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may.2.2016 1:28pm SABUROのThanksgiving Day
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くそっ、腹減った・・・。飯塚のヤツ昼飯くらい付き合ってくれてもいいのに。何が「理が待っているからな。」だ。どんだけ色ボケしてるんだ!鉄仮面のくせに。おまけに「割れ物持って寄り道するな。」ときたもんだ。でもまあ・・・それは確かに言えてるって事なので、とりあえず家に帰ることにした。帰ってハルがいたら揃って出かけて蕎麦でも食べるか。そして買い物して常備菜作って、ビール飲んで・・・おお、今日はアレをみないと。「NCIS」と「NICS:ニューオリンズ」のコラボ企画前編後編。ニューオリンズの検視官やっている女性。トアが言うには映画『バグダットカフェ』に出ていた女優さんらしい。今度借りる予定だから実際に見て確かめよう。
そんなことをツラツラ考えながら道を歩く。5月になったけれどすんなり春にならず、一昨日は雪が降った。みぞれが降っているのに、円山公園で花見していた根性のあるグループがニュースに映っていた。
俺は無理。寒いの嫌、温かいの大歓迎。蕎麦やでクイっとビール飲んじゃおうかな。
ようやく家についてエレベータに乗る。
「ん?」
何かの香りがする、それもいい匂い!って言いたくなる種類の。
家に近づくにつれ、その匂いが強くなるような気がするけれど・・・ハルが帰ってきて何か作ってくれているのかな。だとしたらめちゃめちゃ嬉しい。俺は今盛大に腹ペコ大魔王だから。
鍵穴に鍵をつっこんで開錠。玄関には靴が2足・・・ハルは下駄箱にしまうから、もしやハルの友達?でも俺に断りもなく他人を家にあげるとは思えないし。そして間違いなくいい香りの正体は俺の家らしく、リビングから何やら人の声と笑い声がする。
ちょっとイラっとするよね、こういうの。
俺は朝からツマンないって感じているし、休みだけど仕事をしてきた。これから買い物だっていかなくちゃいけないし、そのあと料理をしなくちゃいけない。ハルの頭をワシャワシャすれば気が紛れるかもしれないと思っていたのに、俺の知らない誰かが俺の家で笑ってるって、どういうことかな。
ほんと・・・どういうことだよ。ああ?
【ピンポーン】
これで宗教の勧誘だったら優しくお断りすることは無理だ。ドアスコープから覗くと、さっき別れたばかりの飯塚が立っている。
なんで?
イラっとしたまま、宗教の勧誘よりはマシかと思いながらドアをあければ、飯塚が「よお。」と入ってきた。
「何してんの?忘れ物?なんか用事あったなら電話よこせよ。」
「なにイラついてるんだ?らしくもない。」
「腹減ってるし、疲れたし、これからまだひと働きしないといけないのに、いきなり知らない人間が俺んちにいればイラっともするだろ。ハルから連絡なかったから余計にな。今けっこうイライラしてるわけ。んでなに?用事は。」
「ちょっと台所貸してくれ。勝手がわからないから一緒に。」
ブチンとキレるかわりに一気に脱力した。なんかもうどうにでもなれ!靴を脱いで台所にいくとボウルに液体があった。ハルなんか焼いた?
