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may.2.2016 12:17 衛
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「村崎、なんなら座っていていいぞ。」
「んん~~じゃあ、30分後ここに集合。」
俺達は店用の器をあれこれ物色しながら、こういうメニューもいいかもしれない、あんな風にしたらもっと華やかになると思う、などと言いながら会場内をくまなく回った。よさそうな器がいくつか見つかり購入の手配や発送の日時の確認などを終わらせると時計は昼を過ぎていた。ターキーはそろそろ焼きあがる頃だろう。あと最低でも1時間は引き伸ばさなくてはならない。
「30分か・・・選ぶのに30分。プラス手配の時間が欲しい。」
「しゃ~あないな。じゃあ俺も何か探すか。」
これだけ色々な器があるとワクワクする。店には分厚いカタログもあるが、やはり手に取って重さを確かめたり、実際の色を見られた方がずっといい。手ごろな大きさのキャセロールが欲しいし、深皿が何枚かあってもいい。和テイストの大皿も捨てがたい。
これは完全に自己満足の世界で、果たして新しい皿に料理を盛り付けテーブルにのせたとき、理は気が付くだろうか?いっそのこと気が付くこと間違いなしの皿を選ぼうか。
目に止まったのは真っ赤な大皿だった。平皿ではなく浅い鉢のようなフォルムがいい。これなら煮込みを盛り付けてもいいだろう。豪快に焼いたステーキもいい。真っ白なマッシュポテトを付け合せにしたら映えそうだ。
大皿を3枚と深皿を2枚。目についた細々したものを加える。
立て続けにメールが入り確認すると一通は北川だった。
『ターキー無事焼きあがりました!トアさんとこれから運びます。厨房の後片付けもバッチリです。』
「帰りつくのは1時間弱後ってところだ。」返信してからもう一通のメールを開く。思ったとおり理だった。
『言われたとおりの手順でディップ完了。パンの厚みはバラバラになったけど切っちゃったしどうしようもない。飲み物調達してくる。正明はこっちに向かってるってメールきたから。』
「了解。」返信。二人分のパンなら目立たないが5人分をスライスすれば・・・まあ、誰もそれに文句は言わないだろう。感謝祭だし、そんなつまらない事を言う奴はSABUROにいない。理は一足先に村崎の家に行って台所を拝借している。一番時間がかかることを見越してのスケジュール。トアと北川が到着したあとトアが2品作り、ターキーは北川が盛り付ける手筈になっている。
いい加減にしないと村崎が不機嫌になってしまうだろう。急いで手配を済ませて集合場所に戻ると、村崎がボンヤリ立っていた。
「悪い、遅くなった。」
「いや、大丈夫。家に帰るだけだし。」
「休みの半分以上がつぶれてしまったな。」
「だ~~な。でも必要なことだしね。カタログで選ぶよりずっと楽しいし、アイディアも沸くから機会があればまたこようぜ。さてと帰るか。ハルは帰ってきているかな。」
今頃は家だろうと言いそうになってぐっと飲み込む。うっかりばらしてしまうところだった。取り繕うため、村崎が右手に持っている袋を指差す。
「何を買った?自宅用?」
「あ~これ?ハルに土産。」
お土産?器を?
理に何か買っても「へえ~。」しか言わないだろう。俺の「器・読書」のロマンは今までも、これからも共感されることはなさそうだから、村崎が少し羨ましい。
「帰ってきてるかなって、北川外出してたのか?」
知っているくせに聞く。俺が噛んでいることがバレたら台無しだから、あえての知らないふりだ。
「いや、外出じゃなくて外泊。」
うちに・・・泊まった。朝一緒に店に行った。全部禁句だ。
「そうか、珍しいな。友達とたまには逢うことも必要だろう。」
「まあ、そうなんだろうね。俺、最近誰とも逢ってない、考えてみたら。飯塚は?」
「言われてみたら、俺も逢っていない。飲み会に誘われても行けないし。まず時間が合わないだろ?」
「そうだよね。海外ドラマみながら缶ビールでいいやって感じ。適当にハルを構っていると面白いし。」
「それはわかる。理をわざと怒らせるのが結構楽しい。」
「あはは、惚気かよ。」
出口に向かいながら俺の頭の中には「?」が浮かんでいる。
同年代の友人と飲むより、北川を構ってビールのむ時間のほうがいいってことか?
俺が理といるのが一番いいと思うのと・・・なんだか同じような言い方じゃなかったか?
まさかな。
人懐っこい北川が弟みたいに可愛いってことだろう。
あれ?
北川って人懐っこいか?・・・ちょっと違う気がする。
でも村崎には懐いている、間違いなく。
「他人がとやかく言う事じゃないし。」
「ん?なんか言った?」
「いや、なんでもない。」
フニャっと笑う村崎はいつもどおりだ。「なかなか、あったかくならないね~~。」とノンビリ言う横顔を見ながら、心の中でもう一度繰り返した。
『俺達がどうこう言うことじゃない。』
今日は感謝祭だ、思い切り食べて飲もう。
そして心から祝ってやろう。
それが俺達の役割で、村崎に贈るプレゼントなのだから。
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