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april.28.2016 感謝祭がやってくる
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「5/2は休むよ。雪まつりと違うし、GWは市内の人口が減るからさ。去年の日記を見てもGWは鈍いもんね。」
村崎の宣言でGWの谷間である平日の月曜日は休みになった。ビジネスマンが休みということは中心部の人口が減るのは間違いない。花見や公園にでかける人のほうが多いだろう。気温が上がり桜が咲いたとなれば、出掛けるのはコンクリートの街ではない。
地方から来る人間は土日と祝日にシフトする。5/2に休みをとっている場合は長期の旅行を選択するはず。
最近の忙しさから考えると、やはり休日は有難いし無理をして開店させることはないだろう。
理は俺の前に座り、読んでいた本を取りあげた。
「あっ!」
「ちょっと話があるから、本は後。」
心持ち小声で理はそう言った。なんの話しだろう。
「あのさ、5/3は何の日かわかる?」
「5/3?憲法記念日だろう。」
理はやっぱりな・・・という顔をした。間違ったか?いやそんなはずはない。
「なんで長い付き合いなのに忘れるわけ?ミネの誕生日じゃないか。」
「ああ・・・だったか。」
「もう、だったか~、じゃないよ。」
言っちゃなんだが、村崎と長い付き合いかもしれないが、あっちだって俺の誕生日を忘れていた。そもそも女子じゃあるまいし、何の日だとか記念日は重要じゃない。俺にとって理との記念日だけが重要で、他はどうでもいい・・・という程度だ。
「ちゃんと祝ってあげないと。ミネあってのSABUROだぞ?俺達の生活の基盤じゃないか。そのオーナーのお祝いをしないっているのはどうかと思うな。」
「まあ、一理ある。」
「まったく、何が一理だよ!真理で、真実で、あたりまえの事なの。」
村崎の事になると一生懸命がUPするように感じるのは俺だけだろうか。例の腹を見たいと言ったときと同様、俺は心が狭いのか?
ふうと深呼吸していったん自分を落ち着かせた。
「それで?」
「なんだよ、それでって。」
「理のことだ、もうプランニングしたんだろ?俺の役回りは?」
理がニッコリと笑う。正解をもぎ取るなんてお手のものだ。理に関して俺は透視能力がある。さすがにこれは言い過ぎか。
「正明と相談したら、いつも作っている側の人は作ってもらえたら嬉しいかもしれないって言うんだよね。衛もそう?俺が何かお前のために料理を作ったら嬉しい?」
「嬉しい。あのお粥の味は忘れられない。」
玉子と味噌、カニ缶。首筋で熱を測られて焦ったことを思い出す。今の二人の形になるなんて想像もしていなかったあの日。そしてシャツを買って溜め込むきっかけになった日でもある。
「皆それぞれが料理を作ってプレゼントするのがいいかなって。欲しい物ってわかんないだろ?トアみたいに明確だと簡単なんだけど、ミネの趣味は何気にハードル高そうだしさ。」
村崎の趣味?・・・考えたこともない。料理以外、何を趣味にしているのだろうか。
「それでSABURO的感謝祭なつもりでターキーがいいと思うんだ。本家の感謝祭とは時期がまるっきり違うけど、いいことにする。」
「スタッフィングして?」
「スタッフ?なにそれ。」
「腹の中に詰め物をする。芋や香味野菜、パンや米を入れる場合もあるが、俺は好きじゃない。パンがグジュグジュになるし、米は柔らかすぎる。じゃが芋、人参、蓮根といった根菜系と豆類を香味野菜で炒めたものがいいと思う。ブラックオリーブくらいなら入れてもいいかな。」
理は想像だけで涎をだしそうに口元を緩めた。目がキラキラしている。俺はこの顔に弱い。この顔で皿を見詰めて一口食べた後の「うまい!!」を聞くと、なんともいえない良い気持ちになる。
「店でするのか?」
「いや。定休日に店内でスタッフが宴会しているのって、お客さんが見て気持ちいいものじゃないよね。だったら店開けろよって俺なら思う。会場はミネの家にしようかなって。でもターキーは店で焼く。そして衛はミネとこれに行くのはどうかな。」