「鍋はどこ?」
「シンク下。」
飯塚はしゃがみこんで扉をあけると18cmのソースパンをとりだし火にかける。こした液体にコンソメと水を少し入れてワインらしきものを注いだ。煮詰めた後バターを落す。材料持参で何してんの、いったい。
「このソースいれる器、貸してくれないか?」
半ばヤケクソな俺は白い陶器の器を飯塚に押し付けた。飯塚は俺の顔を見てやけに優しい顔で笑うから毒気を抜かれる。ムニュっとほっぺたを摘ままれて、らしくない行動に全身が固まった。
「そんな顔するなって。」
飯塚は何もなかったように後片付けを済ませると湯気のあがっている器を持って言う。
「じゃあ、行こうぜ。」
「どこに。」
「リビングだろうな。」
「あっそ。」
飯塚はどんどん廊下を進みリビングのドアを開けた。
「おかえりなさ~~い!!」
聞きなれた声に出迎えられて、俺は一瞬何がなんだかわからなくなって混乱する。リビングに足を踏み入れれば、そこには理とハルにトアが立っている。飯塚が振り向いて一言言った。
「一日早いんだけど。」
「えっ?なにが?・・・あ!!」
「お誕生日おめでとうございます。」
ハルがニコニコしながらそう言った。かなりイラっとしたあとの真逆の現実に足の力が抜けてフニャフニャになった。
床にしゃがみ込んだ俺は情けない声しかだせなくて・・・。
「何やってんのよ・・・俺知らない誰かをハルが家に連れ込んだと思って、結構腹立って。」
ハルが俺の向かいにしゃがんだから俺達の目線が一緒になる。
「ああ~あ。僕信用されてませんね、がっかりです。僕がそんなことするわけがないでしょう?ミネさんに断りもなく誰かをこの場所に連れて来るなんて。」
「現にしてんじゃんか・・・。」
「あ、ほんとですね。でも今日は許してください、ミネさんへの感謝の気持ちを込めた誕生祝いの会です。
全然気が付きませんでした?」
「ん・・・気が付かなかった。」
情けないまんまの俺を顔を見てハルが笑った。心が軽くなるようなそんな笑顔。そして俺の髪がハルによってワシャワシャにされた。
「いつものお返しです。」
ハルは立ち上がって俺に手を伸ばすから、それを握った。よいしょと引っ張りあげられてソファの後ろに近づいてテーブルを見た俺は今日何度目かのビックリをするはめになった。
「ちょっと・・・これいつ焼いたのよ。いつ仕込みしてた?俺全然知らないんだけど。」
「さあな。」
何が「さあな。」だ鉄仮面!!
「それで昼飯の誘い断ったのかよ。理がどうしたとかこうしたとか言って。」
「そりゃ、そうだ。これ朝の8:00から焼いていたんだぞ?」
「だってお前俺と一緒だったじゃん。」
「北川がオーブンの番兵をしてた。ついでに言うと、朝早いから俺のうちに泊まったというわけだ。」
お泊りって・・・お泊りって飯塚のとこ?ちょっと・・・もう・・なんなのよ。
「文句は言うな、言うなら理に言ってくれ。仕切ったのは理だから。」
テーブルの真ん中には大きなターキーがどんと鎮座している。トマトクリームのペンネがあって、なんだかわからない炒め物?がある。あと不揃いにスライスされたパンとディップらしきもの。
「じゃあベタに歌いますか。」
理の一声で超ベタな『HAPPY BRITHDAY TO YOU~~』と合唱がはじまって、嬉しさがどんどんこみあげてきて、ついでに結構恥ずかしくて、なんだか感動もして・・・色々ごちゃごちゃになった。
あの日泣いちゃったトアの気持ちがわかりすぎるほどで、いっぱいいっぱいな俺はどこにこの感情を持って行っていいのか解らなくて・・・困って・・でも嬉しくて・・・皆が笑っていて・・・だから笑顔を作る。
ちゃんと皆の気持ちに応える笑顔になっているだろうか?
自信がない。
パチパチと拍手をされて、またもやハルにひっぱられてテーブルの前に座る俺。
飯塚とトアがビールをグラスに注いでくれて全員に渡る。
「ミネ、ありがとう。そして感謝が一杯なんだ。ミネのおかげで俺はここにいる。衛と一緒に毎日が楽しい。それはミネが頑張っているからだし、俺達も頑張っている。いや頑張れているって言う方が正しいかな。パンのスライスがガタガタなのは許してくれ。ディップのレシピは衛のだけど、俺なりの精一杯で仕上げたから。」
え・・・なんもできないじゃん、理。それなのに作ってくれたってこと?
