たりがよくて好きなんだよね。
もちろんかぼちゃタップリだけど、生クリームと牛乳で美味しく食べられる。
ハルは甘いもの好きだから、小腹減った時に食べられるものがいいかなって。」
ハルは好きな男にはそんな顔しちゃったりすんの?てなぐらいのかわいい顔だ。嬉しそうで恥ずかしそうで、でも嬉しい!なね。やっぱりハルはかわいいじゃないの。これがキモかったら、マジで世界の大部分がキモイ族だわ。
さて、最後はバカップルだ。
「晴れて退職おめでとう、これからもよろしくってことで二人にはコレ。」
ワンホールケーキが入るくらいの紙箱。なんせ二人分だし。
腕組みして片方の眉だけあげて俺をみているのは鉄仮面。『いつの間にこんなこと仕込みやがった?』と言っている声が聞こえるよ、いつってね、いつの間にかだよ~~。
サトルはびっくりと、幸せそうに表情を緩めた後、キリっとひきしめて箱を受け取った。
やっぱりキリっとなるわけね、さっすがです。
「かぼちゃとベーコンがはいったケーキなんだけど、ケークサレ的な甘くないのにした。
ワインのつまみになるから、それ食べながら二人で乾杯するといい。」
「いや・・・てかミネ、なんで?今日なにかあった?」
「何かって何もないけどさ、サトルは明日から正式にSABUROのスタッフだろ?ハルはかぼちゃを自分で買ったことがないっていうし、トアはかぼちゃのグラタン=脳みそっていうヒドイ状態なわけ。
俺は日本人だからかぼちゃったら冬至なわけだけど、冬至の日にかぼちゃに向かい合える自信がないのよ、残念ながら。
でもあと2ケ月は死んだ気になって頑張ってもらわなくちゃいけない。冬至は風邪ひかないようにってかぼちゃを食べるだろ?だからハロウィーンに便乗して、かぼちゃを提供して、皆元気に乗り切りましょう!っていう俺なりのみんなへの配慮?みたいなもんだよ。
たいしたもんじゃないから、それ食べて頑張ってくれればいいかって。」
最後には皆が笑顔で再度お礼を言ってくれた。
トア→もう大丈夫です!かぼちゃグラタンがメニューになってもガッツリおすすめできます!
ハル→僕は同年輩の人間といるのがつまらなくなって困っています。またハードルが上がってしまった
わけで・・・なんだか僕の恋愛と友人関係が暗黒になりそうです・・・。
サトル→やっぱミネは格好いいよね!衛はこういうスマートさがないからさあ。ありがたくいただくね!
飯塚→いつか仕返ししてやる。さらっとこういうことやりやがって・・・・まったく。でもありがとう。
別に高いものじゃないし、手間だってさほどかかったわけじゃない。でもなんかこっちが嬉しくなる、そんな夜だった。
ハロウィーンも・・・悪くないかもね!(コスプレは絶対しないけどね~)
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