テーブルに置かれたのはDMで食器メーカーの展示会だった。ちょっと覗いてみようかと村崎と話をしたばかりだから、月曜日に誘っても怪しまれることはない。
「その間に準備をするってことか。」
「そういうこと。衛はターキー。俺はお粥を作る。」
「お粥?」
「だって俺のレパートリーそれしかないじゃん。トアはパスタと魚肉ソーセージ。正明はサラダと、なんだっけな、イタリアン肉じゃがとか言ってたような。」
「イタリアン肉じゃが?」
「俺が予想するにじゃが芋のトマト煮的なものじゃない?」
「まあ・・・そこらへんが無難な予想だな。それにしても理のお粥が浮きまくりじゃないか?」
「玉子味噌にはしないよ。中華風にしちゃおうかな。ネギたっぷりでゴマ油。」
何味にしたところで、ターキーの横にお粥がある時点で不釣り合いであることに変わりはない。でもそれしかレパートリーがないのが現実だったりする。テーブルの上に並ぶ数々の皿の中で、ひとつ異彩を放つお粥があっても・・・いいのかもしれない。
「バカ衛。なに想像してニヤついてんだ?どうせ、俺のお粥がチープすぎる姿を想像して笑ってんだろ。わかってるよ、俺だって。だからディップもつくる。」
「クリームチーズの?」
「おう、クルミをローストして、柔らかくなったクリームチーズにまぜて、シナモンふってメイプルシロップだろ?おいしいバタールと一緒にだす。」
「じゃあ、お粥はいらないだろう。」
「・・・たしかに。」
何事もソツなくこなす理でも苦手分野はある。その一つが料理。完璧な人間なんていないからそれでいいと思う。とはいえ自信を持っているレパートリーが場にそぐわないのは残念だ。
最初のテンションは何処へやら・・・がっがりしている理をどう慰めようか。
「あのディップは旨い。パンともワインとも相性ばっちりだ。絶対皆喜ぶ。」
「でもあれは衛のレシピじゃないか。」
「レシピが誰のだっていいじゃないか。料理は誰かのレシピをたくさんの料理人が作っているんだぞ?
食べてもらう相手を想って作れば立派にそれは理の一皿だ。」
「そうかな・・・。」
じゃあ、ここで本心を言う事にする。下手な慰めや同情よりも、本音によって慰められることのほうが多い。
俺はそう常々考えている。
「俺は正直お粥を作って欲しくない。」
「なんで?」
「なんでって・・・俺だって一度しか食べたことが無いんだぞ?それも随分前に、たった一度っきりだ。
熱でぼ~としているときにな。」
「あ~そうだったね。」
「ベストコンディションの人間に振る舞うなんて安売りはしてほしくない。あれは俺のものだ。」
「は?」
「俺を気遣って作ってくれた、あのお粥は腹に沁みた。味だって覚えているし思い出として俺の中で大事にしまってあるんだ。だから俺が具合悪くなるまで封印してほしい。」
一瞬キョトンとしたあと理は柔らかく微笑んだ。
マグカップに添えていた手の甲に指を伸ばす。中指と薬指で触れた肌は温かく気持ちがいい。
「それに、理の役目は料理じゃないだろ?適材適所、やるべきことを出来る人間がする。理は村崎の誕生祝いの会を仕切ればいいじゃないか。俺にはできないし、トアや北川だって無理だ。それはお前にしかできない。だろ?」
「・・・衛は優しいな。」
「理限定だけどな。」
ツルツルすべる肌にずっと触れていたいところだが、あまり度がすぎると不味いことになる。あと20分で動き出す時間で、家に帰る時間はない。
「さてと、じゃあ村崎にデートの申し込みをしてくるよ。」
テーブルの上に置かれていたDMを掴んで立ち上がる。
「衛?」
「ん?」
「やっぱりお前は最高。俺は幸せものだ。」
くそ・・・キスしたいじゃないか!!
理は行ってこいというように俺の身体をポンポンと叩いた。座ったまま俺を見上げる顔は心なしか上気しているように見えてドキリとする。
「今日は片付けをさっさと終わらせて一目散に帰ろう。」
「ああ。」
「晩酌もすっとばそう。」
「賛成。」
「じゃあ、ミネを口説き落としてきて。」
村崎がボンヤリ座っているテーブルに向かいながら考えてしまった。
四六時中一緒に過ごしている環境は嬉しくもあり・・・時に拷問に成り変わる。
ふうう・・・・。
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