「もお、そこまでビックリされると逆にキズつくな~~。味見したら美味しかったから大丈夫だよ。」
「・・・ありがとう、理。」
「理の言うとおり、村崎の所に遊びに行っていなかったら、今の俺達はなかったかもしれない。そして今充実した毎日を送れているのはSABUROという場所を村崎が必死に守ってきたからだ。高校生の時ビシソワーズ持ってきてくれてありがとう。」
「コソコソしやがって!こんなでかいターキー隠しやがって!」
「ミネさん、おめでとうございます。そしてありがとうございます。高村さんの誘いで伺った最初の日から僕はSABUROが大好きになりました。そして今は風俗の広告文じゃなくって、映画の、僕の大好きな映画のブログを書けることになった。僕が電波に乗っている現状はいいのか悪いのかよくわかりませんが、僕の人生が変わったのは事実です。僕を受け入れてくれて、映画の見る目も持っていて・・・ミネさんは最高です!ペンネはDVDを見ながら食べられる便利パスタです。ガシガシフォークで刺せばいいですから字幕を見逃すことはありません。あとチマっとした炒めものは魚肉ソーセージのケチャップ炒めです。略してギョニケチャ。ターキーの横で恐ろしくチープな姿を晒していますが、いいつまみです。なんだか僕みたいですね・・・あ、長くなりそうなのでここでやめます。」
「トア、ありがとう、マジでビールの泡が消えそうだ。」
「ミネさん。僕は感謝の気持ちしかありません。もちろんおめでとうも。でも本当の誕生日は明日だから、僕が朝いちばんにおめでとうを言えますね。僕はミネさんに出逢えてとても幸せです。これからもよろしくお願いします。ちなみに僕はターキーの焼き番と盛り付けを担当しました。」
朝いちばんのおめでとうかよ、こんにゃろ、可愛いこと言うじゃないか!
返事の代わりに頭をワシャワシャしてやった。
「はいグラス持って~。ミネおめでとう!かんぱ~~~い!!」
理の乾杯の音頭でグラスを一気に呷る。すきっ腹にビールがどんどん沁みていくのが心地いい。そして旨い、北海道の地酒、ビールは最高!!!
「姿勢が不安定。うまくいくかな。」
理は立ち膝の姿勢でナイフを持つとターキーに刃を入れた。ももを切り分け、手羽を落す。胸肉に切り込みを入れていくと、中に詰めたじゃが芋や豆がいい具合になっている。
「ミネはどこが好き?」
「俺?胸肉。」
皿に胸肉と詰めた野菜がのせられた。こういうサーブはできるのに、なんでパンのスライスができないのかよくわからん。理って意外性があって飽きないよな~。
トアは理の横に座って俺をパシャパシャ撮影中だ。肉を切ってもらうシェフの図か、なんだか間抜けじゃないか、それ。
ハルは俺の横で理をパシャパシャしている。チームホールの晴れ姿か?どっちが主役かわからないじゃないか。
「大いに食べて飲みまくろう!!」
「衛、ワイン持ってきて。栓あけておいたから。」
「ビール取ってきま~~す。」
「ハルさん手伝いますよ。」
「じゃあついでにワインボトルも持ってきてくれ。」
なんだろう、俺って実は最高に幸せな男だってことか?
明日皆で選んだプレゼントくらいはあるかもしれない、そんな程度にしか思っていなくて。たぶんハルが帰宅後に誕生日しましょうか?くらいは言ってくれるかな・・・だった。
でも皆が俺に知られないように何日も前から準備してくれていた。玄関を開けた時の不機嫌とイラつきはもうどこかに行ってしまったし、フワフワした気持ちが心地よくて・・・色々沁みこんでくる。
ターキーの柔らかさも、喉を滑るビールの冷たさも、全部全部俺のもので・・・ここにいる皆のもので。
俺って・・・ほんと・・・幸せものだ。
滲む涙を誤魔化しながら噛みしめる。
俺はちゃんと生きている、生きていられている。この気持ちを大事にしよう。
皆とSABUROと俺を・・・欲張って全部大事に生きていこう。
俺はそう固く心に決めた。
END
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